第五話 派手な母と地味な父
家に帰った私を待っていたのは母だった。
「例のジジィと会ってたんでしょ~?詳しく教えなさいよ!!」
事前に事情を話し遅くなると連絡を入れておいたのが失敗だった。母は好奇心で爛々と目を輝かせている。仕方なく簡単に説明する。無視するという選択肢もあったが母にへそを曲げられて夕食が梅干しとポップコーンになってはたまらない。よくわからないがこのメニューには母の本名梅子から「梅子怒ってる」の意味合いが込められているらしい。
丸田氏の話を聞いた母は案の定大喜びだった。
「超面白そうじゃないなんで受けないのよ!?しかも三億円よ!?パパの給料何百年分よ!!」
無事創造された生姜焼きとポテトサラダを並べながら母が騒ぐ。
「50年分だ。」
父お得意の地味ツッコミである。私も老人に対しこうすべきだった。後悔とぶれない父への尊敬を抱きながら食事に手を付ける。母は私が老人の申し出を拒否したことがよほど不満らしくあれやこれやと考え直すよう説得してくる。娘の顔が心配ではないのか、それとも大金に目がくらんだのか、いや母はいつもどおりただ面白がっているだけなのだ。こんな時の私の対処法も決まっている。
「パパはどう思う?」
無口で地味な父の意見は殆どの場合私と同じだ。それも私が言えば角が立つところを丸くおさめてくれる。しかし今回ばかりはどうやら違うかったらしい。
「受けてみてもいいんじゃないか?」
父の答えは意外なものだった。私が呆然としていると父は「それドコで売ってるの!?」という地味界騒然のこれでもかという地味メガネをくいっと上げ話を続けた。
「マルボウさんと言えばその業界じゃ第一人者だろう?数々の新しい手術方法を日本に持ち込んだと聞く。そんな方の手術がタダで受けられると言うなら一度くらい受けてみてもいいんじゃないか?」
父の発言に母は狂喜乱舞した。おそらくほとんどの人は狂喜乱舞している人というのを見かける機会は人生で数回だと思う。しかし私は数十回は見ている。母はおそらく生まれ持っての狂喜乱舞体質なのだろう。そんな母という油に火を付けるのが父なのだ。この二人の意見が一致してしまった以上私に逃げ場はない。
「ほぉら見なさいよ~!!パパの言うとおりよ~!!ハーッハッハッハ!!さな!!そのジジィ明日連れてきな!!ママ特製のコーンスープ作ってあげるわ!!」
感情をとうもろこしで伝えようとするのはやめてほしい。娘にすら伝わらないのだから。
「ねぇパパ冗談でしょ?知らない年寄りが娘の顔いじるんだよ?どんなんなるかわからないじゃん。究極の美とか言って江戸時代の春画みたいな顔にされたらどうするのよ。」
「落ち着きなさい、パパは言っただろう、「一度くらいは」と。おそらく一度の手術ではそれほど変わらない。少し可愛くなるくらいだろう。そこで思ってたのと違ったとかこれ以上は怖いと言ってやめさせてもらえばいいんだ。」
…なるほど。さすがは父。地味な上にケチで賢い、さらに娘にもうちょっとくらい可愛くなってほしいという願望まで叶えている。確かに理屈としても納得はできる。できるけれど…。
「もう断ったことだから。またあの人が来たらその時に考えるよ。」




