エピローグ2 究極の美女の安住の地
以前初めての手術が終わった後だったか、3億円の使い道を試算した。あの時はこんな事になるなんて思いもよらなかった。残念ながら地味であろうが美人であろうが私は結婚とはご縁がないらしい。
であれば必要経費はぐっと減り、子供に使うはずだったお金と男に騙されるはずだったお金が不要になる。自宅購入に必要な費用も郊外の一戸建てから辺鄙など田舎の古民家に変わったのでこの2つだけでも1億近く浮いている。
だからこそねこんと出会えたり家具を買い直したりすることができた。今の試算であればこれ以上お金は必要ない。
だが今の私は仕事をしている。PCとネット環境さえあればできる在宅ワークだ。会社とのやり取りもメールだけで済む。もちろん収入は微々たるものだが今の私には貴重なものだ。でも必要なのはお金じゃない。仕事にはもっと大事なことが含まれていることに気づいた。
ただ引きこもっているとどうしてもメンタルがやられてくる。このままでいいのか?そんな自分に対する疑問と寂しさに押しつぶされそうになる。私がもっと明るい性格だったならこの見た目を活かした仕事を見つけられたのかもしれない。だが私にはそれはできない。
異常なまでに愛されるこの見た目は犯罪者製造機とも言える。そんな中で隠れずに生きることはできない。
今の仕事はネット上のデータ整理だ。そこまでPCに詳しいわけではないが高校である程度教わっていたし時間の有り余る私が仕事を覚えるまでにはさほど時間はかからなかった。この仕事の何よりいいところはPCの隣に鏡を置いておけることだ。究極の美女をチラ見しながら仕事ができるというのはある意味究極の職場環境だろう。
「にゃぁ。」
私が鏡を見ているとこたつから顔を出してくる。私から見ればねこんの美しさは究極の美女レベルだ。
在宅であろうと仕事が終われば、お疲れさまでしたやありがとうございますと言った挨拶メールを交わす。それは定型文ではあるが確かに人とのつながりが感じられる。学校であれだけしつこく挨拶するよう教えられた意味がようやくわかった。
こうして社会との関わりを持つことが人間には必要なのだ。挨拶とは、社会を円滑に回すための歯車たる私達をきしみなく回すための油のようなものだ。
そうして仕事をすることによって私は本来の地味女の自分を取り戻しつつある。人と会わないからというのもあるだろう。周りの影響を受けなければ変に自信をつけることもない。そして孤独と退屈はねこんが癒やしてくれる。
メンタルの落ち着いた私は仕事以外でも時折チャットやメールで会話することがある。相手は両親のこともあればネット上の知らない誰かのこともある。その場だけの関係。それが私には心地いい。
両親も離れていることによって徐々に以前のように戻ってきている。ただ電話をすることはしない。私の声は究極の美女の声なのでまた二人を惑わすかもしれない。
いろいろなことがこの一ヶ月で安定してきた。私は結果的に地味な自分に戻りつつあることをとてもうれしく思っている。この家から一歩も出ず仕事以外はだらだらとテレビを見ては必要な家事をこなす私は、この見た目さえなければどこにでもいる在宅ワーカーのようではないか。
時折宮下くんの事を思い出す。進路は進学と言っていたから今頃大学生だろうか?宮下くんならきっと楽しいキャンパスライフを送っているに違いない。いろんなサークルに誘われて、合コンやイベントも多いだろう。可愛い女の子だってたくさんいるに違いない。
そういえば宮下くんはテニスが得意だったしテニスサークルなんてチャラい大学生の代表ではないか。女の子をとっかえひっかえ何股もするような人にはなってほしくないけれど、まぁ今の私ができることもない。もしかしたら私という究極の美女を見たせいで他の女の子を好きになれなくなってはいないだろうか?
それは嬉しくもあるが私の本意ではない。彼が幸せになってくれればそれでいい、とまで言えるほど気持ちの整理がついてはいないが私のことはもう忘れてほしい。もしかしたらここまで追いかけてきてやっぱり付き合ってほしい。なんて妄想をしないわけではないがやはり現実的には無理なのだ。
こたつで丸くなったねこんを抱き寄せる。冷静に考えて今の私は宮下くんどころかもう誰とも付き合ったりはできないだろう。なにせ人に会うと狂わせてしまう。映画にも遊園地にも公園にすら行けない。結婚となれば親への挨拶だってできない。一緒に生活していたらそれこそ相手がどうなるかわからない。
「先生、究極の美女はなかなかに不便だよ。」
そうつぶやくとねこんが大きな欠伸をした。なにを言ってるんだといわんばかりだ。




