エピローグ1 春宮ねこん
私が究極の美女になってから半年が過ぎた。すでに祖母の元を離れ三度の引っ越しをしていた。瀬戸内の島から沖縄の島、東京の離島を経て今は北海道にいる。
島は人は少ないが海風が肌に良くないし日差しも強い。私の美には大敵な環境だった。今回は逆の発想で人口密度の低い地域にやってきたというわけだ。今ならネットで何でも買えてしまうし宅配ボックスを使えば配達の人とも顔を合わせずに済む。
祖母の元にいた頃、同じ様に宅配で物を買ったらその配達人がその日一日中家の周りをぐるぐるしていた。おそらくもうひと目私の姿が見たいということだろう。最早サングラスくらいではどうにもならない。
ここに来てはや1ヶ月。ついに私は安住の地を得た。この場所はそもそも周りに人が居ない、郊外を大きく離れたど田舎中のど田舎だ。いるのは野生のキツネやリスくらい。
私が住んでいるこの家は元々老夫婦が暮らしていたそうだが、すでに亡くなり売りに出されていた。値段は非常に安かったがすぐにまた引っ越してしまうならとも思った。とてつもなく辺鄙で周りに誰も居ないこの場所は環境的には最高だったが不安もあった。それは不動産業者だ。顔を知られれば付きまとわれる可能性がある。私を祀る宗教もご神体である私を探しているらしいし、どこから情報が漏れるかわからない。
私は業者と直接顔を合わせないよう、こっそりこの家を下見した。家の周りにはなにもないけど道があるなら宅配が届かないということはないだろう。建物は昔ながらの日本家屋で北海道という土地柄なのかちょっと広すぎるくらいだ。一人暮らしに二階は必要ないし庭だってなくていい。というか外すべてが庭のようなものだ。建物自体は築数十年は経っているそうだが何度かのリノベーションでそこまで古くも見えない。
1階だけでも和室が3つもあり、キッチンは古くて使いにくいがどのみち大した料理もできやしない。出前を頼むのはもしもの自体があるから不安だけど、今なら具材だけ送って作れる簡単料理の宅配やレトルトだって美味しいものがたくさんある。それでも時々はオリジナル料理に挑戦しよう。ただ濃いだけと思っていた母の味が今は懐かしい。
お風呂場は大きいしトイレも綺麗。何より非常に安いときたら、数度に渡る引っ越しに疲れていた私が購入を決めるには十分要素が揃っていた。
念の為声が変わるアプリを使った電話で不動産屋に連絡し、この家を購入した。今の所なんの問題もない。電気やガスを使えるようにするため工事の人が来たが、私は怪我をしているという理由で顔を合わさずはんこも自分で押してもらった。
以降はほぼ引きこもった生活をしている。そもそも寒いから外に出たくないし誰とも会わずに済む。
私の家は物が少ない。必要なのは姿見だけ。とはいえこの姿にも慣れてきた私はゆったりとテレビやD∨Dを楽しむ余裕もできている。
おっと大事な事を忘れていた。今の私には家族がいる。こたつで丸くなっているのはロシアンブルーという種の猫で、その名を「春宮ねこん」という。
美しいアッシュの毛並みと深いブルーの瞳に一目惚れだった。一人の生活に寂しさを感じていた私は北海道への引っ越し前にペットショップへ向かった。何を飼うか決めていたわけではなかったが出会ってしまったのだ。当然店内は私への視線とひそひそ話でいっぱいになってしまったがどうせ二度と会わない人たちと思えば気にならなかった。それよりもねこんのことで頭がいっぱいだった。
じっと私を見つめてくる瞳。私の美しさは動物たちにも伝わっているのだろうか?騒いでいた周りの動物たちも一斉におとなしくなりこちらを見ている。そんな中ねこんは私を見ても動じない。
「美しさなら私も負けてなくてよ。」
とでも言っているようだった。私は即決キャッシュでねこんを連れ一目散に店を後にした。本来なら店員さんにしつけ方や飼い方の説明を受けるべきだが人と関わると何が起きるかわからない私はそれができない。どのみち私が目の前にいてまともな説明ができるとも思えないためその足で大量の猫飼育本を買って引っ越した。
ちなみに私が持ってきたのはその本とねこんだけである。なぜなら引越し業者を呼ぶことができないからだ。
私の家を知られたくない。業者に執着されてしまったら引っ越す意味がない。だからこっちに来てからネットで色んなものを買い揃えた。私は寝たきりのおばあさんという設定で大きいものはあらかじめどこに運ぶかを伝え、またも声を変えた電話で誘導する。病気が移るかもしれないと言えば誰も近づいては来なかった。
これが私がこの半年で覚えた処世術だった。




