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究極の美女の幸せ  作者: 森しゃおこ


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第四十一話 究極の美女のその後


 訪れたのは瀬戸内の小さな島だった。この島には母方の祖母が一人で暮らしている。私のルーツとなる地味な生き方をしてきた女性だ。



最初は東京に行こうかと思っていた。しかし時が経つうちにその考えは薄れた。いくら自信がついたとはいえ根っこの部分はメンタル弱めの地味女の精神が残っている。私のSNSには異常者としか思えない人々からの崇拝文が乱立、それとは真逆の殺害予告も珍しくなく、私はようやくこの美の力を理解した。そして恐れた。人々はすでに狂気と化し始めている。愛と憎しみは表裏一体。好きだからこそ支配したい、そういった感情は確かにあるのだろう。私の美は否が応でもそういった人の深層の感情を刺激してしまう。私は目立ってはいけない。この地味さのかけらもない姿を隠し地味に生きなければならない。



この島に来てから私は外に出る時はサングラスとマスクにマフラー、帽子を決してかかさない。私という存在は争いを生む。どれだけ隠しても美の力が溢れてしまうのもわかっている。長く同じ場所にはいられない。


祖母はすでに私を春宮さなだとは理解していない。当然だ、わかるはずがない。一切面影がないのだ。

若者は皆お年寄りをおじいちゃん、おばあちゃんと呼ぶ。なぜ自分の祖父と祖母を呼ぶ特定の呼び方がないのだろう。祖母ーと呼んだところでおばあちゃんは理解してくれない。





私は究極の美を手に入れた。代わりに家族と友人、好きな人、自分の居場所を失った。けれど後悔はしていない。あの頃に戻りたいなんて全く思わない。私のこの姿は先生が切望し私が受け入れた結果奇跡的に生まれた芸術。


先生の話してくれた究極に一番近かった美女。彼女がなぜ死を望んだのかは今の私にもわからない。だが以前より明確に想像することはできる。私と同じ様に周囲の視線にさらされ孤独を味わっていたのだろう。そんな中唯一の味方となる男性がいたのではないだろうか。しかし彼も所詮彼女自身を見ていたわけではなく彼女の美の力に惑わされていただけ。それに気付いてしまったんじゃないだろうか。




理解はできる。だが私がそうなる心配はない。それもやはり彼女と私の美の力の差だ。





自室に戻り帽子とサングラスを外す。小さな和室には似合わない大きな姿見。鏡に映る自分を見る。




「綺麗…。」



 うっとりとした言葉が漏れる。その声色すら美しい。完璧なプロポーション、人の心を射抜く吸い込まれるような瞳、醸し出す圧倒的オーラ。見惚れてしまう。何時間見ても飽きない。一日中でも見ていられる。鏡を見るだけで魂が震える。




これが私!!究極の美女!!二度と昔のようなみすぼらしい姿になんて戻りたくない!!この美しさは神!!すべての人間が私を讃え跪くのは必然!!誰よりこの美しさの虜になっているのは他でもないこの私なのだ!!



当然だ。手を見ても足を見ても非の打ち所がない。しみどころかくすみ一つない。ただの肌色とは全く違う芸術的に配合された黄金率の肌色。神の調合によって作られた関節、筋肉の調和が至高の曲線を描いている。



私は今、食事や最低限の買い物の時間以外一日中鏡を見ている。こんなに楽しいことが世の中にあるはずがない。何十億払っても見られない究極の絵画が私が動くたびに別の絵画に切り替わるのだ。そしてそのどれもが究極の美の絵画。それらを独り占めしじっくりと鑑賞することができる。


 他人との関わりなんて必要ない。友人も恋人も理解者も必要ない。この高みを理解できるわけがないのだ。もし先生が生きていたら別の角度からの考え方を教えてくれたかもしれない。でもそれすらも今の私は必要としていない。必要なのはこの大きな鏡。ただそれだけ。



この島に来た時携帯を解約した。一応祖母の家に電話はあるが連絡してくる人は誰もいない。それこそ私の望んだ状態。むしろそんなものに時間を取られるのはマイナスでしかないと思える。


古い箪笥の上に置かれた写真に手をかける。そこには笑顔でクリニックのスタッフと肩を組むマルボウ先生が写っている。



私は先生に感謝し語りかける。




「先生、私は今が一番幸せです。」



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