第四十話 究極の美女の告白
手紙を読み終えてポケットに仕舞う。風が気持ちいい。屋上は普段立入禁止だが私が入りたいと言うと用務員さんは大急ぎで鍵を取ってきてくれた。
初めて見る屋上の景色はなかなか悪くない。長年暮らしてきた街だったがこんな風にパノラマサイズの風景を見ることはなかった。
待つこと10分、待ち人は現れたようだ。
私は今日ここにこの街を去るにあたりどうしてもけじめを付けておかなくてはならないある人物を呼び出した。
「春宮さん…僕に用って?」
驚いたような警戒しているかのような顔で宮下くんがやってくる。いつもの制服が屋上の強風に煽られ、サラサラの髪もたなびいている。
緊張する。宮下くんも緊張しているようだが私の方が絶対に緊張している。これまで生きてきて初めて私は好きな人と向き合う。いつだって諦めていた。うまくいくはずがないと舞台にすら上がらなかった。でも今は違う。諦めてはいるけれどそれでも舞台に上がるのが今の私だ。
「ずっと前から大好きでした。私と付き合ってください。」
宮下くんはずっと私の支えだった。彼に自覚があるはずはない。けれど地味女だった時もイケイケ女子だった時も究極の美女になった今もずっと私の心には宮下くんがいる。私がきれいになったら宮下くんはどう思うのかな?付き合えたりするのかな?手術をし一番私が楽しかったのはそんな事を考えていた時間だった。見つめているだけで幸せだった。話せるようになってもっと幸せだった。そして今、どう転んでも一緒にいられないのはわかっている。なぜなら宮下くんは普通の人だ。もし私が生まれつきの究極の美女なら相手にもしなかっただろう。けれど私はどれだけ変わろうと春宮さななのだ。宮下くんが好きな春宮さななのだ。
宮下くんは一度ごくりとつばを飲み込んでから一気に言った。
「何言ってるんだよ!!君は僕なんかとは違うんだよ!!僕なんかと付き合っていい人間じゃないんだ!!本当は僕なんて君に近づくことすら許されない!!君は世界を変えられる人間なんだよ!!」
宮下くんが私を見つめている。燃えるような眼差し。 強く握られた拳。けれど私が欲しかった言葉ではない。私はどんな返事を望んでいたのだろう。僕も好きだよ付き合おう?それがありえないことはわかっていた。期待もしていなかったはずだ。では何を?きちんと振られたかった?それも違う気がする。究極の美女を振るほどの力があるはずがない。ではこれが予想通りの答えなのか?…わからない。ただその時私の口から出たのはたった3文字の肯定だった。
「…そうね。」




