第三十九話 手紙
拝啓 春宮さな様
君がこの手紙を読んでいる頃には恐らく私はもう生きてはいないだろう。どうか気に病まないでほしい。手術で無理をしたというのはないわけではないが私は元々長くはない命だった。だからこそ人生で死ぬまでにやっておくべきこと。やり残したことをしたい、そう考えていた時に君と出会った。運命だと思っている。君には感謝しかない。
だからこそ私は君に謝らなければならない。
今君はつらい思いをしていると思う。究極の美…聞こえはいいがそれはそう生易しいものではない。その存在を巡って戦争が起きる。そういうレベルだ。こんな小さな町には留まれないだろうし人に理解されることもない。時間が経てば経つほど孤独に脅かされるであろうということは容易に想像がつく。
私はそれがわかっていながらキミに伝えなかった。自分の欲望を優先してね。それは紛れもなく罪だろう。私を恨んでくれて構わない。以前に戻りたいと思っても私にはもう何もできない。
だから今こそあの3億円を遠慮なく使ってほしい。なにもしなくても一生暮らしていけるくらいの額だ。
究極の美女は一箇所にはとどまれない。周りが放っておいてはくれない。どんな街にも怯えるだけではないある程度の力を持つものはいる。そういう者たちはより明確に君を恐れる。恐怖とは危険な感情だ。そのとてつもないストレスを解消するために君を排除しようとする者もいるだろう。無論君の美を崇拝する者もいる。彼らは争う。君の気持ちとは関係なく、君の知らないところで。
心の奥深くに入り込みそのことしか考えられなくなる。君の美は魔性の力なのだ。だから本当に申し訳ない。私も以前は華やかな世界に出れば美を最大限に生かせるのではないかと思っていた。だがそんなレベルではないのだ。もし映画にでも出ようものなら君の美は見た者を完全に虜にし多くの崇拝者を生む。崇拝者たちは毎日その映画を見続け日常など送れない。君を少しでも悪く言う者がいれば迷わず血祭りにあげるだろう。そんな廃人たちを増やしてはならん。
だからこそ私は望む。君には何処か人の流れがある程度遮断されるような小さな島で静かに暮らしてほしい。これは私の勝手なわがままであって強制することはできない。君の姿を元に戻してあげることができない私には君の生き方にこれ以上口を挟む権利などないのだ。だからこれはお願いだ。願わくば君が人々の争いに巻き込まれぬよう、静かに幸せに暮らせるよう。
最後にもう一度だけ言わせておくれ。
私の夢を叶えてくれてありがとう。
丸田坊市




