第三話 美女の才能
「美しくなりたいと思う女性は多いが皆何処かで妥協しておる…。究極の美の高みに辿り着こうという者はほとんどおらん!!無論全くおらんわけではない!!じゃがそういうものに限って才能がない!!」
熱のこもった弁舌をする丸田老人、やはり基本的には熱いお方だ。
「才能って…結局はもともと綺麗な人じゃないとそこまで綺麗にはならないってことですよね。地味な女が整形したところでそれなりにしか…」
「そうではない!!もともと美しいかどうかは全く関係がないのだ!!」
丸田老人は彼なりの美容整形の真髄ともいえる考察を教えてくれた。
「ホクロや二重手術くらいなら大した影響はないが、顎を細くしたり額を狭くしたり顔の造形そのものに手を加える場合、どこかをいじれば必ず別のどこかに影響が出る。
要はもともと作られていた自然なバランスが崩壊するのじゃ。だからといって別のどこかをいじって調整すればまた別の場所に影響が出る。その繰り返しじゃ、
無論顔だけではない、体のどこかをいじればどこかに影響が出る。それが自然の摂理じゃ。じゃからどんなミスコンにもハリウッド女優にも究極の美といえる者はおらん。皆どこかのバランスが崩れておるからな。
私が言った才能とはここにある。ワシのクリニックでは整形してバランスが崩れた際にバランスを調整する手術も同時に行う。そうすればより自然に近い美しさが出せるからの。そのおかげでうちはここまで大きくなったといっても過言ではない。じゃがそれとて完璧ではない、どこまで自然な状態に戻せるかは人によって違う。それこそが才能。そして君は…」
老人が私の目を見る。今まで見たどんな目よりも熱く魂がこもっている…ような気がする。
「君こそが私が見つけた20億人に一人の整形向き女性なのだ!!」
ビッと私を指す指先は僅かにプルプルと震え老人の力の入り用が伝わってくる。
「君ならばどれだけ手術しようと完全に自然な形に調整できる!!そういう骨格!!肉付きなのだ!!肌の色とて深いところで内臓や血管の色の影響を受けている!!君はそこすらも完璧!!無駄な筋肉もなくストレスもないのだろうその自然な輝きはまさしく神の与えたもうたもの!!整形しない事こそ神に弓引く行為!!かかる費用はすべて私が払う!!どうか我が宿願!!究極の美の創造に協力してもらえまいか!!」
ズザァッという大きな音を立て老人は頭を下げた。もとい、土下座である。ハゲ上がった後頭部は真っ赤になり彼の本気が伝わってくる。だが、それはそれ、これはこれだ。人の体を好きに弄らせてくださいというお願いなのだこれは。
私は今の見た目に未練があるわけではないが整形なんてしたら目立ってしまうではないか。出る杭は打たれると古来から言われている。目立つことは危険なことなのだ。
「困ります!!そんな事言われても…」
老人の熱意を疑うわけではないがそう簡単に許可を出せる案件ではない。ただ、これほど誰かに必要とされたことはない。その部分では胸に響いているのも確かだ。元々人に頼られること自体少なく、頼られたとしても地味に断るがデフォルトの地味女。それに対し少しだけ迷いもあった。ここまでの必死の頼みごとであれば叶えてあげたいと思う人情だって持ち合わせている。だがめちゃくちゃな整形をされた挙げ句、後から大金を請求されることだってあり得るのだ。警戒はしすぎるに越したことはない。顔を上げた老人の目は真っ赤に充血し涙さえ滲んでいる。
「こ、これを…!!」
老人が出したのは一枚の紙切れ。
「三…億?」




