第三十五話 崩壊した美女 渡かなえ
推察するに先生はどれだけ彼女を回復させられるかに興味があったのではないだろうか?
二人が出会ったのは3年前。少なくとも痛みは緩和され外見的にはこれでもだいぶ良くなったという。しかしやはり自然なバランスが崩れているらしくどこかを治せばどこかに支障が出るという繰り返し。これも一つの整形の末路なのだ。
究極の美の裏側にある整形の暗部。多くの犠牲を払い技術は進歩し今の先生がいる。しかしそれもやはり完璧ではない。治せない病気が未だにたくさんあるのと同じ様に。
かなえさんは語り終えると私を手で追い払うような仕草をした。もう話すことはないということだろう。彼女が今どうやって生活しているのか興味はあったがそれはただの好奇心。気軽に触れてはいけない気がした。
「ありがとうございました。」
「あんただってね、いつかは老いる。どんな美人だって衰えていく。その宿命からは誰も逃れられない。そしてその時周りに誰もいなくなってたとしたら…あんたがクソ女ってことさ。」
「整形した事…後悔されているんですか?」
「してないよ。生まれ変わってもやるだろうね。」
「どうして…。」
「美しいってことは…恐ろしい魔力を秘めてる。他に何も必要ないくらいにさ。だからあんたを見てると…無茶苦茶にしてやりたくなる。どうしてこんなに美しい存在がいるんだ。どうしてそれが私じゃないんだってね。マルボウ先生に選ばれたその肉体も、若さも、あんたの全てが妬ましい。だからっとと消えな。」
かなえさんの表情は複雑過ぎて私には読み取ることができないけれど、ただ悲しそうな気がした。
帰りの電車の中で私は考える。
なぜ先生が私に二人の女性を紹介したのか。整形という人類が編み出した神をも冒涜する技術。
少し前なら親からもらった身体に傷をつけるなんてと皆に反対されていたが時代とともに少しずつ受け入れられた。結局それは女性たちの貪欲な美への渇望によるものだと思う。美しさは武器になる。それを今の女性たちはよく知っている。
けれど私はそんなものには興味がなかった。ただ先生に選ばれるという幸運によってその舞台に上がることになった。そしてこれから誰も見たことのない高みへ上がろうとしている。
その先への不安を解消させるために二人は紹介された。沢木さんは先生に感謝し、整形に感謝し、今幸せだといった。ではかなえさんは?整形に対してどんな思いを持っているのだろうか?後悔はしていないといっていたが、時には整形さえしなければと思うことだってあるはずだ。私はどちらになるのだろう。かなえさんのようになってしまうとは思わないが整形によって人生が狂うという点は同じなのかもしれない。だからこそ先生は私をかなえさんに会わせたのだ。
先生は反対したがもし私がもう一度ここでやめたいといえば止めはしないだろう。お金のことはなにか言われるかもしれないが、直前で先生の夢を打ち砕いた責任は果たさなければならない。
正直今の状態でかなり異常だということは、周りの反応を見れば嫌というほど伝わってくる。この次の段階なんて想像もできない。
私は選択しなければならないのだ。究極の美女となるのか今のまま過ごすのか…。




