第三十話 その先にあるもの
先生の体調は今日も悪そうだった。
「大丈夫ですか先生?」
「なぁに大した事はない。歳は取りたくないものじゃな。」
微笑む先生だが明らかに顔色が悪い。
「私のことより君はどうだね?今の君のレベルの美女は世界にも数人しか居ない。どんな事態が起こるか私なりに予測していたがそれはなかなかに辛いものではないかと思ってな。」
「先生は私の状況を理解していてくださるんですね。」
嬉しかった。突然世界に一人取り残されたような気分だった。先生だけは私をわかってくれている。私は自分の置かれている状況を話した。内容はやはり先生の想像通りだったらしい。
「天才は孤独…そんな話を聞いたことはないかい?それと同じでね。なにかの圧倒的な才能を持つ者は他とは相容れない。当然だよ。いつも百点を取れる生徒と50点しか取れない生徒が勉強の話をしても噛み合わないだろう。それと同じ。君は今美という一点において圧倒的能力を有している。この町の人間が今まで見たこともない力。恐れられ避けられるのも仕方あるまい。」
「先生…。もう十分ではないでしょうか?」
私は今日この言葉を伝えるためにクリニックに来た。
「先生のおかげで私は世界的な美を手に入れることができました。私は先生から頂いたこの力に振り回されないよう努力したいと思います。」
「…手術をやめたいというのか?」
先生の目が険しくなる。私は恐れずにコクリと頷く。
しかしどうやら私はとてつもない地雷を踏んだらしい。
「それだけは許さぬ!!途中でやめることは認めんという契約じゃ!!もし中断したいと言うなら当然以前支払った三億は返してもらう!!合わせてこれまでかかった手術費八千万も払ってもらうからな!!」
「そんな…!!」
「これは宿願なんじゃ!!あと一歩で到達できるかもしれん!!ここまで来て…!!ここまで来てやめるなどできるはずがない!!」
突然の先生の激昂…。私は初めて手術をしてからいろいろなことがありすぎて彼の熱意を忘れていた。宿願…。途中で辞めることなど許されない。
瞬間、放心する私とは対象的に我に返った先生が慌てだす。
「す、すまない!!私としたことが…!!君の気持ちも考えず…。」
「いえ、ただ…なんだか怖くて…。」
「そうじゃろうそうじゃろう。すまなかったな。君はまだ十代、これほどの急激な変化に耐えられなくて当然じゃ。私にできることなら何でもする。じゃが私とてここで引くことはできぬ。なぜなら後一度、後一度で究極の美女が完成するのじゃ。想定よりもかなり早い。もう一度だけ私を信じてもらいたい。」
先生は本当に申し訳無さそうに頭を下げると、ふむ、と一呼吸置きテーブルにあった真っ白なメモ帳に真っ白なペンで何事かを書き留め差し出した。そこには2人の人物の名前と住所、電話番号が書いてあった。
「これは?」
「私が手術した患者だよ。一人は平凡な女性から究極とまではいかないが美女になり今も活躍している人物だ。
なるほど。先生は先人に教えを請えと言っているのだ。究極の美女はいないが美女になった人は沢山いる。そしてその生活を何年も続けているとすればこれからの私の行動の指針になるかもしれない。
「もう一人は…」
言葉を濁す。視線を逸らす先生の顔が曇る。数秒間の沈黙の後、重い口を開いた。
「もう一人は整形によって地獄を見た女性だよ。」




