第二十九話 異なる者への洗礼
学校での状況もまたしても大きく変わった。今までキャーキャーと騒ぎ立てていた女子たちは驚くほど静かになった。男子生徒も遠くから眺めるだけ。直接話しかけてくるような人はいなくなった。それは宮下くんも含めて。
しばらくはこの変化の理由がわからなかった。だってそうだろう、今回は私の中身は変わっていない。ただ私の外見、いや、それよりも雰囲気が変わったらしい。先生曰く内からの美しさがにじみ出ているらしいが、それによって一段階美の階段を登った私は近寄りがたい空気を出しているのかもしれない。
「おはよう…。宮下君。」
私が声をかけると驚いたように宮下くんは目をそらす。
「あ、えっと…。」
以前のような照れている様子でもない。まるでヤンキーに見つめられ怯えているかのようだ。
「宮下君…どうして挨拶返してくれないの?」
「ご、ごめん、おはよう。」
「もしかして私のこと避けてる?」
「そんなことないよ!!」
驚く宮下君。良かった。嫌われたわけではないようだ。
「今の春宮さんみたいな美人と会ったこともないし話したこともないからさ、どういう態度をとったらいいのか正直わからなくて…。」
それが紛れもなく宮下くんの本音なのだろう。宮下くんだけじゃない。学校の人すべてが私に対してどう接すればいいのかわかっていない。これまでは無理矢理にでも私と仲良くなろうとしていた男子たちも寄り付かなくなった。仲良くなっていたイケイケ女子たちも少しずつ距離を置き始めた。私はすでに彼女たちとも同じグループではない。それこそハリウッドにでも行かなければ私と対等の友人はできないのかもしれない。
今まで手術後はいいことも悪いこともあった。けれど今回は悪いことしかないような気がする。親から友達に至るまで皆に避けられている。これが究極の美女の宿命なのだろうか?だとしたらこれ以上…一人になりたくはない。
私は元々一番仲の良かった地味友、及川和子に声をかけた。
「和子…今いいかな?」
和子は驚いたような顔をしている。
「最近あんまり話せなかったからさ、ちょっと話せたらと思って。」
和子は何か考えを巡らせているようだった。
「さな…悪いんだけどもう私の知ってるさなとは違うよ。ごめんね。」
「和子…。」
和子はそそくさと私の前から去っていった。彼女の言うとおりだ。顔も身体も声も心も違う。私のどこが春宮さなだというんだ。以前の私が今の私のような人に話しかけられたら同じ様に避けるだろう。派手な人とは関わりたくない、トラブルに巻き込まれそうだと思う。今の私はトラブルどころか誰も近づかない。
学校で自然と行われるグループ分け。それは多くは近い人による分別。思考が近い人。趣味が近い人。頭脳が近い人。運動神経が近い人。もちろん違うからこそうまくいく集団もある。しかしその場合は統率するリーダーが必要になる。
今の私はどこにも属せないはぐれ者だ。少なくともこの小さな街、学校、家にももう私の居場所はない。芸能界やハリウッドに行けばうまくいくのかもしれない。でもそれは今の段階。
これからまた手術を受ければいづれ私は究極の美女に到達するだろう。その時の私に新たな友人や恋人を作ることができるのだろうか?




