第二十六話 男の人は整形してる女なんて…嫌いだよね?
学校での私はもはや手術前とは全く違う扱いだった。私が登校するだけで学校中がざわざわしている。遠くで見惚れているだけの男たち、教師すら私への対応に迷っている。
「お姉さまー!!鞄持たせてください!!」
「ちょっとお姉さまの鞄は私が持つの!!」
今ならわかる。こういう空気の読めない輩がいるのは私の美の力がまだまだということだろう。美しくなることは自信につながる。それは良くも悪くもだ。今なら自分から宮下くんに声をかけることができる。
「おはよう。」
「おはよう、春宮さん。」
あれ?なぜだろう?以前は呼び捨てだった気がする。
「宮下くん、今日もイケメンだね。」
聞きましたか皆様。こんなことが言えるほど私は変わってしまったらしい。
「な、なにいってるんだよ、春宮さんこそ本当に…」
照れながら視線を逸らす宮下くん。かわいい。
「日に日に綺麗になるよね。まるで魔法にかかってるみたい。」
魔法か…そうかもしれない。あの魔法使いの老人はゆっくりと私の心と体に魔法をかけ私を変えた。あれだけ目立つことが嫌だったのに今はみんなの視線が全く気にならないほどに慣れてしまった。何かの本で人はどんな環境にも一週間で慣れると読んだ。確かにそうだ。私はもう目立たない地味女ではない。誰もが振り向く日本有数の美女なのだ。
「宮下君…。」
ふと、気になったことがあった。
「男の人は整形してる女なんて…嫌いだよね?」
我ながらずるい聞き方だと思う。今の私はこんなことが言えてしまう。ナンパや男性からのお誘いも数多く受けてきた。ほとんどお断りしているが何人かで遊びに行くくらいは経験してもいいと思い、出かけたこともある。私は慣れないためみんなと足並みが揃わなかったが、男達は率先して私のフォローをしてくれた。
足並みが揃わないのは私だけ。その意味がお分かりだろうか。出かけたのは以前から私の周りにいる地味友とではない。クラスの美女たちが集まるイケイケグループだ。彼女たちの方からだんだん声をかけてくるようになり仲良くなった。彼女たちの目当ては私の美容法や整形について。
お金を持っている人ほどもっと欲しくなるのと同じ。美人ほどもっと美しくなりたいと思うらしい。同時に地味友たちは少しずつ私から離れていった。もはや住む世界が違う。それを感じているのだと思う。私としては彼女たちとは今まで通りでいたかったが居心地の悪い気持ちはわからなくもない。私はいくら見た目が変わり自信がついたとはいえ根が暗いのは変わらないのでイケイケ女子との付き合いは疲れることも多い。かといって地味友たちとも距離を感じる。私と同じような立場の人なんているわけがないのだ。
それはつまりいづれ私には友達が一人もいなくなるということかもしれない。
今はまだイケイケ女子と一緒にいられるが、彼女たちの好きな流行りのファッションやアイテムは私にはよくわからないし興味もない。先生曰く。
「いずれ君が歩いた道が流行になる。そんなもの気にする必要はない。」
との事。しかしこういう事がいじめのスタートになりかねないのだ。早く次の手術をして美の力を高めなくては危険ではないだろうか。
確かに私は綺麗になった。鏡を見ているのが大好きになった。けれど先生はもっと上を見ている。そして私もようやく同じものを見据えられるようになった。ただそれでも普通の女子への未練があるとしたらそれはやはり宮下くんなのだろう。
「誰かになにか言われたの?整形のくせにとか…。」
宮下くんは真剣な顔で私を見つめている。照れる。
「いや、そういうわけじゃ…。」
「もしそんな事を言うやつがいたら僕が君を守るよ。」
力強い言葉だった。嬉しい。ヘヴンだ。けれど同時に思うこともある。これが美の力なのだ。私の美の力が弱ければきっと宮下君はこんな反応はしなかった。圧倒的美は他の感情を支配する。
「ただいま。」
「…おかえり。」
最近父の様子がおかしい。おかしいというか、時折寂しそうな顔をしては、
「お前本当にさなだよな?」
なんてことを言う。私が綺麗になることを望んでいたはずなのに、想像以上の結果に戸惑っているのだろうか?
改めて昔の写真を見る。親戚一同で取った集合写真だ。自分の姿を凝視する。面影がないわけではない。しかし胸は膨らみくびれのできた体型、しっかりと大きく二重になった目、無駄な肉の無くなった頬、完全な黄金比で出来た唇。
同一人物と言うよりは親戚なのに全然違うと言うレベルだ。というか親戚と会ったらどうしたらいいんだろう。それほど皆が仲のいい一族ではないから誰かの法事とか冠婚葬祭でもない限り集まることはないが、もし今誰かが亡くなって私が葬式に行ったら大騒ぎになるんじゃないだろうか…。
さすがにランクアップした私も視線に耐えられるかどうかわからない。整形したなんて言ったら私はともかく両親まで白い目で見られるんじゃないだろうか?なぜもっと早くこの事に気が付かなかったんだ。注意力散漫だ。私らしくない。
いや、違う。警戒心が強く危機管理に敏感だったのは昔の私だ。手術を受ける前に気づかなかったのは私の落ち度だが今の私は以前より遥かに危機管理力が落ちている。今この事に気づけたのは写真というきっかけがあり運が良かっただけ。今の私はもし何かミスをしても周りが助けてくれるという自信がある。少なくとも男たちは私を放ってはおかないだろう。だから以前ほど注意する必要がなくなったのだ。
同時に思う。白い目で見られるのは私の美の力がまだ弱いからだと。先生の望む高みに到達できれば私を白い目で見る人なんていなくなる。そんな気がする。
先生の車の音がする。お迎えだ。次の手術の日は近い。




