第二十五話 究極に一番近かった美女
「これで日本有数の美女といったところか。」
有数という言葉が気にかかる。
「一番じゃないの?」
「こりゃ、傲慢になっておるぞ。」
私としては今までとの違いが気になっただけだったが、先生は気に食わなかったらしい。
「ここまで来ると軽々しく一番などとは言えん。判断も人によって変わってくるからの。ここから特に必要なのな内面の美しさじゃ。世界的ミスコンテストでも歩き方や話し方、所作や礼儀作法を見られるだろう。」
「わかってますけど…。」
「いいかい?これから周りが君を見る目はどんどん変わる。よぉく鏡を見なさい。すでにこんな小さな町にいる方がおかしいという美しさだ。これから君は本当の美の力を知ることになる。今までのは前座のようなものだ。ここがスタートライン。皆が振り向く程度では真の美とは言えぬ。」
「先生…私は最終的にどうなってしまうんですか?」
ずっと気になっていた。ここまでだって創造を遥かに超えていた。ここからどうなるのか全く想像もつかない。究極の美女に対して先生は警戒しているようにも見える。
「それは私にもわからないよ。究極の美女がどんな人生を歩むのかそれは未来の君にしかわからない。」
「でしたら先生の知る中で一番美しい、最も究極の美女に近い女性がどんな人生を歩んだのか教えて下さい。」
私の問いに先生の顔が曇る。それだけできっと良くない思い出なんだと思った。けれど知りたい。本当の美女がどう生きたのか。
「…彼女は私の大学の先輩だった」
「同じ大学ということはお医者さんですか?」
「うむ。彼女は医学部でも常に首席で学長賞までもらっていた。その頭脳も彼女の美しさに磨きをかけていたように思う。美しく聡明な彼女に誰もが憧れた。」
何処か遠い目をする先生。その先の彼女は何処にいるのだろうか。
「彼女は皮膚科医を選んだ。皮膚科は美容と関わりが深い。ニキビやアトピー、スキンケアを主とする分野だからね。美しい彼女にはぴったりだと思ったよ。外科の道に進んだ私とはそれから会うこともなかった。それから数年…十数年か経った頃突然大学の同期の友人から連絡が来た。彼女が事故にあったとね。」
「事故…。」」
嫌な予感だけはいつもあたってしまう。
「だが真実は事故ではなく自殺だった。電車に飛び込んだんだよ。命だけはとりとめたが全身がぐちゃぐちゃでね。そして奇跡的に…顔も綺麗なままだった。」
それは果たして運がいいと言うべきなのだろうか。
「…自殺の原因は何だったんですか?」
「彼女は最期まで語らなかったよ。噂で聞いた話では異性関係らしい。プライドの高い彼女は男に振り回され世を悲観したとか…。」
最期…先生の知る究極に一番近かった美女はもうこの世に存在しない。
「私は彼女がなぜ自殺したかなんてどうでも良かった。ただボロボロの彼女を治したかった。その時私は初めてただ治すのではなく美しく治すということを意識した。外科医から美容外科医へ転身した瞬間だね。それまでの私は見た目なんてどうだっていいと思っていたんだよ。」
「先生にもそんな時期が…。」
先生はくるりと反転し私から表情を隠した。
「彼女の顔が美しいままだったからかもしれない…。もとの彼女に戻してやりたい思った。治療は順調だった。初めての手術も多かったが私はすべて成功させた。皆が私をゴッドハンドと讃えたよ。しかし…彼女の表情はどんどん曇り醜くなっていった。」
「どうして…。」
「当然だよ。彼女は死にたかったんだ。綺麗にして欲しいなんて少しも思っていなかった。私の勝手な独りよがりの治療だった。すでに彼女の心は壊れていたんだ。」
心が壊れる…。それは彼女の美しさゆえのものだったのだろうか?少なくとも昔の地味女の私には異性関係で自殺なんてことはまずありえないだろう。じゃあ今なら?わからない。
「私はその時の手術の腕を見込まれ美容外科で働くこととなった。彼女の代わりに多くの女性達を美しく変貌させ時には再生させた。そしてある時気づいた。
もしあの時、今と同じだけの技術があれば…。彼女を元に戻すどころか究極の美女として再生させられたはずだと。そしてそれができていれば…彼女を救えたはずだ。」
「な、何言ってるんですか!?いくらキレイになったって心までは救えませんよ…。」
「私はそうは思わない。圧倒的美の力があれば、自分と釣り合わないチンケな男のことで悩むなど馬鹿らしい。そう思ったはずだ。」
先生らしくない、感情的な倫理だ。けれど…それが愛した女性だったのであれば何も言えない。
私が最終的にどうなってしまうのかという問いの答えとしては、悲しい未来の可能性が一つ増えてしまったことになる。




