第二十四話 夜の病院
体の感覚が徐々に戻ってくる。この麻酔から覚める感覚ももう三度目だ。
包帯が取れるまではまだまだかかる。このミイラ状態にももう慣れたもの。体の痛みがないわけではないが慣れて余裕があるからなのか夜中に目覚めた私は少しクリニックを探検してみようと思った。
真っ白い壁に真っ白いドア。白いということはくすみがないということ。徹底的に掃除がされていなければこう白くはならないだろう。おそらくこれは先生のビジネス戦略。美容クリニックのスタッフが美男美女でなければ説得力がないのと同じ。建物が白く美しいことで身の潔白をアピールしているのだ。無論それは先生が犯罪者という意味ではない。だがここまで事業を大きくするのに叩けばホコリくらいは出るのだろう。ホコリを見えづらくするために毎日掃除を欠かさないというわけだ。
「体調いかがですか?」
真っ白な白衣のスタッフが声をかけてくる。事務やエステティシャンとは違う。白い衣という意味では同じだがどう言うべきか…そう。先生と同じ服。つまり医師だろう。
「まぁ…大丈夫です。」
ここが病院でなければミイラの発言として信用はないがまぁ相手は見慣れているだろう。わずかに開いた包帯の隙間から見るに相手はどうやら若い男らしい。ジロジロと全身を舐め回すように見ている、これは好意でも敵意でもない。興味というべきか。
「うちの院長が最近君にかかりきりでね、他の患者さんの手術ができなくて困っているんだよ。」
どうやら敵意だったようだ。私の判断もまだまだだ。これは嫉妬。彼は院長先生を私に取られて嫉妬しているらしい。
「それが院長先生の望んでいることなら仕方がないと思います。」
「確かに二度の手術でここまで変わるなんて驚きだ。先生の技術には驚愕する。だからこそその能力は多くの人に使われるべきだと思わない?自分が究極の美女になれるなら他の人はどうでもいいと思うの?君は傲慢なんだね。」
かなり攻撃的だが私には響かない。腹も立たない。医師になるくらいだ。聡明なのだろう。賢人なのであろう。そんな彼の愚行は今の私の基準で言うならただただブサイクだ。
「私が望んだのではありません。先生が私を選んだのです。私は契約をしただけ。あなたのしていることは先生が作ってるカップ麺のお湯を捨てるようなものです。」
「嫌がらせだと?」
「先生の代わりに多くの方の手助けができるよう努力なさってください。
「…やはり傲慢だな。」
「確かに、私は以前とは変わった。昔の私ならあなたのような立派な方に声を掛けられたら下を向いて何も言えなかったはずです。けれどそれは傲慢ではなく自信です。究極の美女として生きるにはある程度の力が必要なので。」
「……私だって究極の美女なんてものが作られるならそれを見てみたい。しかし…同時に恐ろしい。歴史を狂わせるような美女が生まれてしまうことは。」
歴史を…。それは例えば中国の楊貴妃であり、ギリシャ神話のヘレネーであり、その美しさによって人々を狂わせ争わせ破滅させる。私がそういう存在になるかもしれない。
それは…否定できない。
「お言葉、覚えておきます。ご忠告ありがとうございます。」




