第二十二話 宮下くんのお考え
ある日の下校時、昇降口で偶然宮下くんと顔を合わせた。
「バイバイ、また明日。」
いつもと同じ爽やかな笑顔。少しだけ自信の付いた私は勇気を振り絞った。
「み、宮下君!!」
驚いて振り返る宮下くん。
「い、一緒に帰らない?」
声が裏返っているのがわかる。恥ずかしい。もっとっもっと自信が欲しい。溢れ出す汗を拭くためハンカチを取り出す。
「う、うん、たまには、そうだね。」
照れながら了承してくれる。嬉しい。自宅まで徒歩15分。夢の様な時間が始まった。
「春宮は家どっち方面?」
「えっと、南町の方。裏門から出たほうが近いかな。」
「そうなんだ、俺もそっち。」
知っている。調査済みだ。何でもいいからもっと宮下くんのことが知りたい。私が質問に迷っていると彼の方から声をかけてくれた。
「春宮ってマルボウさんとはどういう関係なの?」
「ええと…」
話すべきなのだろうか?私が20億人に一人の整形向き女だと。宮下くんに嘘を付きたくはないがすべてを話すのはためらってしまう。整形が後ろめたいのだろうか。
「お父さんの知り合いみたい。」
「そっかぁ。じゃあ整形は春宮からお願いしたの?」
「え、ええと…。」
「あ、聞いちゃまずかった?」
「いや…あー…。」
つき慣れない嘘をついた結果追い込まれつつある。宮下くんがそんな事聞いてくるなんて思わなかった。
「えっとね、私に向いてる手術っていうか、私で試したい手術があるからってお願いされて…」
「お願いされて?そんなの嫌じゃなかったの?」
「嫌だったけど…マルボウ先生すごい必死で、なんていうか私なんかでも役に立てるならと思って…。」
「春宮…もっと自分を大事にしたほうがいいよ。」
自分を大事に…してないかな?
警戒はしているつもりだけど、それと大事にしているかは違う気がする。もしかして宮下くんは前の私のほうが好みだったりするのだろうか?
「たまたまうまくいったからいいようなものの…」
どうやら違うようだ。
「そんな実験台みたいな手術、失敗してとんでもない事になる可能性もあったんだよね?」
「そうだね…でも私もかなり悩んで決めたんだよ。マルボウさんの腕が確かだっていうのも調べてたから。」
「だとしてもだよ。気をつけて。」
「うん…。わかった。」
宮下くんは私を心配してくれているんだ。それはとても嬉しいことだけれど、きっと私がきれいになったから優しくしてくれるんだろうとも思ってしまった。私が地味女のままならきっと宮下君は私の心配なんてしなかった。
そう思うと複雑な気持ちもある。けれど人の事をどうこう言えるほどの私じゃない。私だって宮下くんが隠れイケメンでなければ好きにならなかっただろう。結局恋愛というものは見た目で決まるのだ。優しいとか面白いというのは見た目だけで好きになったんじゃないという言い訳に過ぎない。
見た目で判断せず中身を見てほしいなんて言う女がいる。しかし自分を中身で判断しろという女の中身がどれほどのものなのだろうか?中身に自信があるという女の中身など期待できない気がする。むしろ見た目でわかりやすく判断されるならそこを磨けばいいのだから簡単な話ではある。中身なんて磨きようがないのだから。
しかし以前の私はそれを完全に放棄していた。私だけじゃない。可愛くない子の多くは可愛くなることを放棄している。それは可愛い子はいいよね~というスタンスでいたいこと。下手な化粧を笑われたくないこと。可愛くなろうとしていることを冷やかされるのではないかという不安など、明らかに生きるのに有利になる武器を磨かない理由のなんと多いことか。
私の場合は目立ちたくないというなんとも地味な理由だったが今ならわかる。
それは絶対的に間違いだ。かわいいは正義とはよく言ったものだ。本質はもっと先にある。美しいは強いのだ。




