第十七話 さな、かわいいを知ってしまう
正式な契約ということでいくつか書類を書かされた。マルボウ先生のことは信用していたが元来疑り深い性格のため、きちんと契約書を読んだが怪しげな点はない。
ただ一点気になる事といえば前回と違い次の手術を始めたら途中で止めることはできないということだ。私の手術は複合的に多くの処置を行う上次の手術の準備段階もするらしい。
その結果として途中で止めることはできない。それは先生が途中で私に辞めさせないための屁理屈ではないかとも思ったが、先生は私のそういう慎重なところを高く評価していた。
私としてはただ臆病なだけだと思っているが褒めて褒めてという先生の手口かとも思ってしまう。美人になればこういう卑屈で疑り深い粘着質な性格も治るのだろうか。
次の手術は一ヶ月もしないうちに決まった。私の体の回復が早いことが一番の要因だ。今回も先生はざっくりとしか手術の説明をしなかったが私はもう彼の技術を疑ってはいない。任せておけば大丈夫だろうという私らしくないある種危険な状態にあった。
手術までの間、週に二度はクリニックを訪れ検査や美容液の注射、さらには髪のトリートメントから始まる全身エステコースを受けさせられた。コースには頭皮のマッサージや爪のお手入れまで含まれ至れり尽くせり。しかも全てが無料どころの話ではない。
契約は仕事として引き受ける形になったため私がクリニックに行く度に給料が出る。いくら私が地味故に冷静な女子高生でも日に日に美しくなる自分の姿とスタッフの神対応、溜まっていくお金。少しずつ自分が実は凄い人間なのではないかという勘違いに犯されつつあった。
街を歩いていても時折ショーウインドウに反射する自分の姿に見とれてしまう。にやにやしてしまう。可愛いということはこんなに幸せなんだ。世の美少女は本当に恵まれている。いや、生まれつきならその価値に気づかないかもしれない。だとしたら最も幸せなのは私なのかもしれない。次の手術を受ければもっと変わるのだろうか?
今まであった期待と不安の割合が完全に逆転している。いづれは宮下くんとも…。欲がどんどん溢れてしまう。確信もしている。私はいづれ誰もが振り返る美女になる。宮下くんの隣を歩いても恥ずかしくない、むしろ宮下くんが霞んでしまうくらいの美女に。
そうなった時私の心はどうなってしまうのだろうか?今よりもずっとずっと幸せなのだろうか?それとも何かを失ってしまうのだろうか?今はまだわからない。
ただ一つだけ言えるのは二度と前の私には戻れないということだけだ。




