第十六話 すき焼き
「心配しなくても先生は本当に優秀だよ。」
「そういう事を言っているんじゃないんだ。正直さなは可愛くなったよ。見違えるほどに。女性にとって美しさというのは永遠の課題だ。私はそれをこんなに簡単に手に入れてしまうことを恐れているんだ。」
「な~にが簡単によ!!さなは入院して手術までしてるのよ!!リスクだってあったし不安な思いしてるのよ!!」
「そういう意味じゃない。努力をしていないという意味だ。与えられ手にしたものと自ら手に入れたものの違いだ。
例えるなら宝くじと同じだ。苦労せず手に入れたものに振り回される人が多いだろう。どうしたって周りの見る目は変わる。今までろくに話したこともない相手が友達面で近づいてくる。余計なトラブルに巻き込まれやすいだろう。」
「何インテリぶってるのよメガネ!!」
つくづくこの二人が結婚したことが不思議だ。父の考えはおおよそ理解できる。海外では宝くじに当たったせいで殺された人もいるとか。
「一度の手術でここまで変わるなら今度どうなってしまうのか、父親としてそういう不安もあるんだ。」
たしかにその不安は私にもある。先生の言う究極の美女がどんなものか想像もつかない。パッと思いつくのはハリウッド女優とか?プール付きの邸宅でメンズを侍らせては昼はエステ、夜はパーティな毎日を過ごす。私が?全く想像できない。
今までの私は卑屈だった。できるわけがないという考え方が根底にある。だからできることだけを選んだ結果、細々と地味に生きていこうと思っていた。ではもしなんでもできるとしたら?何でもできる私は一体何がしたいのだろう?
一つだけ明確に思いつくことがある。宮下くんだ。宮下くんと付き合いたい。その先には結婚や出産があるのだろうか?そこまでのイメージはできないがそれが今の私が考える一番の幸せな気がする。究極の美女となった私なら宮下くんの隣りにいても決して霞むことはない。むしろ誇らしいはずだ。仕事だってバリバリがんばってくれるだろう。究極の美女の子供はやっぱり究極の赤ちゃんのはずだ。
あれ?いや違う。以前テレビで見たことがある。子供が生まれたら全然似てなくて実は整形だったみたいな。それで大げんかして離婚して泥沼とか。
いやいやいや宮下くんは私が整形してることは知ってるんだからその心配はないか。なんなら子供だって整形してもらえばいい。先生はまだ生きてるかな?今でもかなり高齢みたいだし生むなら早くしないと…。
「ちょっとあんたなに唸ってるの?気持ち悪いわよ。」
母の言葉で現実に戻る。すき焼きのお肉がない。
「ちょっとお肉は!?」
「さな、すき焼きは戦場なのよ。」
父も無言で頷いた。




