第十二話 大人は冷蔵庫
「銀行に預けていては引き出すのにもかなり手間だからな。必要だろう?」
「あのねぇたしかに必要なのかもしれないけどさなが聞いてるのはそういうことじゃないでしょ?何したいとか何がほしいとかそういうことじゃない、それくらいわからないの?」
ぷんぷんと可愛い音が聞こえそうな怒り方である。
「しかし何がしたいと言われても会社があるし…世界一周になんて行く時間なんて私にははないしな。」
父はどこまでも現実的である。役所勤めの父はただただ真面目に堅実に仕事をし、有給は一切取らない。私の出産の時でさえ仕事を休まなかったらしい。
大金を使うなんて発想がそもそもない。父が今まで買ったものの最高金額は中古の車くらいのものだろう。
「いくら無趣味のあんたでも欲しい物の一つくらいあるでしょ?そのお固い頭でもひとつくらい私達が考えつかないようなアイデア出しなさいよ!!」
「それならずっと気になっていたものがある。」
父がお得意のメガネくぃっをかます。
「冷蔵庫だ。」
「冷蔵庫?」
母と娘がユニゾンする。
「私は特に欲しい物などない。家族が一緒にいられるだけで幸せだからね。だから君に必要なものを買いたい。冷蔵庫は私達が一緒に暮らし始めた頃に買ったからもう20年は使っているだろう。壊れているわけではないが最近の冷蔵庫は大きいし色々と便利な機能もついていると聞く。
買うなら日々の暮らしが楽になるものがいいよ。炊飯器や電子レンジもそうだね。君の家事が楽になれば私は嬉しいし調理器具が揃えば美味しいものも食べられる。」
父にしては素敵な答えだ。だが母は納得行かなかったらしい。
「あのね…そういうセリフはイケメンが言うからいいのよ。あんたみたいなメガネのおじさんが言ってもはまらないの!!」
ひどい…。ドイヒーだ…。父は大好きな新聞に視線を戻してしまった。ネガティブな父の発想は私に近いものだと思っていたけれど、私には思いつかない素敵な大人の意見だった。
残念ながらこのお金は私の不出来な子供たちのために使われるなんてとても話せる空気ではなかった。




