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究極の美女の幸せ  作者: 森しゃおこ


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第十話 クラス一の美女



 シュルシュルという音が聞こえる。頭にぐるぐる巻きにされた包帯を取る音。手術は滞りなく行われた。



 鏡に写っていたのは私ではなかった。



「これが…私…?本当に?」



 手術を受けた人間は皆このセリフを言うのだろうか?



「紛れもなく君だよ。一度目の手術結果は差し詰め…クラス一の美女と言ったところか。」



 鏡に写っているのは紛れもなく美少女。元の面影ははっきり残っているが自然で大きく二重の眼、韓国人モデルのように尖りすぎていない美しい顎のライン、脂肪吸引も行ったのだろうか痛みもあるが身体が軽い。



「今は少しむくみもあるがすぐに治まる。それも君の身体の特性だよ。」



 他の人間であれば腫れが引くのに何週間もかかるらしい。けれど私はすぐに治まるらしくその日のうちに帰宅することができた。腕やお腹に包帯はあるが痛いというほどの痛みもない。ちょうど連休で学校が始まる頃には取れるらしい。それにしても…。


 正直一度でここまで変わるとは思っていなかった。老人…いや、先生によるとトータルの手術回数を少なくするため一度でいくつかの手術を行うらしい。スマフォの鏡で顔を見る。これでもむくんでいるらしいが今までとは輪郭も違えば目も違う、髪型は変わっていないはずだがなんだろう、サラサラになっている気がする。美容的な注射でも打たれたのだろうか。帰り際クリニックのスタッフ達がヒソヒソと話しているのが聞こえた。



 すごい、さすが先生だ。いやすごいのはあの子だ。あの手術ですぐに帰れるなんて…



どうやら先生の目に狂いはなかったらしく、まさしく私は20億人に一人の3億円の価値を持つ女だったらしい。送迎のタクシーを降り自宅へ戻る。こころなしか歩き方も変わった気がする。骨盤矯正でもされたのだろうか。私を見た両親の反応はいかなるものとなるだろうか。



「おかえり~。」


 陽気な母はいつもと同じ様に謎の鼻歌を歌いながら何かを炒めている。母はとりあえず焼けば何でも食べれるがモットーであり味は濃ければ濃いほどいい。ご飯で薄めろ。その結果太らないよう私と父がどれほど苦労していることか。謎の鼻歌だって時々は知ってる歌の時もある、しかし歌詞は1番と2番がいつだってごちゃまぜで意味なんてかけらもない。



「あら…」


 私を見た母の瞳孔が広がる。



「あらま~可愛くなったじゃない!!やっぱり私の娘ね~!!」


 べた褒めだった。ご機嫌で私の背中をバシバシと叩く。だがこの反応は想定内。実際鏡を見た時母に似ていると思った。私を自然に美しくしようとすれば母に近づくのは必然と言えよう。居間にいた父もこちらに気づいたのか向かってくる。


「これは…若い頃の母さんそっくりだな。」


 父もこの結果に満足しているようだ。



「まだ検査とか…何度も病院に行くのか?」



「うん、経過報告しなきゃいけないし、検査もあるみたい。」



 父はそうかと小さな声で言うとすぐに居間へ戻り新聞を広げた。まぁ親の反応なんてこんなものだろう。私にとっても問題は学校なのだ。親に対して言っておくべきことは一つだけ。


「あのお金は使わないから。」



 父は無反応だったが母は黙っていなかった。



「なにいってんのよぉ~!!あたしもう色々リボ払いしちゃったじゃな~い!!」


「そもそもママのお金じゃないし。」


「使わないでどうするのよぉ~!!タンスに入れといたって虫よけにもならないのよ!!」


「少なくともこの件がすべて終わるまでは。途中で返せなんて言われても困るし。」



 この判断だけは間違っていない自信がある。私はお金の威力を知っている。爆弾よりよっぽど危険なものだ。


とはいえ。とはいえだ。3億円あれば何ができるのか考えてしまうのは人の性というものだろう。私の人生が後70年は続くとして一年で使える金額は…初めて使うスマフォの電卓機能で計算するとおよそ430万円らしい。ということは一ヶ月で約35万円。ということは一日に使えるのは一万円くらいか。そうなると意外と少ない気がする。


いや待て。そんな単純計算ではいけない。今は両親の庇護下にある私だが大人になればいろいろなものを払わなければならない。税金に家賃に保険料もあれば家賃や光熱費、電気代も積み重ねれば馬鹿にならない。、突然の病気や怪我もあるだろうし高齢になれば医療費もばかにならないはずだ。もちろん私は将来働くつもりだからこのお金だけを基準にするのもおかしいのかもしれないがあくまでこれは計算するだけなのだ。もしなんらかの事情で働けなくなった場合のための計算だ。



まずは家を買うだろう。詳しくはわからないが土地代も含めて五千万くらいはするイメージだ。不動産を増やして家賃収入をなんてこのご時世リスクのあることはしない。地震も台風も年々強力になっているのだ。吹き飛んでローンだけ残りましたなんて言われたら目も当てられない。

 私はスマフォで年金額や医療費など細かなことも調べながら計算してみる。その結果家と必要経費は合わせて七千万ほどあれば大丈夫そうだ。


 後は3億円もらって両親に全く渡さないというのも気が引ける。両親には三千万渡して私の取り分は2億ということでどうだろう。もっとあげるべきか?いや、実際どうするかより今は計算しよう。


改めて2億円を70年で分けると280万…。一ヶ月で23万8千円。一日に使える金額は約8千円となった。


「……。」


 なんだか随分減ったような気がする。それだけ人生が長いものということだろう。逆に考えれば一日8千円を切らなければなんの仕事もしなくても一生食べるには困らないということだ。8千円あれば好きなものをお腹いっぱい食べてもお釣りが来る。昼夜外食でも5千円は余るだろう。

 今更ながら地味女の外見との交換としたらこれは相当いい買い物だったのではないだろうか。


 いや待った。考えが甘いぞ春宮さな。どうしてこんな事を失念していたんだ。手術がうまくいって浮かれているのか、情けない。



 きれいになった私は結婚する可能性があるではないか。


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