現地調達じゃ
皆、庭へ出た。
大勢の郎党、下男に、今回徴用した男達が混じり、作業を行っている。
「それは、竹槍か」
「左様でござる」
「そうか。……太さ、長さは丁度ええ。あとは、節を丁寧に落とし、よう磨いておけ」
「はっ」
「そうせんと、戦闘中に手ぇ怪我してまうで。仮にも武具やからな」
他にも、竹槍用より細め、かつ長めの竹が大量に集められている。
そして、細めの丸太。こちらは杭用である。サイズそれぞれ、数パターン揃えて地面に並べられている。
来る日に向けての準備が、着々と進められている。
「皆、作業の手はそのままに、聞け!」
正通さんが声を上げた。
「米や菜の収穫終わりし頃合いに、また昨年同様、安芸勢が攻めて来るだろう。そうだな……竹槍、竹垣用の竹、杭……」
正通さんが、そう言いながらオレに顔を向けたので、オレも頷く。
「うむ、充分じゃろう。あとは細引きじゃ。細引きが大量に要るわい」
刈入れまでの間、郎党、下男は細引き作りに専念しろ、と正通さんは下知した。
「して此度、一時的に力を借りておる者共よ。お前達は刈入れまでの数日間、槍の訓練じゃ。しかと励め!」
――おうっ!!
数十人が、気勢を上げる。
「主殿」
藤太さんが正通さんに声をかける。
「細引きを結う、麻が足りませぬぞ。多少の蓄えはあるが、此度必要となる量にはとても……」
「あっ」
正通さんが、再びオレの方を向く。
ん!? まさかオレ、やらかしたか。
そうか。
平成令和に育ったオレ的には、細紐やロープなんて、ホームセンターに行けば幾らでも手に入るもんなあ。それこそ一〇〇メートルでも二〇〇メートルでも。
当世の場合、素材である麻を大量に刈り集めてきて、皮を剥いで湯で蒸して天日干しして……と、むっちゃ手間暇かけて作るらしい。藤太さん正通さんの解説によれば、急いでも一〇日は必要だという。
(うわぁ。まぢかよ)
知らんかったわ。
壷井にて、たかだかムシロを大量に集めるだけで、大いに手間取ったのを思い出した。
あれだって、前世だとホームセンターでブルーシートを買い集めれば良いだけだもんなあ。
「申し訳ござらぬ。まだまだ経験の浅い若造ゆえ、そこまで考えが及びませなんだ」
素直に頭を下げた。
「いえいえ。そこは儂らの方こそ、先に気付くべきでござった。為朝殿は悪うござらぬ」
むしろ正通さんや藤太さんの方が慌て、頭を下げるオレを押し留める。
「まだ、間に合わぬとは限らぬ。敵は何も、刈入れ後即座に出張って来るとは限らぬからのう」
「いかにも」
「なるほど……。ではそちらでは、蓄えの麻で細引きを作って下さい。その間、我らの方で麻を刈り集めておきましょう」
「かたじけない。頼みます」
「さらに……」
オレは二人に問う。細引きに代わる、何か代替品はないか、と。
「為朝様。ありますぞ」
急に、後ろからオレの肩を軽く叩きつつ声をかけられた。振り向くと、吉田太郎さんである。
「ツルを使えば良うござる。藤蔓でも、蔦でも、代わりはなんぼでもござる」
「いかにも」
藤太さんも同意した。
「ツルならば、森の中に幾らでもござろう。馬の足止めに使う程度であれば、こうして支度し数を整える必要もござるまい。現地調達じゃ」
「左様。山路を進みつつ、一間ほどの長さのツルを刈り集め、先程申した四ヶ所に張り巡らす。大した手間もかかりますまい」
「そうか。わかった」
オレと正通さんは頷く。
「されば、細引きは、竹垣を組むための分だけで良いな」
「それだけであれば、間に合いそうですね」
「ああ」
何とかなりそうだ。
ついでとばかり、オレはリアカーと台車を引っ張り出してきた。午前中に受け取ったばかりの品である。
「これは、何でござるか?」
「何と呼びましょうかねえ。名は、まだ決めておりません。……荷駄車は馬や牛に曳かせて荷を運びますが、こちらは人に曳かせます」
「ほう」
「して、こちらが台車。小さな荷を、然程広くない場所で移動させる時に使います」
例えば、港で荷運びに使います……と用途を説明する。
あっちの舟からこっちの舟へ、荷を移す。重さがあったり数があったりすると、作業効率が悪い。リアカーや台車を使えば、往復する人を減らせたり、往復する回数を減らせる。
つまりコストダウンに繋がる。
「なるほど……」
「いくさの支度にも使えます。まあ今回は、防衛拠点まで少し距離がありますから、我らの荷駄車を使いますが」
オレは、少しばかり腹案を披露した。
台車はともかく、リアカーはそこそこ大きい。嵩張る。当世の船は然程大きくないため、幾らそれが便利であろうとも船に常備するのは邪魔だ。
「そこで、港に見世を設け、これらを貸し出すのです」
数を揃えておき、レンタル料を取って貸し出すのである。
返却せずパクる連中も出てくるだろう。なのでレンタル料の二倍ほど、貸出時に保証金を取っておき、返却時に保証金のみ返却する。
「そういった仕組みにしておけば、損失もある程度抑えられます」
アイデアは、まだまだある。
オレは、港全体の利便性を向上させる案を、語った。
例えば、メシを食ったり、多少の休憩が出来る見世を設ける。
港で働く者達は大抵、肉体労働だ。当世は朝夕の二食というのが習慣だが、肉体労働者ならば昼に軽く食べたい者も居るだろう。軽く、茶でも飲みながら休憩したい者も居るだろう。
そういった連中に、場を提供する見世。
さらには安宿を設ける。需要は大いにあるだろう。
汗を流せるように、井戸や着替えの場を設けてもよいだろう。夜に、食いながら飲める見世――いわゆる居酒屋――を構えるのもよい。……
「つまり、港全体の環境を整えるのです。そうすれば、何も安芸で荷下ろしせずとも、なにかと便利な尾道で……という流れが起きるかもしれない」
リアカーや台車そのものが評判となり、日本中に輸出される特産品となるかもしれない。
当地はそれこそ、鍛冶や鋳物といった産業の盛んな地である。各種の地金も容易に手に入る環境でもある。リアカーや台車など、大量生産の体制を整えやすいではないか。




