それこそが“歴史”そのものやんか
それから四半刻ほど、腕利き刀鍛冶たる行平さんから知識を仕入れたわけだが、まあ色々と衝撃的だった。
(これって本来なら、学校教育で教わるべき知識ちゃう?)
技術が進歩し新たな製品が生まれ、それが歴史をワンステージ上へと押し進める。
よくある話だろう。
(例えば電車や車。飛行機……)
コンピューター技術や工業用ロボットの登場もそうだろう。オレの知る平成令和の世であれば、携帯電話やITモバイルデバイスがそうだ。そして、AI。
(何が登場し、それがどう世の中を変えていったか。それこそが“歴史”そのものやんか)
つまり歴史の授業で、しっかり教わるべきではないか。
しかし、そこをちゃんと教わった記憶が無い。
例えば、
――世界においては青銅器の登場が先だぞ。その後、鉄器が登場した。
ここ試験に出るからな、よう憶えとけよ……と教わった。
だが、行平さんとの会話の中で、気付かされる。
(銅ってのは、つまり希少資源だ。採れる場所が限られている)
おまけに強度も、大したことない。
博物館などに行くと、銅鏡が多数展示されていたが、大概はパリパリ割れていたではないか。銅剣や銅矛も強度が弱過ぎて、本当に武器として使ったのか怪しい、と教わった。
逆に、鉄の原料はほぼ無尽蔵に近い。どこでも採れる。かつ、強度も高い。
(せやけど青銅器が先に、世に登場した。なんでや!?)
青銅器はハナから要らんかったんちゃう? ちゅうか、鉄器が登場した時点で、原料調達が困難な青銅器は市場から消えそうなものだが。
これは、行平さんが答えを教えてくれた。
「それは、青銅が簡単に溶けるからでしょう。銅に錫を少し混ぜると、焚き火の炎程度でドロリと溶けます。あとは鋳型に流し込めば、鋳物が幾らでも作れます」
逆に鉄は、かなりの高温でなければ溶けないらしい。
「ははあ……。高温を生み出すのが難しいんやな。そこ、技術的ハードルが高いから、先に青銅器が登場したんか」
目からウロコである。
ちなみにこれも初耳なのだが、焚き火の温度は意外と低いらしい。盛大に炎と煙を上げて派手に燃えているから、てっきり高温だと思ったのだが。
それより炭の方が高温だという。煙がほとんど出ず、ちょろっと中心が赤くなるだけだから、てっきり低温だと思い込んでいた。
(それこそ炭火焼鳥なんちゅうのは、じっくり低温で焼き上げとるイメージやったけど)
どうやら違うらしい。
ちゃんと窯を作り、その中で炭を燃やせば、かなりの高温を生み出せて鉄を溶かせるという。それこそが炭の存在価値、わざわざ薪を炭にする理由だという。
ちなみに鉄にしろ銅にしろ金属製品製造の基本は、この、いわゆる“チョコレート方式”である。高温で熱し、ドロリと溶かして型に流し込む。
これを、
――鋳造
という。鋳物師の作業がまさに、それである。
「細かい鉄の部品や、寸分違わず同じ部品を大量に作ることは出来るか? ……要するに鉄をドロリと溶かして、鋳型に流し込む方法で同じ物を大量に作れるか」
「出来なくはないでしょうが、大量には無理でしょうなあ」
その辺の事情は鋳物師の方が詳しいでしょう、というので、今度は鋳物師の工房へと移動した。鋳造はまさに、鋳物師の仕事である。
「なるほど。されば、我らの作業についてお話ししましょう」
平三という鋳物職人が、手ぬぐいで額の汗を拭いつつ教えてくれた。
まず、専用の粘土窯で“銑鉄”というものを作るらしい。不純物の少なそうな砂鉄を選別し、熱する。さらに木炭と湯を混ぜ冷やした塊を、銑鉄と呼ぶ。
「鍛冶師はそれを買い、己の工房にてまた熱し、太刀などを打つのです」
銑鉄用の窯と、鍛冶師の窯。目的が異なるので設計も少々異なるようだ。
なお、熱して柔らかくなった鉄を、ひたすら叩き回して鉄製品を作る方法を、
――鍛造
という。そちらが鍛冶師の仕事である。
「なぜ、銑鉄用の窯と異なる?」
「銑鉄用は、大量に銑鉄を作るのが目的でございます。鍛冶師の窯は、太刀一本分の銑鉄を熱するのみですからな」
目的が異なれば窯も異なる、と平三は言う。
銑鉄用の窯は、鍛冶師の窯より大きく炭も大量に消費する。かつ寿命も短いらしい。鍛冶師の窯は、コンパクトに作られ炭の消費量も少なくて済むのだろう。
(そうか!)
思い出した。
幕末の歴史の授業で“反射炉”という、煉瓦造ツインタワーの炉の写真を見たっけ。あれが、銑鉄を大量生産するための炉なのでは?
(ほんで、あの煉瓦が、噂の耐火煉瓦か)
当世、耐火煉瓦が無いせいで、銑鉄の生産効率が悪いのか。
平三いわく、粘土窯はすぐ壊れ、頻繁に作り直すのだとか。そのせいで鉄製品の大量生産は、原料が豊富な割に厳しいわけだ。
鍛冶用(鍛造)の銑鉄と、鋳物(鋳造)の銑鉄も微妙に異なるという。
原料からして異なる。鋳物用の銑鉄を大量に作るのは厄介なので、大陸より輸入したものを使う。隣国安芸の港を経由し入手可能らしい。
「鍛冶は、銑鉄を熱して柔らかくなれば、あとはひたすら打つだけです」
先程の、行平さんの作業シーンを思い出した。
鉄を打つ度に火の粉が飛び散っていたが、あれは不純物だという。ひたすら、火の粉が飛ばなくなるまで叩き回す。不純物が少なければ少ない程、太刀としての強度が増す。
鋳物用は鋳物用で、それ向きの銑鉄があるという。
(成分がちょっと違うとか、なんか理由があるんやろなあ)
鍛冶師は鍛造用の銑鉄を使い、鋳物師は鋳造用の銑鉄を使う。
さすがにそこは、平三に尋ねたところで、科学的な説明など期待できないだろう。○○産の砂鉄で作った銑鉄が良い、とか、そういった回答しか得られない筈だ。
いずれにせよ、色々と疑問を根掘り葉掘り聞き出し、非常に勉強になった。
オレが今後、九州にて様々なモノを生産しビジネス展開する上で、知っておくべき知識だろう。良い機会を得た、と思う。
正通さんとその郎党達を長時間付き合わせてしまったが、彼らは彼らで何やら目をキラキラさせている。
(なんで?)
気になったが、考えないことにした。どうせ、いずれ解る事だろう。




