ひと月程度滞在させて頂くことになりますが
(そういえばゲームのアイテムには、やたら備前産の名刀があったな)
前世の知識を思い出した。
ここは備後だが、まあ近いと言えば近いから、似たようなものだろう。この辺一帯、元々刀鍛冶の盛んな地なのかも。
色々と興味が湧く。
(後で行ってみるか)
まあ、そんな思いは取り敢えず後回しにし、馬の稽古を続けた。
……と、ここで今後の行動方針を左右する、決定的な事態が生じた。稽古のラストに馬上弓を射る手本を見せようとして、オレの弓が弾け壊れたのである。
「あちゃぁ……」
正通さんの郎党達はどよめき、オレは呆然とした。
ちなみに愛馬シルビアは毎度の如く、周囲の動揺をよそに平然としているのだが。……
「当地に、弓の名工は居るか?」
「勿論居りますぞ」
誰かが即座に答えた。
これはもう、暫く当地に逗留ということで決定だろう。
壷井を発ってここまで、約一ヶ月かかった。弓をダメにしたのは、これが二本目である。
なにしろオレの弓は、消耗品だ。当世の技術では、オレの馬鹿力に耐えられる強弓を製作出来ないらしい。スペアがまだ三本あるものの、この先のスケジュールを考えると心許ない。
今日のように弓の稽古などつけていたら、確実に不足する。幾らか長逗留出来る地で、スペアを補充しておきたい。
(面倒臭ぇ。早よ誰か、グラスファイバーとか発明してくれよぉ)
心の中でボヤきつつ、今日の稽古を終えた。
皆が集まって来て、口々に礼を述べる。正通さんまでもが、
「ひたすら感服つかまつった」
と寄って来て頭を下げた。
「それはともかく、その弓はどうなさいます?」
「ああ。腕利きの弓職人を探し、作らせます。これはしばらく、こちらに逗留せざるを得ませんな。誠に恐縮ながら、弓が完成するまで厄介になります」
「それは構いませんよ。むしろ大いに歓迎します」
「というわけで、腕利きの弓職人に心当たりがありますか? こいつは特注でして、製法を伝えて作らせねばならないのです」
「なるほど。では、すぐに呼び寄せましょう」
「いや、こちらから足を運びましょう。実は、その後刀鍛冶とも話をしたいのです」
誰かに案内を頼んで欲しい、と伝えると、
「では儂が……」
と、正通さん自ら案内を買って出てくれた。実に腰の低い方である。
オレは馬をマイバッハに乗り換え、それぞれ郎党数人を連れて館を出た。半刻足らずで弓職人のもとに辿り着く。この辺りで一番、腕があるという。
「取り敢えず一本、作ってくれ。出来が良ければ計一〇本、頼むつもりだ」
サイズや素材、製造の勘どころを伝えて依頼する。
「一〇本もですか」
「そうです。まだ当世の製法では、それがしの怪力に耐えられる弓を作れないそうです。ですから数日も使うと先程のように壊れてしまうので」
「はあ……。それは何とも厄介な」
次に、正通さんの案内で鍛冶師のもとを訪れる。
今まさに、刀鍛冶が弟子と共に、一本の太刀を打っているところであった。
「代々“行平”の名を継ぐ、おそらく当世屈指の達人でござる」
作業の邪魔にならぬよう、正通さんは小声でオレに告げる。
暑い窯の前で、一心不乱に槌を振っている。その、気迫が凄い。
「こりゃ暑くてかなわん。風呂より暑い」
凄いシーンだ。じっくり見ておきたいが、とても耐えられない。
オレ達は一旦、工房の外に出て待つ。四半刻程経っただろうか。作業が一段落ついたような気配が感じられたので、改めて中に入った。
「こちらは河内源氏の御曹司・八郎為朝殿である。九州に向かわれるとのことで、現在儂の館に逗留されておる」
正通さんの紹介で互いに挨拶を交わした後、
「つまり、それがしに太刀を打ってくれ、と?」
「一本打つのにどれくらい、日数がかかる? それ次第では依頼したい」
オレは行平さんに、自身の佩刀を見せた。
なにしろ京の源氏ヶ館にあった物を、テキトーに貰っただけだ。長さが、オレの身長に全く合っていない。
まあ滅多に使用しないので気にしなかったが、可能であれば丁度良い長さの業物が欲しいところではある。やはり刀は、男のロマンだ。名工の逸品が手に入るのであれば、欲しい。ムッチャ欲しい。
「製作は、一本ひと月程かかり申す」
「そうか。……そうだろうな」
費用も尋ねたが、まあ問題ない。
「弓の件もありますし、正通殿のお館にひと月程度逗留させて頂くことになりますが」
「ひと月と言わず、一年でも二年でも一〇年でも構いませぬぞ」
「あはははは」
ではご厄介になります、と正通さんに頭を下げ、行平さんに太刀製作を依頼する。
「さて実は、本題はそこではない。実は鍛冶仕事、鉄製品製造について、色々と教えを請いたい」
「ほう」
行平さんも正通さんも、意外そうな顔をした。
「それがし、これまで様々な便利品を開発し、一年足らず随分と売りまくってゼニを稼いだ。鍛冶仕事に絡む物であれば、例えばシャベル、ツルハシ……」
それぞれの商品を説明し、さらには荷駄車についても説明した。
「今後も九州にて、様々な便利品開発と販売を続けるつもりだ。だが肝心の、鉄や鍛冶仕事についての知識がない」
ふむふむと神妙に頷く行平さんの傍らで、正通さんが何やらキラリと目を光らせた。




