刀鍛冶!?
「まあ、嫁云々はともかくとして」
正通さんは口調を改めた。
「当館に、せめて数日はご逗留願えまいか。恐らく供の者達も、長旅で疲労が溜まっておることでございましょう。実はその間、我が息子ら二人に、弓の稽古をつけてもらいたいのでござる」
はあ。……
「名字でお分かりの通り、儂ら元々、下級公家の出でしてな。生粋の武人ではござらぬ。在庁官人として代々、国司に代わり当地を平穏無事に治めてまいりました。されど近頃は、この辺りも物騒になり申した」
二郎、三郎。これへ……と、郎党に混じって飯を食っていた若い二人を手招いた。
二人はすぐに立ち上がると、こちらににじり寄り、オレに挨拶する。
兄の方が二郎だろう。元服を済ませたばかり、といった年頃である。三郎の方が、そろそろ元服といった頃合いだろう。
「どちらも為朝殿と似たような年頃でござる。いや、見た目はまるで異なりますが」
正通さんはそう言って笑みを浮かべる。
「見ての通り、儂同様、武人とは言えぬ風貌でして。とはいえ、早急に鍛えねばならぬ状況にあります。故にせめて数日でも、名高き河内源氏の御曹司・為朝殿に手ほどき願いたいのです」
正通さんは、オレに丁寧に頭を下げる。
すかさず、藤太さんら数名もオレの周りに駆け寄り、
「我らからも、お願い申し上げる」
と頭を下げた。
「なるほど。こうして頭を下げられたら、簡単には断れませんな。まあ、数日でよろしければ、お力になりましょう」
「有り難い。よろしゅうお頼み申す」
そりゃ断れんよなあ。
郎党達全員が、揃って頭下げとるんやぞ。何やら切実さがひしひしと伝わってくるではないか。
翌朝。――
オレの郎党達数人と、正通さんの郎党のうち四〇人程が、弓の稽古場に集まった。正通さんも混じっている。
ちなみに正通さんにしろ息子さん二人にしろ、どこか場にそぐわぬ感じがする。武人、という雰囲気が薄い。
オレは愛用の強弓を構え、まずは手本を見せた。
いつもの三連射である。五〇メートル程の位置から連射し、全て的のど真ん中に刺さる。
「ほうっ!」
歓声が上がり、しばらく拍手が鳴り響く。
「では、二郎殿」
兄の方に、的に向かうよう促した。
二郎はさっと弓を構え、射た。
が、へろへろと飛んだ矢は、的のわずかに手前で落下した。
「あれれれ。……じゃあ、もう少し手前で」
オレは一〇メートルばかし的に寄り、草鞋の先で横線を引く。
「ここに立って、弓を構えなさい。……いや、まだ矢は射ない」
弓を構える二郎の背後に立ち、足はこう開き、姿勢はこう……もそっと腰を落とし、弓はこう構える、とスタンスを教えた。
「さあ。これで矢を射る」
促すと、二郎はオレの言う通りに矢を放ち、そして見事に的へ当てた。とはいえギリギリではあるが。
「おうっ。当たった!」
小躍りして喜んでいる。
「では次、三郎殿」
同じく一射目は自己流でやらせ、姿勢を手ほどきしてから二射目を射させた。これまたちゃんと的に当たった。
「このように正しい射線を見定め、正しい位置に足を置き、正しい姿勢で正しく弓を構えれば、矢は自然と的を射抜く」
ほうっ、と感心したような声が上がる。
そりゃそうだ。オレは既に、多数の郎党達を指導している。皆、数日で見違える程上達しているのだ。
「というわけで皆、数日かけて、正しい構えを頭と身体に叩き込め。……さらに、筋力をつけろ」
座敷へ移動し、基礎的な筋トレの方法を伝える。
腕立て伏せや、腹筋背筋の鍛え方、スクワットをやって見せ、
「まずは、限界一歩手前までやり、その回数を一週間続ける。二週目には多少筋力がつき、もう少し多めにこなせる筈だから、また限界一歩手前までやる」
こうして三週目、四週目と少しずつ回数を増やしていく。これを半年も続ければ随分と各部の筋力が上がる、と教える。
「手足、背中が軽く痛むまでやれ。獣の肉をよく見れば解るが、筋肉とは繊維の集まったものだ。その細い繊維が、稽古によってブチブチ切れるから痛みを感じる。だが、肉や魚をよく食い、一晩良く寝れば回復する。それを日々繰り返すから、筋肉の繊維が増え手足が太うなり、力がつく」
半年も続ければ誰もがムキムキになるぞ、と言うと、皆やる気を漲らせた。
「いやはや、見事な指導でござった」
感服つかまつった、と正通さんが慇懃に頭を下げてきた。
「とことん理詰めの説明に、何もかもが腑に落ち申した。ほんに為朝殿は、頭の方も優秀でござるのう」
「はははは。恐縮です」
当世においては論理的解説というのが極めて珍しいらしい。それをやると、このようにやたら好評である。なにしろすぐに、目に見えて成果が上がる。皆、上達したと実感し、ますますモチベーションを高める。
座敷で一通り筋トレを行うと、再び弓の稽古場に戻り、一刻程稽古を続けた。兄弟や郎党達に個人指導を行った。
暫く休憩を挟み、午後からは館の外で、馬の稽古も行った。オレは厩から、シルビアを引っ張り出し飛び乗る。
兄弟は既に、馬には一応乗れるらしい。
「よし、よし。上出来だ。……もっと馬を知り、馬の調子や心理に敏感になれ。さらに上達する」
そうして稽古を見ているうちに、ふと、向こうの方に黒い煙が立ち上っているのに気付いた。
「あれは、火事ではないか?」
「いえ」
二郎が答える。
「あれは刀鍛冶の、窯の煙でござる」
は!?
刀鍛冶?
よく見れば、遠くのあちこちで黒い煙が立ち上っているではないか。




