な、な、なんですとぉ~!?
海岸沿いの、穏やかな風景が続く。
その先、高台の上に、牛打ち藤太の主・橘正通の館があった。
「おおっ。ええ所に館を構えとるなあ」
オレ――八郎為朝君一二歳を騙る一八歳――は、先導する藤太に声をかけた。
「館から、海が良う見えるやろ」
「いかにも。値千金の眺望でござる」
「そら楽しみやな」
館の門が見えたところで、
「それがし、御一行の来訪を主に伝えます。皆様方はゆるゆるとお越しあれ」
藤太は馬を飛ばし、坂を駆け上がって館に先行した。
「皆、一旦止まれ。御者以外は車を降り、後ろから荷駄車を押して登れ」
オレはそう下知し、館へと向かう。
ひと騒動の後、一行が館の門をくぐると、そこに主の正通さんが待っていた。
なるほど武家の人間と言うより、学者か何かの方が似合いそうな、穏やかそうな御仁である。中肉中背、端正な顔つきをしている。
「いかにも……。元服したばかりとは思えぬ、見事な若武者でござるのう。藤太の申しておった通りじゃ」
ひとしきり挨拶を交わした後、正通さんはオレを見上げつつそう言った。
「恐れ入ります」
「しばらく、当館でゆるりとなさいませ」
「いや、そういうわけにも……。まだ先は長いので」
「まあ、そういった話も、この後ゆるりと」
オレ達は正通さんに言われるまま、荷駄車を敷地内に並べ、馬を厩におさめた。
「広い厩ですな」
五〇頭を超える我々の馬が、全ておさまるスペースが空いている。
「左様。元々はここにも多数の馬がおりましたが、先般その多くを失いましてなあ」
「は? では最近、いくさでもあったのですか」
「まあ……」
藤太に尋ねると、彼は口を濁す。
ははあ。
何やら思惑がありそうだとは想像していたが、多分、それ絡みやな。……
いくさの助っ人をやってくれ、だとか、そういう事ではないか?
正通さんに勧められるまま、オレ達は風呂に入った。一行六六人、二刻以上かかり、館の郎党達と共に風呂を済ませると、日の落ちる前から宴が始まった。
まるで壷井の館の大座敷である。広い。
だが、当館の郎党の数はさほどでもない。我々の郎党に、下男まで加わってようやく一杯になるといった有り様である。
(つまり、先のいくさとやらで、かなりの兵力を失ったんやろか)
厩の件と兼ね合わせ、オレはそう見当をつける。
「さて河内源氏の御一行、お疲れでござろう。早めに飲んで食い、今宵はゆっくり休まれよ」
正通さんの音頭で、皆一斉に盃を交わした。
まだ、外は明るい。ようやく日が傾き始めたか、という塩梅である。座敷の雨戸は大きく開け放たれている。
その向こう、高台の下に、広く瀬戸内の海が広がる。波は穏やかで、水面がキラキラと光っている。
その海を塞ぐように、大きな島が見えている。
「なるほど。藤太殿に聞いてはおりましたが、絶景ですな」
「左様。先祖代々、自慢の館でござる」
正通さんは、そう言いながら貝汁を啜った。ちなみに正通さんは、酒をあまり飲まないようだ。音頭をとった時、少々口にした程度である。
「為朝様」
傍らの美女が、瓶子をとりオレの盃に酒を注いでくれた。
歳のころ、二〇程だろうか。前世のオレと同世代とみた。
「為朝様は、良い飲みっぷりでございますね」
美女がそう言って、艶っぽく微笑む。どうやら正通さんの娘さんらしい。色白面長で、どこか正通さんの血が覗える。
(そういえばオレ、本来ならば今日あたりが誕生日ちゃう?)
前世であれば一九か。当世においてはまだ、数え一二だが。
(高校を卒業して大学通っとる頃やなあ。……まあ、その前に死んだんやけど)
本来の歳とギャップがあり過ぎて、昨年の転生当初は随分と気をつかった。が、最近は、
――為朝様は八幡太郎義家公の化身。
という噂が広まり、誰もがそれを自然と受け入れているようなので、次第にほとんど気をつかうことも無くなった。地のままで通している。
「為朝殿はこの後、九州のどなたを頼られるので?」
「豊後国の権守、尾張家遠殿を頼るつもりです。我が河内源氏の遠縁だとか」
「なるほど。権守殿は、どちらにお住まいで?」
「いや、それが良う分からんのです。現地に着いてから探すしかないでしょうな」
「左様か……」
正通さんは椀と箸を置き、そしてオレに顔を向けた。
「されば、しばらく当館に滞在なされては如何か?」
「いや、そういうわけにも……。費用もかかるし、冬になる前に九州入りしたいところです」
「うむ。冬の始めに豊後国入りし、それから権守殿の館を探すとなると、厄介でござろう」
「確かに、ちと時期が微妙ではあります」
「当館の滞在費用は、こちらで持ちますぞ。為朝殿の懸念は無用でござる」
「いやいや、それはさすがに……」
ほら、来た。
これ絶対、何か思惑があるよな。我々六六人が長期滞在するとなると、結構な負担やぞ。それを正通さんの側で持つというのだから、デカい交換条件がある筈や。
「それだけではござらぬ。仮にこの先、権守殿を頼ったとしても、先方より断られる可能性がございます。まさに当家と同じ事情で」
「ん!?」
いや勿論、その可能性は考えていた。大した縁でもないというし、先方に迷惑がられるというのも、あり得ない話ではない。
だけど、どういうこと? 当家と同じ事情で、とは?
「いっそ、それなる我が娘・まさを娶り、当館を継いで頂きたいものでござる。……まあ為朝殿が、姉さん女房でも構わぬというのであれば……ではございますが」
「な、な、なんですとぉ~!?」
驚きのあまり、思わず某漫画キャラの如き怪態なポーズを取ってしまった。
そのケースは想像もしていなかった。比較的近い位置に座っている、オレの郎党達も一斉に驚きの表情に変わり、言葉を失う。
「ど、どういうことで?」
傍らの美女は、わずかに頬を染め、これまた艶っぽく俯いた。
(あかんわ)
この美女、色気があり過ぎる。
その色気、もはや凶器のレベルやぞ。クリティカルヒットを連続で食らっとんねんけど。そろそろオレのHP、尽きるんちゃう!?




