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転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
播磨にて

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尾道・橘の館

 牛打ちの藤太殿は、それがしよりざっと五つばかし歳上であろうか。

 我らに負けず劣らず、ガッツリ日焼けしている。腕も立ちそうだ。

「それがし、梅雨明けまで京に居りました。御曹司が京を去られたのと時を同じゅうして備後に戻りましたる故、御曹司のお噂は良う存じておりまする」

 なるほど。

「我が主・正通様が、御曹司に大層興味を抱かれましてな。御曹司が九州へ参られるのであれば、いずれ備後を通る筈、お見かけしたら館へ丁重にお招き申せ、との仰せで」

 それがし、これにて御曹司をお待ち申し上げておった、と藤太殿は言う。

「どう思う?」

 為朝様は、我らにそう問うた。

「う~む……」

 年嵩の兵衛太郎殿も吉田太郎殿も、首を傾げる。

「まあ、よい。寄るだけ寄ってみよう。どうせ宿を借りねばならぬだろうしな」

 為朝様はすぐに断を下された。何やら思惑がありそうだが、それも聞いてからの判断だ、と。

「されば……」

 藤太殿は馬に飛び乗り、我ら一行を案内し始めた。

 藤太殿の主、橘正通(まさみち)殿は備後国司・藤原為成の家来筋らしい。遥任(ようにん)、即ち国司本人は京に居て備後に赴任せず、藤太殿の主家が代々、その遥任国司に代わって当地を治めているのだとか。

 ちなみに京の藤原氏といえば、あまたの名門がある。

 それらの当主が国司として、地方に直接赴任することはほとんど無い。大概は一族の下級公家や家人を代理として赴任させる。橘正通殿も、その例であろう。

 その、正通殿の館は、この先一日足らずの尾道にあるという。

「尾道か」

 為朝様がつぶやくと、

「ほう。尾道をご存知か?」

 藤太殿が驚いたように問う。

「まあ、地名だけなら」

 為朝様がそれに応える。

「尾道……広島県。安芸広島……つまり安芸国か。いや、尾道は備後国言うてはるから、前世の広島県は安芸と備後やったんか。備後はてっきり岡山県かと……」

 つまり現在地はもう広島県……と、なにやらぶつぶつと呟いておられる。

 為朝様はかくの如く、時折意味不明な事をぼそりと呟かれる。だがそこは我ら郎党、慣れたもので、気にもとめない。

 その日の宿は、藤太殿の手配で、幾つかの屋敷に分宿した。皆、橘の家人だという。

「橘正通殿とは、どのようなお方だ?」

 夕飯を食いつつ、為朝様は藤太殿に尋ねる。

 藤太殿は飯椀を下ろし箸を置きつつ……いや食いながらで構わん、と為朝様に促され、

「穏やかな三〇半ばの、よう出来た御仁でござる」

「そうか」

 互いに飯を食いつつ会話する。

「武人というより、穏やかな君子と言うべき御仁。皆、心酔しており申す」

「その正通殿は、この八郎為朝に何の用事があるのか?」

「さあ……。まあ、色々とお知恵を拝借したいようで」

「うむ」

 翌朝早く、一行は当地を発ち、昼を一刻ばかし過ぎたところで目指す尾道・橘の館に到着した。


 所変わって、京。――

「はあ!? その、八郎為朝様とやらは、もうこちらに居らぬ……と?」

「いかにも」

 僅かに売れ残った在庫品のみを並べる、六条堀川は八郎ショップの前で、一人の少年が悲鳴にも似た声を上げていた。

 その手には、どこぞで手に入れたツルハシが握られている。

「もう、他の便利品は手に入らぬのですか?」

「左様でございます。八郎為朝様が当(やかた)を去りし後は、これらの製造を続けられませぬ。これに並ぶ品々が売り切れたらば、この見世(店)も畳みます」

「そうですか……。で、その八郎為朝様はどちらへ?」

「九州でございます」

「九州っ!!」

 少年は肩を落とす。

「おい。吉次」

 傍らに立つ大人が、少年に声をかけた。

「もう、諦めい。九州は遥か遠方ぞ。どうにもならぬ」

「いや……」

 しばらく見世の(のぼり)を呆然と眺めていた少年は、程なく決意を秘めた表情で大人を見上げる。

「おっ(とう)。おいらは八郎為朝様を追いかけて、九州へ行きます。おっ父は奥州へ帰られよ」

「阿呆っ」

「八郎為朝様は、大層な知恵者でしょう。数々の便利品を生み出す知恵もさることながら、それらを一気に大量に作らせ、見世に並べる仕組み。その才覚、只者ではございませぬ。おいらは噂を聞いて、その妙に鳥肌が立ちましたぞ」

「解っておる」

()の御仁を追いかくることこそ、一世一代の大商いに繋がること間違いあるまじ。おいらは運を天に任せ、これより九州へ向かいます」

「無茶を言うな!」

「聞けば、為朝様も(よわい)一二。おいらも一二。無茶ではありますまい。おいらはもはや死んだと諦め、おっ父のみ奥州へ戻られ(おはせ)ませい。……いざっ!」

「おいおいおいっ!」

 おっ父と呼ばれた大人は慌てるが、少年は街中の雑踏に紛れ、瞬く間に姿を消した。

 大人はがっくりと肩を落とし、この阿呆が……と力なく呟いた。


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