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転生無双!! チン説弓張月 ―― 純愛路線かハーレムか!? それが問題だ!  作者: 幸田 蒼之助
播磨にて

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上手く勢いを制御せよ

 翌朝。

 それがし兄弟、それに為朝様と吉田太郎殿は、馬を四つ並べて備後へと向かった。

 寺から左に向かい、海沿いの路をとる。

 ……のつもりだったが、続くのは山合いの細路(ほそみち)である。海は全く見えない。

「おい。これでいいのか?」

「うむ……。寺の者から聞いた路は、これで良い筈でござる」

 まあ実際、平坦ではある。たまに、なだらかな登りが続くものの、馬が苦労する程ではない。為朝様の愛馬・しるびあ(ゝゝゝゝ)も、登りを苦とする様子はない。

 時折、なだらかな下りもある。

 為朝様は全員を止め、馬から下りて傾斜を確認する。

「下りが全て、この程度であれば問題ないんだが……」

 荷駄車を曳かせた馬で、この坂を無事に下れるかを検討しているらしい。

「兄上、これでござる。我らが見習うべき、為朝様の凄いところは。懸念は先々確認の上、対策の後に行動なされる」

「うむ。心得ておる」

 感心しきりの愚弟・重季に、それがしは頷く。

「頭を使う役目は、お前だ。お前はよく為朝様に学べ」

「いや、お前もしっかり学ばぬか」

 げらげら笑いながら、傍らの太郎殿がそれがしの肩を小突いた。

「武芸のみでは世を渡れぬ」

 しばらく下り坂を歩いていた為朝様がしるびあ(ゝゝゝゝ)に飛び乗ったので、我らも後に続く。四人は再び騎馬にて、なだらかな坂を下った。

 またもやなだらかな上り坂になり、そしてなだらかな下り坂が短く続き、

「海が全然見えんぞ。こりゃ路を間違えたな」

 などとボヤいているうちに、峠の一番上へと辿り着いてしまった。路肩の大きな岩に、

 ――福浦峠

 と書かれている。

「おそらく、ここが一番高い地点やろなあ」

 逗留した寺は、確か赤穂の天和だと言っていた。天和からこの峠まで、ざっと二里(八キロ)ほどか。

「ここまでは、まあ問題ござるまい」

「ああ、そうだな。だが、ここからが肝心だ」

 愚弟の声に、為朝様が応える。

 はたしてその後は、ほとんど下り坂だった。

 が、これまでの下りと傾斜はほとんど変わらない。極端な傾斜は皆無であった。一里(四キロ)程で、左に海が見えた。海岸端の標高まで下り切ったらしい。

「ここは、どこだ?」

 通りがかりの農民に問うと、

「備前国は、日生(ひなせ)ですだ」

 とのこと。

「おお、良かった。もう備前に着いたか」

「そのようですな」

 まだ、真昼である。半刻も休憩すれば、再び戻って日の落ちる前に寺へ辿り着けるだろう。

「為朝様、いかがでござろう。為朝様の腹案にてあの峠を超え、ここまで無事辿り着けそうでござるか?」

「ああ。慎重に進めば、まあ何とかなるだろう」

 四人はしばしその地で休憩し、再び山道を駆け寺へと戻った。

「路を間違えてしもうた」

 為朝様は、昨夜の坊主の一人に声をかけた。

「そなたらが教えてくれた、海際の路の方が、ラクに移動出来るか?」

「うむ……。まあ、似たようなものでしょう。皆、騎乗であれば、どちらでも構いませぬ」

 坊主はそう応える。

「徒歩の者達も居りましょうから、海際の路の方が良うございましょう。されどやはり、上り坂はございます。むしろ起伏が多少キツく、おまけに海岸線ゆえ、距離も(なご)うなります。どちらも善し悪しですな」

「起伏がキツいのか……。馬に、車を曳かせている。だからキツい下りがマズいのだが」

「されば、御前様が本日通られた、福浦峠越えの方がよろしいのでは? 起伏が緩く、距離も短うございます」

「そうか」

 行路が決まった。

 その翌朝。一行はまだ薄暗いうちに、寺を発った。――

 我らの留守中、一行は為朝様の下知通り、丸太を調達していた。それらを荷駄車の御者台に、一本ずつ備えさせている。

「よいか。これより山路に入る。まあ、大した坂では無いから、然程心配は要らぬ」

 為朝様は一行を止め、そう声をかけた。

「上り坂に差し掛かれば、御者以外は全員、荷駄車から降りろ。荷を積んだ荷駄車は三人で、人が降りて空荷の荷駄車は一人で、後ろから押せ。馬の負担を軽くしろ」

「はっ」

「むしろ気をつけるべきは、下り坂だ。荷駄車がゴロゴロと勢いづき、前を行く馬にぶつかってしまう」

 馬を損ねてしもうては、痛手ぞ、という為朝様の声に、皆、神妙な顔で頷く。

「ゆえに昨日、丸太を用意させた」

「……」

「下り坂で荷駄車が勢いづけば、丸太を地面に突き立て、勢いを殺せ。馬に荷駄車がぶつからぬよう、上手く勢いを制御せよ」

 為朝様は実際に御者台に座り、丸太を地面に突き立てたり、少し斜め前の地面を丸太の先で擦るようにして、皆に荷駄車の勢いを殺す手本を見せた。

 皆、神妙な顔つきで為朝様の動作に見入る。

「なるほど。巧い手でござる」

 年嵩の郎党達が、しきりに感嘆の声を上げる。愚弟も丸太の使い(みち)を既に予想していたようで、うんうんと頷いている。

「おそらく、慣れるまでは結構難しいぞ。この先の緩い下りで少しずつ練習せよ」

「はっ」

「峠の一番上までが、およそ二里。午前のうちに、辿り着くだろう。して、峠の下りがおよそ一里。下りの方がラクだが、むしろ慎重にやれ。下り終えた先は備前国だ。……さて、では行くぞ!」

「おうっ!!」

 こうして初の、為朝様一行による山越えが始まった。

 大した難易度ではないことが、幸いである。

(いや、大したことないと言えるのは、昨日為朝様と入念に確認を終えているからこそ……)

 そう気付いたそれがしは、改めて、主・為朝様について考えさせられた。

(思考。慎重な行動に、計画……)

 ただの、武芸にのみ秀でし豪傑ではない。事を為すにあたり、それを確実にやり遂げる知性が備わっている。

 加えて、それこそ荷駄車など、数々の便利品を考案する発想力。――

(我らが御大将は、見事じゃ!)

 見事、という陳腐な言葉しか思い浮かばぬ、おのれの間抜けっぷりが情けない。

 が、まあ、よい。アタマの方は、愚弟に任せておけばよいのだ。それがしは武術にて、為朝様をお支え申し上げる。

 ひとたびいくさともなれば、為朝様お一人で戦うわけではない。

(それがしはいくさの場において、為朝様をお支えすればよい)

 そう、肝に銘じた。


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