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新星機動のアサルトフレーム―タケミカヅチ・クロニクル―  作者: 河原 机宏
第2章 始動、新生アマツ部隊

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コンビネーションアタック①


『それでは十分後に二機の連携試験を開始する。<タケミカヅチ>と<クラミツハ>は指示があるまで現在のポイントにて待機』


 十分休憩したら次の試験か。<タケミカヅチ>の起動試験が終わってからずっと待機しているので思ったよりも休憩しっぱなしな気がする。

 早く連携試験をやりたいと思っていると<クラミツハ>から通信コールが来た。


「プライベート通信? 何かあったのかな?」

 

 通信を許可するとフィオナの姿がモニターに表示される。


『休憩中のところごめんなさい。今大丈夫ですか?』


「うん、大丈夫だよ。何かあった?」


『特に何があるという訳じゃないんですけど、次の連携試験で足を引っ張っちゃったら申し訳ないと思って……』


「何だ、そんな事か。というか、こっちが足を引っ張らないか不安だよ。――さっきの<クラミツハ>の試験は見事の一言に尽きるし射撃は百発百中だし凄かったからね」


『ありがとうございます。カナタも凄かったですよ。フルスペックの<タケミカヅチ>をいきなりあそこまで扱えるなんて』


 先程の試験でのお互いの感想を語り合う。気が付いたら今日の晩ご飯は何にしようかという内容に変わっていたところで連携試験開始の時間になった。

 本来ならこの時間を使って連携のフォーメーションなどを相談するべきなのだろうが、そんな必要は無いとお互い感じていた。

 これまでのシミュレーター訓練で互いの戦い方の特徴は熟知しているし、普段の雑談でそういう話は何度もしてきた。既に連携に対するイメージは固まっている。


『これよりポイントS―07にターゲットを配置する。<タケミカヅチ>と<クラミツハ>の両機は速やかにターゲットを撃破せよ。そこに至る戦術は両パイロットの自由とする。――以上じゃ』


 爺ちゃんから連携試験の説明が手短にされると『オノゴロ』の南側のエリアにターゲットと思しき反応が出現した。

 モニターで拡大してみるとさっきの試験で使われていたシールドドローンとは形状が違う。人型――一機のA(アサルト)F(フレーム)が佇んでいる。

 マッシブな体格と分厚い装甲からパワーと防御に性能を割り振った機体みたいだ。


『私たちは北端のエリアにいますから少し距離がありますね』


「まずは距離を詰めよう。ハイマニューバモードで一気に接近し速やかに処理する、って感じでいいかな?」


『私も同じ事を考えていました。それでは早速行きましょう』


 アディショナルブースターの出力を全開にして高速移動を開始する。加速によるGが身体にかかりシートに押しつけられるが既にこの感覚にも慣れた。

 ハイマニューバモードで地面すれすれを飛行していると<クラミツハ>が近づいてくるのが見えた。その瞬間フィオナの意図が手に取るように分かった。


 こちらからも彼女の方に機体を移動させ横に並んで飛行する。

 ルート途中で微妙な移動が必要な箇所では二機とも同じ動きをしたり直列に並んだりしたりと特に問題なく目標近くまでやってきた。

 ハイマニューバモードが終わると同時にフィオナが牽制としてアマノヌボコのバスターマグナムを発射した。

 普通の相手ならこれ一発で終了の流れだけど、そんな試験を爺ちゃん達がするハズがない。

 案の定、バスターマグナムは直撃した瞬間に弾かれ複数のビームの粒子に枝分かれして周辺に着弾した。


『弾かれた!?』


「強力なD(ディバイン)フィールドの展開を確認した。こいつ、予想以上の防御性能を持ってるな……」


 予想はしていたもののバスターマグナムほどの威力がここまで通用しないとは思わなかった。

 何が二機の連携を確認するための試験だ。普通に戦ったらこの標的にはまともにダメージが通らない。試験内容を耐久試験に置き換えた方が良いんじゃないか?


『ふはははは! 見たか、カナタ。こいつの防御力を!!』


「爺ちゃん、またとんでもない物を造ったね」


 満足そうな笑みを浮かべる爺ちゃんがモニターに映る。その後ろでは同じように笑っているテツさんが見える。こういう部分も師匠と弟子で受け継がれているらしい。


『そいつは重装甲型AF<チャリオット>を改造したものでな。そこに整備班で急造した追加装甲型ウェポンモジュールの試作型を装備させたんじゃよ。<タケミカヅチ>を海底から引き上げた時に装着していた増加装甲があったじゃろ。あれを参考に装甲の軽量化とDフィールド出力向上を狙ったたたき台じゃ』


「あれか! 確かに機体の運動性はがた落ちするけど防御力に関しては凄かったね。ライフルやミサイルを何発食らっても平気だったし……」


『あの増加装甲は全てを防御性能に割り振ったウェポンモジュールでしたから。その防御力を保ったまま改良されているのでしたら破壊するのは骨が折れますね』


 笑う爺ちゃん達とは対照的に僕もフィオナも苦笑いする。爺ちゃんのあの様子から見るとかなり満足した出来に違いない。だとしたらあの防御力を突破するのは難しいぞ。


『……技師長。今の話から察するにあの試験機の改造費と追加装甲の製作費はどうしたのですか?』


『え、あ、やべ……』


『先日、使途不明金があったと報告があったのですよ。使い込みがあったのが整備班からだったそうですが、アレの製作費だったと言う訳ですね』


『ちょ、アメリア副長、そんな怖い顔で睨まんで……。老い先短いジジイの戯れだと思って温かい目で見てくれんかのう?』


『そんなに元気なら、あと五十年は安泰です! それに怖い顔で済みませんでしたね。わたしは元々こういう顔です!!』


『ひぃっ! ご、ごめんて……』


 怒るアメリア副長と怯える爺ちゃんの声、慌ただしい皆の声が聞こえたのを最後に通信司令室との連絡が途絶えた。

 ……ここからは目の前にいる標的を破壊する事に集中しよう。


『どんなに強力な防御性能を持っていたとしても連続で攻撃を受け続ければやがて限界を迎えます』


「そうだね。つまりは本来の目的通りにやれば良いって訳だ。フィオナ、援護を頼む。僕は接近して奴を斬り刻む!」


『任せてください。それじゃ、まずはこちらからいきます!』


 再びバスターマグナムが発射され<チャリオット>のDフィールドに直撃した。今度はビームは分散されずに一点集中で命中したものの突破することは敵わなかった。

 

『やっぱりビームの速度を落として貫通性を抑え目にすればいけそうですね』


 さっきの失敗をすぐさま修正してきたフィオナの対応力に驚かされつつも自分の役目に頭を切り替える。

 まずはライキリでどの程度いけるかやってみる。


「接近戦なら!!」


 ライキリの二刀流で斬りつけると<チャリオット>は両肩に装備していた武装を前面に動かしてきた。

 折りたたまれた状態だったそれは展開されると一枚のシールドになる。それが左右合わせて二枚となりライキリのビーム刃を受け止めた。


「なっ……!?」


『――当然<タケミカヅチ>の近接攻撃にも対応できるようにシールドも完備しておる! ピンポイントでDフィールドを発生するから簡単に斬り裂くことは出来んぞ』


 さっきより少しボロボロになった爺ちゃんがモニターに映り、アメリア副長のお叱りの声と共に画面が消えた。――修羅場らしい。

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