フィオナ出撃
起動試験前半が終了し、作戦司令室は<タケミカヅチ>の試験内容が非常に良かった事でホクホクした雰囲気になっていた。
そんな若干緊張感が薄れた中、フィオナによる<クラミツハ>の起動試験が開始されようとしていた。
技術チームにとっては<クラミツハ>が装備している大型ライフル『アマノヌボコ』の性能テストという意味合いの方が強いかも知れない。
装備しているライフルがアマノヌボコ一丁だけという事もありアメリアは整備班班長のテツに質問した。
「テツ整備長、わたしと艦長はアマノヌボコに関して事前情報をもらっていませんでした。あれはどのような装備なのですか? 形状から見て大出力型のライフルだとは思うのですが……」
テツは新武器の説明が出来ると言うこともあって怪しい笑顔を見せ、アメリアは本能的に距離を取る。
「ふふふ……副長さん、あれは<クラミツハ>専用に開発されたウェポンモジュールでさぁ。状況に応じて三種類のビームを撃てる多目的ライフルっすよ。それによりあれ一つで中距離から超長距離をカバー可能なんす。従来の<クラミツハ>は状況に応じて各種ライフルを使い分けるという運用がされていましたが、装備数の増加は機体重量の増加に繋がり機動性が低下するという弊害がありました。アマノヌボコはその弊害を取り除き、他のウェポンモジュールを装備可能にすることで機体の汎用性の幅を広げる事に一役買ってるんすよ!!」
興奮で目を血走らせ早口でまくし立てながら近づいてくるテツに恐怖を感じアメリアは後ずさりしていた。
「な、なるほど……それで<クラミツハ>にも高機動用バックパックが装備されているんですね。さらに左肩にシールドを装備して防御力を上げ機体性能のバランスを上げていると言うことですか」
「さすが副長殿、そこに目を付けますかっ!!」
「ひっ!」
興奮して更ににじり寄ってくるテツに対してアメリアは小さく恐怖の声を漏らす。それを見かねたノーマンはテツの頭を引っぱたくと距離を取らせて説明を加えた。
「あのシールドは防御よりも攻撃力アップを狙った追加装備じゃ。<スサノオ>が使用しているディフェンサーシールドを改造しフェザーセルを使用できるようにしてある」
「フェザーセルは女性パイロット……それも適正のある者でなければ扱えないはずですが、フィオナ軍曹はそれが出来るということですか?」
「無論問題なく扱える。フェザーセルはナノニウムを核とした高密度D粒子の弾なのは知っていると思うが、それの遠隔操作はナノニウムと一種のコミュニケーションを取ることで実現している。ナノニウムへの命令伝達は男性よりも女性の方が遙かに優れていることからフェザーセルは女性にしか扱えん代物になっている。フィオナのフェザーセルへの適正レベルはセルティと同等じゃった。その気になれば<アマテラス>と同様にフェザーセル運用を主体とした機体も扱えるはずじゃ」
「それなら<クラミツハ>をそのような仕様にするのもありと言うことですか……」
アメリアがポツリとこぼすとセルティがその意見に対し異を唱えた。
「それはあまりお勧めしないわね」
「どうして? フェザーセルは威力、命中率、射程、その全てにおいて優秀な兵装のはずでしょ?」
「フェザーセルは複数のナノニウムに同時にあれこれ命令するから結構集中力を必要とするのよ。あんたにしてみればブリッジクルー一人一人に戦闘中細かく指示を出し続けるのと一緒なの。――それ、やりたい?」
「……やりたくないわね」
「つまりはそういう事よ。フェザーセルの使用には精神力を削るから長期戦には向かないし、<クラミツハ>は本来の立ち位置である<タケミカヅチ>のサポート役として運用するのが部隊としてはベストなわけ。だから現状装備のように牽制用に留めておくほうがフィオナの負担も少なく済む。あの子が実際どこまで扱えるかはこの試験でハッキリするんだけどね」
「なるほど……」
<クラミツハ>の試験目的がハッキリした所でいよいよ起動試験が開始された。
「<クラミツハ>、発進どうぞ」
『了解。フィオナ・トワイライト、<クラミツハ>出ます!』
<クラミツハ>はカタパルトから射出されると試験前半と同様に高速移動で指定されたポイントに向かう。
その道中で何機ものシールドドローンが行く手を阻むように飛んでくる。
フィオナはアマノヌボコの銃口を向けると連射性に優れたヘヴィマシンガンモードで行く手を遮る飛行物体を一瞬で全て撃墜した。
すぐさま第二陣がやってきて取り囲もうと広範囲に散らばる。
動きを察知すると<クラミツハ>のディフェンサーシールドが前後にスライドし内部のフェザーセル発射口が露出する。
シールドから幾つもの光弾が射出され<クラミツハ>を守るように浮遊展開した。
『――そこっ!』
フィオナの命令を受けたフェザーセルは一斉に複雑な軌道で動き出し、近づいてくるシールドドローンに衝突して瞬く間に全機を破壊した。
その間<クラミツハ>は減速する事なく指定ルートを進んでいき、試験を見守っていた面々は驚きで言葉が出なかった。
続けて射出された進路妨害用のシールドドローンは複数機が一箇所に集合しDフィールドの出力を高める。
それをすぐに見極めたフィオナは単発火力が高いバスターマグナムモードに切り替えると照準を定めすぐさまトリガーを引く。
発射された高出力のビーム砲はシールドドローンのDフィールドを容易く貫通し射線上にいた機体を完全消滅させた。
障害を全滅させ順調に移動する<クラミツハ>をモニタリングしながら、通信司令室の面々は少しずつ感想を述べ始めた。
「これは驚いたな。シールドドローンが出てきてから撃墜までが恐ろしく早い。しかも、相対する標的に対して適確なモードで対応している。判断力もかなり高レベルだ」
「カナタ軍曹の実力にも驚かされましたがフィオナ軍曹も遜色のないエースパイロット級の働きをしています。この二人が戦闘に加わることで戦術に幅を利かせることが可能になりますね」
ロイとアメリアは率直な意見を交わし、自分たちのAF部隊のレベルが大きく向上することを確信した。
圧倒的な操縦センスを披露しつつフィオナ操る<クラミツハ>は指定された最北端ポイントに到着し、ノーマンが次の指示を送る。
「フィオナ、今からポイントS―12にターゲットが出現する。それをアマノヌボコのスナイプモードで撃破するんじゃ」
『了解しました』
ノーマンの指示で『オノゴロ』の南側に一機のシールドドローンが姿を現す。Dフィールドを展開しつつ一定範囲を高速飛行し始めた。
『オノゴロ』という直径約二十キロメートルの最北端から最南端にいる小型機への狙撃試験。標的が小さい上にちょこまかと動くので命中させるのは難しい。
高難易度の要求に臆する事なくフィオナは<クラミツハ>をうつ伏せにした。アマノヌボコの銃身がスライドしてロングバレルとなりスナイプモードに移行する。
<クラミツハ>の前額部のセンサーバイザーが下がりメインカメラを覆うとコックピットモニターが狙撃用に切り替わり、遠くで飛行している標的が拡大表示される。
狙撃に備えてライフルのエネルギーチャージが開始され間もなく臨界に達した。
フィオナが深呼吸し息を吐くと照準が定まる。
引き金を引くとアマノヌボコからバスターマグナムを超える出力のビーム砲が発射され、『オノゴロ』南端にいたシールドドローンは蒸発するように破壊された。。
こうして圧倒的な実力を示したフィオナと<クラミツハ>は鮮烈なデビューを飾り単独の起動試験は終了した。
そして本試験は<タケミカヅチ>と<クラミツハ>二機による連携試験へと突入するのであった。




