カナタの資質
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<タケミカヅチ>のオーバーホールは予定通り終了しフレームへのアーマー取り付け作業及び最終チェックは午前中に完了した。
午後に入ると『オノゴロ』表層の試験エリアにある通信指令室に人が集まっていた。これから予定されている<タケミカヅチ>と<クラミツハ>の共同起動試験の関係者たちだ。
試験を取り仕切る技師長ノーマンを筆頭に試験中のオペレーティングを担当するのは<アマギ>のオペレーター【ニナ・スノウ】。
そして整備班班長テツ、アマツ部隊隊長セルティ、<アマギ>艦長ロイ、副長アメリアが立ち会う。
その他にも『オノゴロ』の技術チームが試験中データ採取のため数名ほど来ている。
「いよいよ二機の試験か。カナタ軍曹とフィオナ軍曹の訓練は順調と聞いていたが二人がこの試験でどのように機体を乗りこなせるのか見物だな」
ロイが試験が始まるのを今か今かと楽しみにしている様子を見てアメリアは眉をひそめる。
「艦長、この試験結果は<アマギ>の戦力に直結するのですから遊び感覚でいて貰っては困ります」
「ああ、すまんすまん。私としては二人が戦力として十分なレベルに達しているのを前提で考えているからな。注目するのは二人のコンビネーションのレベルがどれほどかと思っている。――でその辺りはどうなのかな大尉?」
ロイから質問を投げかけられたセルティは胸の前で腕を組みモニターに映るカナタとフィオナの様子を見ながら答えた。
「訓練では体力作り、シミュレーターでは個人戦闘プログラムを実施中です。チームのフォーメーション関係はこれから行っていく予定です。ですから二人が試験中にどのような連携をするのかは未知数。でもまあ、あの二人なら面白い結果を残すでしょ」
適当と思える返しに技術チームの面々は心配した様子を見せる。
だがセルティ・デイブレイクという人間を知っている<アマギ>の関係者は、それは彼女がカナタとフィオナに全幅の信頼を寄せている故の言動だと捉えていた。
「試験開始五分前。<タケミカヅチ>、<クラミツハ>の二機はカタパルトデッキにて待機をお願いします」
『了解』
『了解しました』
ニナの通信に紺色のパイロットスーツに身を包んだカナタとフィオナが応答する。
通信指令室のモニターには『オノゴロ』の地表に設置されたAF用カタパルトデッキにて出撃態勢を取る二機の姿が映し出される。
一機は純白の装甲に身を包んだAF<タケミカヅチ>。
オーバーホールを経てフルスペックを発揮出来るようになった本機にはアディショナルブースター搭載型高機動用バックパックが装備されている。
この起動試験において<タケミカヅチ>に求められているのは高機動運用がどの程度行えるのかという事になっている。
一方の<クラミツハ>の起動試験は<タケミカヅチ>の試験後に実施される。
本機には専用ウェポンモジュール『アマノヌボコ』が装備されており、それを使用した射撃性能評価と機体の機動性評価が行われる。
そして単独起動試験が終了した後には仮想敵に対する二機の連携評価試験が実施される。
その際の戦闘方法はパイロットであるカナタとフィオナに委ねられており、二人が互いの機体性能をどの程度理解し戦術に組み込めるのかが注目されている。
予定時刻になり今後のアマツ部隊の中核を担うであろう二機の起動試験が開始された。
ノーマンが指示を送るとオペレーターのニナがカナタに試験開始の通信を繋げた。
「カナタ軍曹、試験開始です。発進どうぞ」
『了解。カナタ・クラウディス、<タケミカヅチ>行きます!』
<タケミカヅチ>はカタパルトデッキから射出されると指定されたポイントへ移動を開始した。
バックパックのメインスラスターとアディショナルブースターに加えて下腿外側部に追加装備されたサブスラスターを駆使し、以前とは比較にならない速度でジグザグに設定されたルートを突き進んでいく。
その予想以上の機動性にロイは感嘆していた。
「まさかこれほどのスピードとは驚いたな。それにルートが複雑に曲がりくねっている箇所もほとんど減速せずに通過している。この短期間でカナタ軍曹は高速機動を完全にモノにしたみたいだな」
「艦長、驚くのはまだ早いぞ。――カナタ、次はハイマニューバモードのテストじゃ」
『了解、アディショナルブースター最大出力――ハイマニューバ!』
アディショナルブースターの出力が大幅に上がり<タケミカヅチ>は急加速した。
全長約二十キロメートルある『オノゴロ』の大地をあっという間に駆け抜けて最北端の位置に到達した。
「予定ポイントに到着したようじゃの。それでは次の段階に移行する。シールドドローン射出」
地表各地に設置してある射出口から何機も小型の無人航空機――シールドドローンが二十機発進した。
シールドドローンはDフィールドを展開し頑丈でありながら各部バーニアを噴射しちょこまかと複雑な軌道で飛行を始める。
<タケミカヅチ>は動き回りながらアサルトライフルで正確に標的を撃ち落としていった。
シールドドローンの数が半分程度になるとアサルトライフルをリアアーマーに懸架し両手にライキリを装備する。
スラスターと各部バーニアを組み合わせて一瞬でシールドドローンに接近し二刀流で一機、また一機と撃破していく。
モニターで<タケミカヅチ>の様子を見ているロイとアメリアは予想を大きく上回るカナタの操縦技術に感嘆の声をもらした。
「まさか……これほどとは」
「驚きましたね。即戦力とかそういう次元ではなく既にエースパイロット級の動きをしています。――セルティ大尉、この二週間で彼はどのような成長をしたのですか?」
「うーん、成長というか何というか……カナタは元サルベージャーってのもあって身体はしっかり鍛えられてた。過酷な仕事もこなしてきたから体力もそこら辺の軍人よりもあるしね。それにシミュレーターじゃフルスペック設定の<タケミカヅチ>をたった一日で乗りこなしていたのよ。成長もあるけど、それよりは順応したっていう表現の方が正しいかもね」
「……つまりカナタ軍曹は元々フルスペックのアマツシリーズを乗りこなす資質を備えていたと?」
「そうなるわね。それに今じゃ近接戦闘にハイマニューバを組み込んだ高速戦闘の訓練をしてるわ。接近戦に限定すればアマツ部隊で既にあいつは最強よ」
セルティ・デイブレイクは軽い性格ではあるが、パイロットの評価に関してはかなりシビアで褒めることは滅多にない。
同じ部隊に所属している者ならばそれは熟知している。そんな彼女が精鋭揃いの自分の部隊において『最強』という二文字を使った。
それはカナタが既にパイロットして高い実力を持っている事の証明となっていた。
「――そうなると気になるのはカナタ軍曹のサルベージャー時代だが、一体どういう訓練をしてきたんです、ノーマン技師長?」
ロイを始め皆の視線がノーマンに集まる。ノーマンはモニターでシールドドローンを斬り伏せていく<タケミカヅチ>を眺めながら口を開いた。
「カナタはわしと出会った頃には立派なAFマニアで一目見ただけで機体の特徴を把握する能力に長けておった。サルベージャーになりAFの操縦が板に付いてきた頃には機体の特性を生かす動かし方をマスターしておったしな。ただ、ずっと<ソルド>のようなお世辞にも性能が良いとは言えない機体ばかり乗っていたから気が付きにくかったが、<タケミカヅチ>を操縦するようになってから確信した。性能の高い機体もすぐに手足のように扱えるようになってしまう事からカナタのポテンシャルは未知数じゃとな。――つまりわしはAFの操縦に関しては特別なにも指導しておらんのじゃよ」
驚きで皆が閉口し静まりかえる通信司令室。間もなく<タケミカヅチ>が全てのシールドドローンを破壊したという報告がされ起動試験の前半戦は終了した。
この時点でロイは強力なパイロットが手に入ったという事で小躍りしたい気分になっていたが、起動試験後半――フィオナをパイロットに迎えた<クラミツハ>の試験を目の当たりにして腰を抜かす事になるのであった。




