幸福な時間
緩い雰囲気はありつつも、それを凌駕する厳しい訓練が開始され、最初の一週間は疲労で意識が飛びそうになりながら帰宅するという状況が続いた。
しかし慣れというものは恐ろしく体力もついてきたのか少しずつ余裕が出てきて自室で気絶するという事は無くなっていった。
――そしてあっという間に二週間が経過した。
「いよいよ明日ですね」
「うん、<タケミカヅチ>のフレームとアーマーの最終調整は済んで今は組み立て中。それが完了してチェックが終わったら起動試験……ああっ、今から楽しみだなー! さすがにシミュレーターにも飽きていたからね。早く実際に動かしてみたいよ」
「カナタは本当にAFが好きなんですね。……それと同じくらいえっちですけど……」
「……ごめんて」
宿舎に戻った僕とフィオナは夕食の準備をしながら明日の起動試験について色々と話していた。
二人の部屋を繋ぐ謎の扉については報告するタイミングを逃して以降、部屋では訓練疲れで寝るだけの生活が続いたのでうやむやになっていた。
部屋でくつろげる程度に余裕が出てきた頃には案外この扉は便利だと気が付き、こうして一緒に食事をするため行き来するのに活用している。
「今夜のメインはロールキャベツです。カナタはサラダの準備してくれました?」
「シーザーサラダを用意しました。どうですかフィオナ軍曹」
「ありがとうございます。これで立派なお夕飯になりましたね」
一緒に食事をするのは僕の部屋だ。フィオナの部屋には女性ならではの様々な物が置いてあるので基本的に彼女の部屋には立ち入らない事になっている。
テーブルに二人分の食事が置かれると「いただきます」と言って食べ始める。
「あー、コンソメベースのスープがロールキャベツに染みこんで噛む度に肉汁とスープが絡み合って芳醇な味が広がるぅ」
「もう、カナタったら大げさですよ」
二人でテーブルを囲む雰囲気がより一層食事を美味しいものにしてくれている。幸せというのはきっとこういう事を言うんだろうなあ。
食事を終えると食器を片付けて食後のお茶の時間だ。紅茶を飲みながらまったり過ごすのが最近のブームになっている。
「今日の夕飯も美味しかったよ。ごちそうさま」
「ふふ、カナタは一杯食べてくれますから作りがいがあります。それに最近はカナタもお料理上手になってきましたよね」
「これがあるからね」
そう言って端末画面に表示される料理のレシピを確認する。これは以前フィオナから貰ったレシピデータだ。
僕と爺ちゃんの食生活が偏食気味だったので、フィオナ不在時にはこれを見て自分で作るようにと言ってくれたものだ。
「でもカナタはお肉の料理しか作ろうとしないでしょ。ちゃんとお野菜の料理も作ってくださいね。食事はバランスが大事なんですから」
「はいはい……」
「「はい」は、一回で結構です」
「イエス、マム!」
「もう! ふふふ……」
軍隊っぽく返したら笑っていたので赦して貰えたらしい。まったりしていたらあっという間に就寝時間が近づいていた。
「それじゃ私はそろそろ自分の部屋に戻りますね。明日は私も<クラミツハ>の起動試験がありますから一緒に頑張りましょうね」
「うん、頑張ろう。それじゃお休み」
「お休みなさい」
フィオナが自室に戻ると途端に静かになる。特に彼女は喋り続けるタイプではないのだが、いるといないのとでは空気の静寂さが全然違う気がする。
「……さてとシャワーを浴びて明日に備えてとっとと寝るか」
明日は待ちに待った<タケミカヅチ>の試運転だ。シミュレーターを含めた訓練は十分にこなしたはずだ。
今の自分の実力で機体の性能をどれだけ引き出せるのか楽しみだ。




