軍事要塞オノゴロ④
「到着しました。ここがあなた方の宿舎です」
そこに立っていたのは十階建てのマンションだった。外観は一般的なデザインで同じマンションが幾つも並び建っている。
「この一帯の宿舎は我々アマツ部隊関係者の居住区画になっています。そのため近所には見知った顔がいると思いますので生活で何か困ったことがあったら彼らに訊いてみるのがいいでしょう。個々の端末に部屋のキーデータを転送しておきましたのでそれで入れます。今日はこれで終了です。明朝八時に迎えに来るのでこの場所で待っていてください。買い物なども端末で行えるようになっていますから問題ないでしょう。――ではまた明日」
アメリア副長は必要事項を言うと工場区へと戻っていった。最初から最後までキリッとしているキャリアウーマンだった。
これからあの人も上司になるのだから怒らせないように気をつけよう。
「それじゃあ、早速お部屋に行きましょう。それで少し休憩したら皆で外食に行きませんか? 美味しいお店がいっぱいありますよ」
「さんせー! それならあーしはラーメンが食べたい!」
「オレは焼き肉がいい!」
「んだとー、ポンペのくせにー! あーしはラーメンが食べたいの!!」
「でしたら焼き肉ラーメンのお店があるはずですよ」
「「あるの!?」」
こうしてフィオナの提案で皆で外食に行くことになった。その前にそれぞれあてがわれた部屋で小休憩を取る事にした。
エレベーターで上に上がっていくと一人また一人降りていき残ったのは僕とフィオナだけになる。
「次が八階か……」
「カナタのお部屋も八階なんですか? それじゃ私と同じですね」
「そうかぁ、奇遇だね」
エレベーターから降りて端末に表示されている部屋に歩いて行き自分の部屋の前へと到着した。
ふと隣を見るとフィオナが立っている。
「……奇遇だね」
「そうですね。まさかお隣さんだったなんて思わなかったです。それじゃ後で一緒に出かけましょうね」
「一緒に出かけましょうね」というフレーズに何かくるものを感じつつお互い鍵を開けて自室に入っていく。
部屋に入ってみると間取りは1DKで一人で住むには丁度良い感じだ。家具や生活必需品は最低限揃っていて個人的には十分だと思う。
それに清潔感もあって<ランドキャリア>の自室とは大違いだ。
「この部屋を以前の部屋のようにごちゃごちゃにしないように気をつけないと」
――と言いつつきっと趣味の物を集めたり片付けを怠ったりして物だらけの部屋になる未来が見える気がした。
気を取り直してベランダに出てみると街が広く見渡せる絶景に思わず声が出る。既に居住区の照明は夜バージョンになっていて夜景が綺麗だ。
「わぁ、良い眺めだなぁ」
「本当に綺麗ですねぇ」
独り言に合いの手があり驚くとフィオナが悪戯っぽく微笑んでいた。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも私も同じ事を思ったからつい……」
「びっくりしたけど気にしてないよ。――この街には沢山の人が住んでいるんだね」
「そうですね。そのほとんどが私たちと同じ『ノア11』を守る為に戦っている人たちなんですよね」
「うん、そうだね」
サルベージャーとして生活していた頃、同業者は仲間というよりはライバルという意味合いの方が強かった。
仲間として接することが出来たのはバルト達を含め少数だろう。その頃と比べるとこれだけ沢山の仲間がいるのは本当に心強いと思う。
「フィオナ……少し時間が掛かるけど必ず君の依頼は達成する。だからそれまで待っていて貰えるかな」
「もちろんです。でも、カナタにばかり負担をかけられません。元々は私の我が儘から始まった事なんですから。――だから、私も自分に出来ることは何でもするつもりです」
「頼もしい……」
「ふふ、そうですよ。私こう見えても結構たくましいんですから。それじゃ、そろそろお夕飯を食べに行きましょうか」
「そうだね、落ち着いたらお腹すいたよ」
バルト達と合流しショッピングモールに行くと広々とした通路が続いていて、その周囲に様々な店が建ち並んでいた。
飲食店の数も相当で種々の麺類店、肉料理、エスニック、カレー等これだけのラインナップは今まで見たことがない。
フィオナが行っていた焼き肉ラーメンの店は割とすぐに見つかり今回はそこで夕食を摂ることにした。
この店一押しの焼き肉ラーメンを注文し、しばし待つ。数分後、芳醇な香りと共に焼き肉ラーメンが運ばれてきた。
チャーシューとは違う特製ダレにつけ込まれた焼き肉がたっぷり入っていて麺が見えない。ネギや海苔、ほうれん草といった脇役たちが彩りを表現しているが、やはりこのラーメンの主役はその名の通り『肉』。
その内の一枚を口の中に放り込んでゆっくり咀嚼するとジューシーな肉汁とパンチの利いた濃厚なタレの味が広がり肉はジュースのように溶けていった。
スープは肉汁が溶け込んで飲む度に味が変化していき食べ飽きない。
そこからは堰を切ったようにラーメンを頬張り始める。
肉、麺、スープ、肉、肉、麺、スープ、時々水……この幸福なループは食べ終えるまで続き、気が付けば皆食べるのに夢中で終始無言で夕食は終了した。
「あー、美味かったなぁ。今度また来ようぜ。――さて、せっかくここまで来たんだ。色々見て回ろうぜ」
お腹を満たした後はバルトの提案でショッピングモールを散策して回った。ここの通路は直線コースで約三キロメートルあるらしく、一番端の所までやってきた。
「オレ達はここから色々な店を見ながら帰るつもりだが、カナタとフィオナはどうする?」
「僕は宿舎に戻ってゆっくり休むことにするよ」
「私も戻って早めに休もうと思います」
「そうか、それじゃまた明日な」
バルト達と別れてフィオナと一緒に宿舎に向かって歩き出す。周りをよく見ると男女で楽しそうに買い物をしたり食事をしたりしている人たちが多いことに気が付く。
これはまさか……皆さんデートをしているのか?
ちょっと待てよ。よく考えたら僕もフィオナと二人で歩いている訳で彼らの目にはどう映っているんだろう?
「恋人同士なのでしょうか?」
「えっ!?」
こっちの心を読んだようにフィオナが突然言ったので驚いて鼓動が速くなる。
「え、ど、ど、どうしたの急に?」
「男女一組で楽しそうにしている方々が多いので恋人同士なのかな、と。カナタはどう思います?」
「あ……ああ、そうだね……きっとそうかもね」
恥ずかしい。心のどこかでフィオナが僕たちをそう思っていてくれたら……と期待してしまった。
自分からは何のアプローチも努力もしていないので、そう都合良く物事が進むはずがないのに……。
『オノゴロ』に着く前のテツさんとのやり取りを思い出す。「頑張ってみる」と僕は言った。それが今なのではないだろうか。
明日からは正式に軍人として活動を始めるので今後このような機会が訪れるか分からない。
それなら――。
その場で立ち止まり視線をフィオナに向ける。そんな僕をキョトンとした顔で彼女が見ている。
「どうしたんですか? どこか調子でも悪いんですか?」
「あのさ、フィオナ。君に話が――」
言いかけた時、近くの店から怒声が聞こえてきた。




