軍事要塞オノゴロ③
僕とバルトはパイロット、アンナとジタンは整備士、ポンペは操舵手への配属になった。爺ちゃんは整備班の技師長に復職するのでアンナとジタンの上司になる。
フィオナに関してはまだ明確に何処の所属になるのか辞令が出てはいなかったが、彼女は料理上手なので厨房へと配属になるのではないだろうか。
そうなればこれからも彼女の美味しい料理が食べられるのでとても嬉しい。
一通り説明が終わり休憩となったのでバルトの所に行くことにした。僕はフィオナの依頼を達成する事をきっかけとして軍属になることを決めた。
けれどバルト達は首都である『クレイドル』を含め権力を持っている組織に対して否定的な感情を持っている。
そんな彼らが軍属になると決めたのは僕が彼らを巻き込んだせいかもしれない。
「バルト、ちょっと良いかな」
「ん……? どうした、深刻そうな顔して」
「いやさ、バルト達が軍属になるとは思ってなかったからさ……」
バルトは「ああ、そんな事か」という感じで気にもとめていない様子だ。
「まさかオレ達がお前に付き合って軍人になったとか思ってんじゃないだろうな? だとしたらとんだ勘違いだぜ。これだけ『ノア3』の連中が攻めてきている状況でサルベージャーなんてやってたら、奴らと遭遇した時に確実に殺される。かと言って逃げ続けるなんて生き方はオレ達の性分じゃない。――だったら、やられる前にぶっ潰す。この選択が一番オレ達らしいって思ったんだよ」
アンナ、ポンペ、ジタンも首を縦に振る。彼ららしい答えに安心した。こちらが安堵していると今度はバルトが訊ねてくる。
「んで、そういうお前はフィオナの為に軍人になることを決めたのか? 行動力ありすぎだろ……」
「もちろんそれもあるけど、それだけじゃないよ。僕は百年前の戦争にも深く関わっていて、敵との因縁も少なからずある。この手でその因縁に決着を付けたいと思ったんだ。あとはバルト達と同じだよ」
「……そうか。だったらやるとは今までと同じだな。これからもよろしく頼むぜ、カナタ」
「バルト……うん、よろしく!」
バルトと握手を交わしサルベージャーではなく軍人としてお互い戦場に身を投じる覚悟を決めた。
やることは今までと同じかも知れない。――けれど、バルトの手から伝わってくるのは以前とは明らかに違う熱量だった。
休憩が終わると軍服製作用に採寸をして居住区へと向かった。案内人は引き続きアメリア副長が務めてくれるようだ。
『オノゴロ』内部はかなり広く各セクションを移動する際には自動車を使用する。
この車は行き先を入力すれば完全自動で動くので非常に楽ちんだ。
工場区から居住区に入ると風景が一変した。工場区は中枢施設と言うこともあり何処か殺伐とした印象が強かったが、居住区は一般の街のように賑わいを見せている。
「信じられない。これが本当に軍事基地の中だなんて……」
「……そうだよな。これじゃあ、結構栄えてる街と同じじゃねえか」
バルト達と平和な街並みに感嘆しているとアメリア副長が理由を教えてくれる。
「この『オノゴロ』が元は移民戦艦<ノア11>の工場施設だった話はご存じだと思いますが、その頃から居住区の設備は充実していたらしいです。いつ終わるか分からない宇宙航海の中で住人のストレス緩和は重要ですからね。ここには大型のショッピングモールを始めレジャー施設も色々とありますから非番の時には息抜きに行ってみると良いですよ。――そう言えばそろそろ夕方ですね」
居住区内の明るさが少しずつオレンジがかってくる。それはまさに黄昏時の哀愁を感じさせるものだった。
『オノゴロ』の地表は敵迎撃用の設備が整った要塞となっていて、居住区や工場区は内部に組み込まれている。
そのため居住区内は時間の経過に合わせて照明の明るさや色を調節して朝昼夜を表現している。
徐々に暗くなっていく街並みを見て少しだけ感傷的な気分になっているとフィオナが懐かしむような表情をしている事に気が付く。
「フィオナ……どうかした?」
「え? ああ、すみません。この風景を見ていたら、ちょっと昔のことを思い出してしまって……」
彼女はかつてのアマツ部隊の一員だった。この『オノゴロ』に滞在していた可能性は高い。
だとすればここにはかつての仲間たちとの思い出があるはずだ。――そう、先の戦争で死別した仲間たちとの思い出が……。
「……ごめん。そうか、ここには君の仲間たちとの思い出があるんだね」
「そんな謝らないでください。確かに皆との色々な思い出はありますけど、それは何も悲しい記憶ばかりじゃありません。楽しい記憶も沢山あるんです。――そう、楽しい思い出が……」
そう言ってフィオナは口を閉ざして夕暮れ時の街並みに見入っていた。
不適切かも知れないが、そんな少しだけ寂しそうな顔をする彼女の横顔を見て綺麗だと僕は思ってしまったんだ。




