軍事要塞オノゴロ②
オペレーターと思われる小柄で若い女性が通信内容を読み上げていた。
「艦長、『オノゴロ』より本艦の着艦許可が下りました。第三ゲートより入港せよとのことです」
「分かった。ヘルム曹長、艦の降下は緩めで頼む」
「イエッサー! スローモードで降下開始します」
操舵を担当しているのはヘルム曹長と呼ばれた長身の女性だ。そう言えばブリッジクルーを見てみると二十代くらいの若い女性が半数以上を占めている。
オペレーターと操舵手といったメインスタッフは全員女性だ。
女性は男性よりもコミュニケーション能力が格段に高いので大量の情報のやり取りを行う職種の適性が高いと聞いた事があるのを思い出した。
そういう背景があってブリッジクルーに女性が多いのかもしれない。
その一方で男性は空間認識能力に優れているためパイロットは男性の割合が断然多い。
ブリッジ要員の編成について漠然と考えているとバルトが肘でこっちを小突いてきた。ブリッジのモニターを怪訝な表情で見つめている。
「なあ、カナタ。オレ達は今、軍事基地に向かって降りてるんだよな? その割に下は海だけしか映ってねえぜ」
「ほんとだ。基地どころか小島すらない……」
降下している下方には海原が広がっているだけで何もない。バルトと首をかしげていると側にいるルーンがクスクス笑っていた。
「外部から見つからないようになってるって説明したじゃないですかぁ。もうすぐ面白いものが見られますよぅ」
バルト共々モニターを食い入るように見つめていると、オペレーターの女性が状況をロイ艦長に報告していた。
「間もなく『オノゴロ』の鏡面境界に接触します」
「少し艦が揺れますよぅ」
ルーンが注意した直後、艦内が少し揺れた。何が起きたのだろうと思っているとバルト達が驚いた表情でモニターを見ているのに気が付く。
僕もモニターに注目するとさっきまで一面海原だった所に巨大な島が存在していた。
明らかに人工物のそれは海上で異質な印象を放っており、そんなものを見逃すはずはない。それなのにさっきまで誰も気が付かなかった。
突如出現した軍事基地『オノゴロ』の姿に面食らっていると満足した表情のルーンが説明をしてくれた。
「さっき艦が揺れたのは『オノゴロ』の上空に展開されている微弱なDフィールド――通称『鏡面境界』と呼ばれる層に接触したからです。鏡面境界は光学迷彩とステルス機能を持っていて外部から視覚的にもレーダーにも映りません。この鏡面境界の機構をAFサイズかつ実戦仕様にしたのが<ツクヨミ>に搭載しているトバリなんですよぅ」
「へぇー、こいつは面食らったぜ。<ツクヨミ>や<ヤタガラス>の光学迷彩にも驚いたが、こんなに巨大な基地を全部見えなくするなんてスケールがデカすぎるぜ」
バルトが軍の技術力に素直に感心している。普段割と斜に構えている彼のこんな様子は珍しい。
彼の仲間たちであるアンナ、ポンペ、ジタンも驚きの余り目をぱちくりさせている。
「これが……『オノゴロ』……」
「その通りだ。この軍事基地『オノゴロ』こそが『ノア11』防衛最大の要であり我々の拠点でもある」
ロイ艦長の言葉が心に響く。今まで僕はサルベージャーとして根無し草の生活をしてきた。ここはそんな自分にとって初めてできた帰るべき場所なんだ。
「<アマギ>、着水します」
操舵手ヘルム曹長の見事な操舵技術によって<アマギ>はゆっくりと海上に着水した。そのまま『オノゴロ』に向かっていくと基地のゲートが開放されガイドビーコンが出される。
その光の誘導信号に沿って<アマギ>は基地内に入り水路を進んでいくと最奥にある巨大なドックに収容された。
ドック内には他に何隻もの戦艦の姿が見える。サルベージャー生活中にはとても見られなかった圧巻の光景に胸が躍る。
<アマギ>がドック内で停止すると周囲から伸ばされてきた幾つものケーブルが接続され大型のアームで艦体が固定された。
「<アマギ>、第三ドックへの収容完了。ドックからのエネルギー伝達ケーブル及び固定用アームの接続を確認しました」
「皆任務ご苦労だった。エンジン停止、ケーブルから艦内への電力供給開始。クルーは上陸許可が下りるまで待機」
機動戦艦<アマギ>による軍事基地『オノゴロ』への帰還シークエンスを堪能した後、基地への上陸許可はすぐに出た。
<タケミカヅチ>と<カグツチ>はDリアクター修理を含めオーバーホールの為に基地内にあるAF工場区に運ばれていった。
無事任務を終えた<アマギ>のクルーは艦内に待機人員を残し、それ以外は上陸して次の任務があるまで休息するらしい。
「それでは改めてお伺いしますが、サルベージャーの方々は所属は軍属に変更ということでよろしいでしょうか?」
アメリア副長が眼鏡をくいっと上げながら切れ長の目で僕たちを見る。彼女の意思確認に対して全員が頷いた。
「……分かりました。それではこれから軍属への手続きを行います。手続き終了後は各種説明と各々の配属先を決定した後に『オノゴロ』での自室案内を行います」
――こうしてアメリア副長はテキパキと手続きを進めていき、思ったよりもすんなりと僕たちは軍人となった。




