軍事要塞オノゴロ①
◇
どうもおかしい。ロイ艦長との話が終わってもうすぐ半日が経とうというのにフィオナと爺ちゃんが戻ってこない。
何かトラブルでもあったのだろうか? セルティ大尉やルーンに訊いたらフィオナは百年間もコールドスリープをしていたので念入りに精密検査をしているとの事だった。
それにしたって半日も時間をかけているなんて心配だ。
「カナタよ、フィオナちゃんが心配なのは分かるけどおやっさんが一緒なんだから大丈夫だって。だからコックピット前で行ったり来たりするの止めてくれる? 気が散るからさぁ」
「あっ、済みません。……それはまあそうなんですけど身体の何処かに悪い部分でもあったのかも……」
考えれば考えるほど悪い状況が頭をよぎる。
すると<タケミカヅチ>のコックピット内で作業をしているテツさんが見かねたのか気分を変えようと話題を振ってくれた。
「そういや、お前とフィオナちゃんって付き合ってんだろ? この幸せ者め~、さっきはよくも見せつけてくれたなー」
整備班のフィオナ歓迎の件をテツさんがにやけ顔で言ってくる。セルティ大尉と言いどうして皆同じ事を言ってくるんだ。
「ですから付き合ってませんって。何を根拠にそういう事になるんですか?」
「えー? いやさ、だって俺がフィオナちゃんと話してた時にアイコンタクトして間に入ってきただろ? あれを見たら誰だってそう思うよ。目を見れば考えが分かるとか相手の事をよほど理解してないと出来ない芸当だぜ」
「そうなんですか? そういうのあまり意識していなかったんで今言われて初めて気が付きました」
テツさんは作業していた手を止めると呆れた顔で僕を見る。そして深くため息を吐くと再び作業に戻る。
「とにかくお前はとっとと告白しろ。そしてリア充となって爆発しろ」
「爆発したくないですよ! ってか知り合ってまだそんなに経っていないし、いきなりそんな事言って嫌われたら……」
「いや大丈夫だから! 二人であれだけ良い雰囲気出しておいて告白拒否されるとか絶対ありえないから! もしも失敗したら整備班全員で切腹するレベルよ。お前アイコンタクトであの子の考えてることは分かるのにそういう気持ちは分からないのか。普段の生活で朴念仁とかって言われたことない!?」
「……あります」
「やっぱりなぁ。だってお前、典型的な朴念仁だもん。他人の心の機微に敏感なのか鈍感なのかいまいち分からんのよなぁ」
そんな……自分が朴念仁だということに太鼓判押されてもどう反応したらいいのか分からない。
けれど今の状況に甘んじていても良くないと言うことだけは自分でもよく分かっているつもりだ。
「テツさん……僕、頑張ってみようと思います!」
意気込みを告白すると何故かテツさんは顔を背けてこっちを見ようとしない。
「ちょ、テツさん聞いてます? ほら、頑張るって言ってるでしょ!」
「何を頑張るんですか?」
聞き覚えのある甘い女性の声が後ろから聞こえてきた。ゆっくり振り返ってみるとそこにはフィオナがニコニコしながら立っていた。
「はうあっ! ふぃ、フィオナさん!? いつ戻ってきたの!?」
「ついさっきですけど。それよりも鼻息を荒くして……何を頑張るんです?」
フィオナが前屈みになって訊いてくる。そのポーズだと豊かな胸が強調されてビジュアル的にヤバい。
半日ぶりの眼福だ。フィオナは天然でこういう事するんだよなぁ。個人的にはありがたいけど、これが周囲に晒されるのは避けたい。
――もしかしてこれが独占欲というものなのだろうか?
「あ、いや、そのあれだよ。……戦いだよ。<タケミカヅチ>も修理されるし、本格的に戦争に関わることになるから……戦いを頑張ろうかと」
「そうだったんですね。確かに軍属ともなれば日々の訓練とか実戦とかやることが沢山ありますから。お互い頑張りましょうね」
「そ、そだねぇ……」
結局日和って告白云々の話をする事は出来ずじまいだった。視線を感じてそっちに目を向けるとテツさんが「情けない」という顔でこっちを見ていた。
いたたまれない気持ちで立ちすくんでいると艦内に全体放送が流れた。
『全クルーに通達。あと二十分ほどで本艦は『オノゴロ』に到着します。クルー各員は持ち場にて待機をお願いします。繰り返します――』
どうやらもうすぐ軍事基地『オノゴロ』に到着するらしい。
このまま格納庫で待機していた方がいいのだろうか? 取りあえずフィオナと一緒に<タケミカヅチ>のハンガー付近で休んでいるとルーンがやってきた。
「あー、二人ともここにいたんですねぇ。艦長がブリッジに呼んでましたよぅ」
「ブリッジに!? 行っていいの?」
「ブリッジなら『オノゴロ』の姿が一望できるからっていう粋な計らいみたいですねぇ。それじゃあ行きましょうか」
ルーンに連れられてエレベーターで上がっていくとブリッジのある階層に到着した。
そこから少し進むと扉があり、取り付けられている端末にルーンが手を添えると扉が横にスライドして開いた。
「ルーン・ミッドナイト少尉入りまーす。カナタ・クラウディスとフィオナ・トワイライトの二名を連れてきましたよぅ」
戦艦の重要区画であるブリッジだというのにルーンはいつもの軽い感じで入っていく。彼女の後に続いて僕とフィオナもブリッジに入っていった。
「し、失礼します」
「失礼します」
「おお、二人ともやっと来たか。ルーン少尉ご苦労だった」
ロイ艦長は半日前と同じく気さくな感じで僕たちを迎えてくれた。促されるままブリッジの隅に移動していくと爺ちゃん達サルベージャー組の姿があった。
「皆、もう来てたんだ」
「お前のことだから格納庫で色々と見物しとったんじゃろ?」
「まあね。テツさんから沢山面白い話を聞けて楽しかったよ。昔の爺ちゃんの話も聞いたしね」
「全くあいつは……口が軽いのは変わっておらんようじゃ」
爺ちゃんは額に手を当てて「やれやれ」といった様子だ。それでも口元は緩んでいるあたりまんざらでもないのだろう。
爺ちゃん以外のメンバーは完全にここの部外者なので皆緊張をしている。
それもそのはず、この場所は戦艦のブリッジ――本来であれば部外者が立ち入ることなど許されない重要区画だ。
ルーンの話によれば艦長さんの計らいによるそうだが本当にいいのだろうか?
「急に呼びつけてしまって済まなかった。『オノゴロ』に降下する時の様子をここから見て貰いたいと思ってね」
「いいんですか!? 戦艦のブリッジは機密の宝庫なんじゃ……」
「確かにその通りだが、それ以上に重要な光景がここならよく見られるからね。それを君たちに見て貰う方が価値ある事だと思ったんだよ。さて、そろそろ時間だ」
ロイ艦長の言葉を皮切りにブリッジクルー達が忙しく作業を始めた。
ブリッジクルーは艦長、副長、オペレーター、操舵手を主としてその役割をサポートする要員を含めて十数人ほどで構成されていた。
艦長席はブリッジ内のやや後方に位置し、そこを基点として前方にオペレーター席がある。
オペレーター席の前には操舵手と副操舵手席が位置している。その他サポート要員の席はメインスタッフの周囲に配置されていた。




