軍事要塞オノゴロ⑤
「くっそー! あの鈍感カンチョー、どうしてわたしの気持ちに気が付かないのよ! ここまで何度もアピってるって言うのにーーーーーーーー!!!」
「な、何だ……? この声どこかで……」
「そうですよね。私も聞き覚えがある声です」
恐る恐る怒声が聞こえた方に向かう。どうやら居酒屋の中から聞こえたらしい。
「ちょっと飲み過ぎよ。明日も仕事があるんだからこの辺りでお開きにするわよ」
「ちょっとー、もっとあらひの愚痴に付き合ってくれてもいいひゃない! この薄情みょの!!」
「誰が薄情者だってのよ! その話今まで何百回と聞かされたあたしの身にもなってみろっつーの。はい、帰るわよ!!」
「いやーーー! まら飲むのーーーーー!!」
どうやら大声の主は完全に酔っ払っているらしく、誰かと飲みに来ているらしかった。その声にも聞き覚えがある。
そして、そこには驚きの人物がいた。
「……アメリア副長!?」
「それにセルティ大尉ですか?」
居酒屋の席には顔が真っ赤になり目が据わっているアメリア副長と心底面倒くさそうな表情をしているセルティ大尉がいた。
思いがけない場所での遭遇にお互いに驚く。――只一人を除いては。
「……あんたら二人でイチャイチャして……わらひに見せつける気ね! この……人でなひーーーーー!!」
アメリア副長は僕とフィオナを見ると人目をはばからず泣き出した。これ、本当にあの格好良かった副長と同一人物か?
僕たちが戸惑っていると副長の背中を優しく擦りながらセルティ大尉が申し訳なさそうな顔になる。
「悪かったわね二人とも、せっかくのデート中だったのに」
「いや、デートじゃないですよ。皆で夕飯を食べてその帰りです」
「ふーん、そうなんだ。でも他の連中がいないところを見ると二人で抜け出してきたんじゃないの? カナタ、あんた奥手そうで中々やるじゃない」
「そう言って僕たちをからかうの止めてもらえます!? ほら、フィオナも困ってるでしょうが!!」
フィオナは顔を真っ赤にしてばつが恥ずかしそうに佇んでいる。こっちはこれから大事な話をしようとしていたのに余計な事に首を突っ込んでしまった。
激しく後悔していると急に静かになる。どうしたのだろうと思っているとアメリア副長がテーブルの上で突っ伏して寝息を立てていた。
「あーあ、やっぱり寝ちゃったわね。……丁度良いわ、カナタ肩を貸して」
「……え?」
「この高身長の女をあたし一人で担いでいけっての? 男子たる者こういう時には黙って力を貸した方がモテるわよー?」
「別にモテたいとか思ってないですよ。――肩を貸せば良いんですよね?」
「そそ。どさくさに紛れておっぱいとか触るんじゃ無いわよ?」
「触りませんよ!!」
セルティ大尉はニヤニヤ笑っている。この人はとことん他人をからかうのが好きらしい。僕と大尉で肩を貸してアメリア副長を宿舎まで送ることになった。
「疲れたら言ってくださいね。私が交代しますから」
「ありがとね。それじゃあたしが疲れたらよろしく。カナタは最後まで頑張んなさいよ。この堅物美人の身体に触れられる機会なんてそうそうないんだから堪能しなさいよー」
「変な言い方しないでくださいよ!」
副長の宿舎は僕たちの所からそんなに離れていない。同じ部隊なので当然と言えば当然か。セルティ大尉が時々悪態をつく以外はこれと言った会話はなく歩いて行く。
帰路の半分あたりまで来ると大尉とフィオナが交代した。
「そう言えば、あそこにいたって事はアメリアのでっかい声も聞こえてたんでしょ? それなのに二人とも何も訊いてこないのね?」
「それは……内容的に興味本意から訊くべきではないと思いまして……」
「……そっかぁ。なら、お行儀の良いあんた達に特別に教えてあげる。――あたしとアメリアは前の部隊から一緒でね、まあ腐れ縁みたいなものなのよ。そんでこれまた同時期にアメリアは<アマギ>の副長、あたしはアマツ部隊の隊長になったのよ。そしたら、そいつがロイ艦長に惚れちゃってね」
副長の言動からそうだろうとは思っていたけどやっぱりそうだった。どうしたもんだろうと思っているとフィオナは目を輝かせて大尉の話の続きに耳を立てていた。
女性という生き物は恋バナが大好物らしい。
「――で、恋愛に不器用なアメリアは不器用なりに色々と艦長にアピールしているんだけど今も実を結ばずこうしてあたしが愚痴に付き合ってるって訳よ」
「そんなプライベートなこと私たちが聞いてしまっていいんですか?」
「構わないわよ。だって、副長が艦長に好意を持ってるなんて話は<アマギ>艦内では周知の事実だからね。気が付いていないのは当の本人ぐらいよ」
「それは……副長が可哀想ですね」
フィオナは本気でアメリア副長を哀れんでいるようだ。確かに気が付いていないのが艦長本人だけっていうのは何とも皮肉な話だろう。
これは他のクルー同様に温かく見守ることにした方が良さそうだな。
帰路の後半は副長の恋愛話を聞きながらだったので体感時間が短かったような気がする。副長を部屋の前まで送ると後は大尉に任せて僕とフィオナは宿舎へと戻ることにした。
「……そう言えば、大尉たちと合流して途中になってましたけど私に何かお話があったんじゃないんですか?」
そう言えばそうだった。副長の恋バナに衝撃を受けて忘れていた。
「あ、ああ、あれね。大した話じゃないから大丈夫。それじゃ、お休み!」
「……そうですか。それではお休みなさい」
自室に戻ると肝心なところで日和った自分が情けなくて膝を折る。
「……こんなんじゃ全然ダメだ。副長を見習わないと。――よし! 取りあえずシャワー浴びて寝よう! 明日頑張ればいいじゃない」
ここ数日で色んな事があった。
海上での戦闘、ギガフォートレスという規格外の巨大要塞、敵の水中戦用AFとの初戦闘、そしてアマツ部隊や機動戦艦<アマギ>への合流、軍事基地『オノゴロ』への上陸、そして軍への配属……これだけのイベントが立て続けに起きて自分を取り巻く環境も大きく変化した。
「これからどうなるんだろう……」
一抹の不安を感じながらシャワーを終えて用意してあった部屋着に着替える。フィオナとの事もそうだけどこれからは軍人として戦争に身を投じるんだ。
今まで以上に気持ちを引き締めていかなければならない。




