それは少し先の決戦④
<タケミカヅチ>の各部装甲が開放され放熱が開始される。放熱プレートが熱で赤く発光し血液の如く純白の装甲を彩る。
クレスは変貌した<タケミカヅチ>の姿を見て百年前の戦いを思い出していた。
『これは……この姿は見覚えがある。大罪戦役でも一度しか見せたことが無かったはず。――リミッターを解除したのか、盟友!!』
<タケミカヅチ>のフェイスマスクが上下に分かれると露出した放熱部が強制冷却を開始し、赤く光り雄叫びのような排熱音を上げる。
機体各部が赤光を放ち咆哮を上げるその姿は怒りを体現しているようであり、見る者全てに恐怖を与える。
この戦場において、この白いAFに恐れを抱かない者は只一人――当該機のパイロットであるカナタだけであった。
『クレス……あんたが限界を迎えるまでチマチマ戦うつもりはない。枷を外した<タケミカヅチ>の力で終わらせてやる!』
『ふっ……嬉しいことを言ってくれる!!』
終局へ向けて動き出した二機の動きはAFの限界を超えるものだった。重力を無視した変則的かつ圧倒的速度で斬り結ぶ。
<タケミカヅチ>は放熱の赤い光が残像になる程のスピードで常に飛び回り、徐々に<ザッハーク>を追い詰めていく。
『くっ、スピードでは敵わないか……ならばっ!!』
クレスは最後の手段として機体のエネルギーをビームカタールの出力上昇に回し、巨大なビーム刃を形成した。
カナタは敵の最後の攻撃を悟り自らも覚悟を決める。
『あの出力で来られたらフォームⅠじゃ耐えられない。ここが正念場だ、やるぞ<タケミカヅチ>!』
お互い一歩も退かず攻めの姿勢を崩さずに繰り広げた戦いが終わりを迎えようとしていた。
<ザッハーク>は暴走寸前のエネルギー全てを攻撃につぎ込み斬りかかる。それを真っ正面から迎え撃つ<タケミカヅチ>のフツノミタマに変化が生じた。
刀身を覆う高密度D粒子を物質化した刃が粉々に砕けると超出力のビーム刃が発生する。
カナタはフツノミタマでビームカタールの刃を受け止めるとその圧倒的出力で押し返す。そこから間髪入れずに<ザッハーク>の左腕をビームカタールごと両断した。
圧倒的な威力に驚きを隠せないクレスは本能的に距離を取り、カナタは逃がすまいと距離を詰める。
『これがフツノミタマの最終形態、フォームⅢビームカリバーモード……勝負をつけるぞ、クレス!!』
『まだ上があったとは……! だが、勝つのは私だ!!』
意を決したクレスは右腕のビームカタールに余力をつぎ込み袈裟懸けに振り下ろす。カナタは敵の斬撃にフツノミタマをぶつける。
超出力のビーム刃の激突は両機を覆うほどの閃光を発生させ、<タケミカヅチ>と<ザッハーク>は光の中で決着を付けようとしていた。
『盟友ッ!!』
『クレスッ!!』
フツノミタマのビームカリバーが数倍に巨大化しビームカタールを圧倒破壊すると<タケミカヅチ>は<ザッハーク>の胴体を横一文字に一閃した。
AFの強靱な肉たる装甲と骨たるフレームは同時に断たれ、斬り飛ばされた上半身はしばらく滞空すると重々しい音を立てて大地に落下した。
『はぁ……はぁ……はぁ……やった……のか?』
最後の斬撃に全意識を集中していたカナタは敵機を斬ったという感覚はあったものの自らの勝利という事実を呑み込めず呆然としていた。
そんな彼に賛辞を送ったのは他の誰でもない、今しがた死闘を繰り広げていたクレス自身だった。
『見事……だな……盟友。君の……勝利だ……』
決着が付きカナタの戦意が落ち着いてくると機体のリミッターが発動し開放されていた装甲が閉じられ通常モードに移行する。
体力と精神を削りきり疲労を感じながらカナタはクレスの近くへとやってきた。<ザッハーク>の六つ目のメインカメラが点滅しながら勝者を見上げる。
『……素晴らしい……戦いだった。勝敗……関係なく……満足だ……』
『本当に恐ろしい相手だったよ。自分がこうして立っていることが今も信じられない』
『ふふ……世辞が上手くなった……ものだ。――フィオナ・トワイライトは……この先にある施設にいる。早く……迎えに行ってあげるといい』
『どうしてそんな情報を教えてくれるんだ?』
『私と正々堂々と……戦ってくれたお礼……とでも思ってくれれば良い。次は……私が……勝つ……メイ……ユウ……』
<ザッハーク>のメインカメラから光が消えるとカナタは遙か前方にある工場施設を見やる。
『フィオナ、今行く。もう少しだけ待っててくれ』
こうしてカナタ・クラウディスとクレス・バールによる激戦は終わった。しかし、これはこれから続く彼らの戦いの前哨戦にすぎない。
そして此度の戦闘が正しい時系列で語られるのはもう少し先の話である。
時間は数ヶ月前に戻りカナタ達が機動戦艦<アマギ>と合流した時から再び開始される。




