一歩前に踏み出して
間もなくさっきの戦闘の現場確認と<ランドキャリア>回収の為に軍のAF部隊がやってきた。
それと入れ替わるようにして<ヤタガラス>は後部ハッチを閉じた後、離陸し『オキノミ』を目指して発進した。
僕たちにはクルー用の部屋があてがわれた。僕はバルトと同じ部屋になり夕飯を食べた後、連戦で疲れていたのか二人とも寝てしまった。
翌日格納庫に行くと<タケミカヅチ>の装甲は修復が完了していた。
AFの装甲であるナノニウムアーマーはビームや衝撃に強い特性を持ち、ナノマシンの集合体であるため自然修復能力がある。
さらに電力等のエネルギーを吸収することでナノマシンが活性化し修復速度が上がる。その特性を利用してたった一晩であれだけのダメージが直ったようだ。
アマツシリーズに採用されているナノニウムアーマーは量産機の物よりも性能が格段に上で防御性能と修復機能が高い。
その証拠に<カグツチ>の方はまだ装甲の修復が終わっていなかった。この特徴一つ取ってもアマツシリーズが特殊なAFだという事が実感できる。
装甲の修復が終わった<タケミカヅチ>の背部にスラスターが四基あるバックパックが取り付けられた。
さらにバックパックの左右には小型の箱のようなパーツがくっついている。
「爺ちゃん、バックパックの左右に付いているパーツって何?」
爺ちゃんに訊くと昨日渡された端末を操作しながら教えてくれた。
端末の画面にはバックパックの説明が記載されており、それによるとあれはアディショナルブースターというパーツらしい。
「アディショナルブースターは発動する事で機体を加速させることが可能じゃ。ただし相当なパワーが出るから使いこなすには訓練が必要じゃな。お前の戦闘スタイルから考えてこのバックパックが相性が良いと思ったんじゃ」
「うん、<タケミカヅチ>のバックパックに丁度良いと思う。さっそくシミュレーターで練習してみるよ」
コックピットをシミュレーターモードにしてアディショナルブースターの使用感を確かめてみると本当にもの凄いじゃじゃ馬ブースターだった。
使用時は箱型の装甲が展開して内部の大型スラスターが露出し一気に加速する。
もしもコックピットに重力制御装置が組み込まれていなかったらパイロットにどれだけの加速Gが掛かるか分かったもんじゃない。
これを使いこなすには出力調整と使用時の感覚の習熟が必要だ。とにかく練習あるのみ。
『カナタ、そろそろ休憩にしましょう。休まないと身体に悪いですよ』
シミュレーターでアディショナルブースターを用いた戦闘訓練に勤しんでいるとモニターにフィオナが映り休憩を勧めてくる。
時計を確認すると訓練開始から六時間以上が経過していた。体感的にはあまり時間が経っていないと思っていたので相当集中していたようだ。
「そうだね、一旦休憩にしよう」
訓練を一旦中止してコックピットハッチを開くとフィオナが外に立っていた。
「お疲れ様です。軽食を作ってきたので良かったらどうですか?」
整備の邪魔にならないように格納庫の端に移動してそこでフィオナ特製のサンドイッチを食べることにした。
アディショナルブースターの訓練では疑似的とは言え急激な加速Gを受け続けた影響か身体が重い食べ物を受け付けなかった。
そういう状態においてサンドイッチは比較的食べやすくて次々と食べられた。
「まだ沢山ありますからゆっくり食べてください。長時間急加速の訓練をした後は自分で思っている以上に身体の内外に負担が掛かっていますから急いで食べると胃に優しくないですよ。はい、スープもどうぞ」
「ありがとう。ごく、ごく……美味しい」
コンソメベースのスープは五臓六腑に染み渡り疲れた身体に活力が戻ってくる。胃に負担が掛からないような優しい味付けでとても癒やされる。
サンドイッチとスープを交互に食べていると幾らでも入る様な気がする。ふと見るとフィオナがこっちを見て微笑んでいる事に気が付く。
「カナタはいつも美味しそうにご飯を食べてくれるのでとても作りがいがありますね」
「美味しいからどんどん食べちゃうんだよね。そう言えばフィオナは最初から料理が得意だったの?」
「そんな事無いですよ。何事も最初からそつなくこなすなんて出来ません。――私も以前はアマツ部隊に所属していたのはお話しましたよね?」
「うん」
「私はアマツシリーズのテストパイロットをしていたんです。様々なウェポンモジュールの試験をしていたんですが、その中にはアディショナルブースターのような高速戦闘を想定したものもありました。試験後はあまり食欲が無かったんですけど、その時に今みたいに用意してもらったサンドイッチが美味しくて……そういう事があって料理に興味を持ったんです」
当時の話をするフィオナは嬉しそうで、それでいて少しだけ悲しそうな顔をする。
その理由を訊きたいと思うけれどそこまで踏み込んでしまっていいものか悩み、いつもそこで立ち止まってしまう。
でも今は少しだけ踏み出してみたいという気持ちの方が強かった。
「そっかぁ。それじゃその時も誰かにご飯を作ってあげたりしてたの……?」
「えっ?」
言った瞬間に後悔した。これじゃまるでフィオナが当時好意を持っていた人がいたかどうか詮索しているみたいじゃないか。
あまりにもぶしつけな質問だった。フィオナはキョトンとした表情で僕を見ている。
「……気になります?」
しばらく見つめ合っているとフィオナは今まで見せたことが無いような悪戯な笑みを見せた。そのどことなく艶めかしい雰囲気にドキッとさせられる。
「う……少しだけ……」
「少しだけ……ですか。――それじゃ教えてあげません」
「いや、大いに興味あります!」
「もう駄目でーす。いいですか、カナタ。女性に興味を持った時に少しだけって言うのは相手に失礼ですよ? 最初から本気で来てくれないと。ですからこの件はしばらく保留のままです」
確かにフィオナの言う通りだ。中途半端に興味本位で訊ねるなんて失礼だった。大事な場面で日和ったせいで真相は分からずじまいだ。
……ん、待てよ? 『しばらく』という事はある程度時間が経ったら再び訊くチャンスが巡ってくるという事じゃないか?
ハッとして顔を上げるとフィオナは再び妖艶な微笑みでこっちを見ている。怒っていたりしたらこんな顔はしないだろう。
それなら――。
「次に訊く時はちゃんと心の整理をして本気出してから訊きます!」
「はい、楽しみに待ってますね」
フィオナは満面の笑みで応えてくれた。彼女が作ってくれた軽食を食べ終えコックピットに戻ると爺ちゃんが待っていた。
何だか難しい表情をしているけどトラブルでもあったのだろうか?




