ヤタガラス
<ヤタガラス>はAFを四機搭載できるらしく近くまで来るとかなり大きい。後部ハッチが開き、AFはそこから中に入る構造になっている。
「へー、中はかなり広いんだな。AFは立ったまま搭載出来るのか」
『<ヤタガラス>ではAFの修理が可能です。<ツクヨミ>以外の三機のダメージも目的地である『オキノミ』に到着するまでには修復できるでしょう』
ルーンさんの指示のもと僕は彼女の後に付いて行く。そう言えばフィオナとは何を話していたんだろうか。
「ルーンさん、さっきフィオナと話をしていましたけど、どういった内容だったんですか?」
するとモニター越しの彼女は少し考える仕草をするとニヤリと笑みを浮かべた。
それは彼女が他人を弄る時の笑みであったのだが、その前に一瞬だけ見せた何処か辛そうな表情が妙に気になった。
まるで辛い何かを隠すかのように無理矢理笑って見せているような、そんな感じがする。
『あれー、気になっちゃいますぅ? でも女同士の会話を知りたがるっていうのはあまり感心しませんよぅ。どうしても知りたいって言うのなら、教えてあげるのもやぶさかじゃないですけどぉ』
「あ……いや、やっぱいいです」
『あはは、そうですか。それとアタシの事は呼び捨て敬語無しで構わないですよ。そっちの方がしっくりくるので。その代わりという訳じゃないですけど、アタシはあなたのことカナタって呼びますねぇ。――という訳でよろしくお願いしますね、カナタ』
「分かった。よろしく、ルーン」
あまり詮索すぎるのも良くないし、彼女に弄られるのも疲れるのでこの話はここまでとなった。
<ヤタガラス>の後部から格納庫の中に入るとハンガーが四つ設置されている。奥の二つに<スサノオ>と<ツクヨミ>が収まる。
『カナタとバルトは残ったハンガーを使え』
「了解」
ハンガーにバックで近づき適度な位置に収まると<タケミカヅチ>が動かないように機体各部がロックされた。
正面には同じくハンガーに固定された<カグツチ>が見える。
AF全機が停止すると何人ものスタッフが姿を現した。新参者である<タケミカヅチ>と<カグツチ>の前には人が集中している。
いつまでもこうしているのもなんだしコックピットハッチを開けて昇降機で下に降りるとスタッフ達が拍手で迎えてくれた。
「へぇー、まだ若いじゃないか」
「デューイ中尉と互角に渡り合ったってマジ?」
質問攻めにあって怯んでいるとデューイさんが来てスタッフ達は各々の持ち場へと向かっていった。
「すまなかったな。皆お前たちに興味津々なんだ。なにせ長らく行方不明だったアマツシリーズ二機のパイロットだからな」
「嫌とかいうんじゃないので大丈夫です。ただ、沢山人がいたので驚いてしまって……」
「それは当然だ。多くのスタッフによってAFは整備され、私たちはその機体で戦うのだからな。パイロットも整備班も一丸となり機能することで初めて戦うことが可能となるんだ」
「なるほど、確かにそうですね。自分たちだけじゃ出来ることなんてたかが知れてる。皆で協力することが大事なんですね」
「その通りだ。さて、私は機長に報告に行ってくる。お前たちはしばらくここで待機していてくれ。何か分からない事があればルーンに訊いてくれればいい」
「分かりました」
デューイさんは格納庫を出て行った。それと入れ替わるようにフィオナ、爺ちゃん、アンナ、ポンペ、ジタンの五人が後部ハッチから入ってきた。
「皆も到着したんだね」
「はい、最低限の荷物だけ持ってきました。<ランドキャリア>は軍で保管してくれるそうなので心配はないとのことです」
それは安心だ。でも、なるべくなら軍の人たちには僕の部屋にはあまり入って欲しくない。あそこには僕の秘蔵コレクションデータが入った端末が置いてある。
特に鍵を掛けて保管している訳ではないので何かの拍子に見つかってしまう可能性がある。
「そうそう、カナタのコレクションでしたら持ってきましたよ。きっと気にしていると思ったので。はい、どうぞ」
「……え!? あ……ありがとう。本当に持ってきてくれたんだ。あ、あはは、助かるー」
驚きと恥ずかしさのあまり感情が死んでいた。フィオナには既に僕の性癖がばれている。ごめんなさい。ちょっとエッチなお姉さん系が好みでごめんなさい。
フィオナと会話しているとバルトは仲間たちと合流していた。向こうも整備班の人たちに囲まれていたみたいで疲れた顔をしている。
そんな時突然どよめきが起きた。何事かと思い見てみるとその中心に爺ちゃんがいた。
「おやっさん!? おやっさんじゃないですか! 行動を共にするサルベージャーっておやっさんの事だったんですか?」
「ああ、そうじゃよ。軍に復帰する事になった。またよろしく頼むぞ」
整備班の人たちは大いに喜んでいて中には泣いている人もいる。爺ちゃんって相当慕われていたんだなぁ。
「ノーマン技師長は大罪戦役で消失した各種データの復元とAF関連の開発で多大な貢献をした権威ですからねぇ。特に戦後回収されたアマツシリーズの修復やウェポンモジュールの開発を行ったことでアマツ部隊が再編成できたらしいですよ」
ルーンが爺ちゃんを眺めながら説明をしてくれた。話を聞けば聞くほどずっと一緒にいたはずの爺ちゃんが遠い存在のように感じる。
「僕は爺ちゃんのことを何にも知らなかったんだな。爺ちゃんがそんなに凄い人だったなんて全然知らなかった……」
「カナタ……」
「アタシも実際に会うのは初めてですけど、<ツクヨミ>のトバリの基礎設計をしたのもノーマン技師長らしいですからね。本物の天才っていうのはああいう人のことなんでしょうね」
爺ちゃんがこっちに気づいてやって来た。何を話せば良いのか分からず逡巡してしまう。
「どうしたんじゃ、カナタ。もしかしてわしがあまりにも人気があるから驚いたのか?」
「……」
まさにその通りだったので何も言えなかった。僕が予想外の反応をしたのか爺ちゃんは困っているみたいだ。二人で黙っているとフィオナが助け船を出してくれた。
「ノーマンさん、実はその通りなんです。自分の知らないノーマンさんを知って驚いてしまったみたいで……」
「……そうか。確かにお前にしてみればただのジジイと思っていたわしが軍でAFの開発をしていたのは驚いたことじゃろう。じゃがな、軍にいたわしも、お前と一緒にサルベージャーをやってきたわしも、どちらもわしである事には変わらないんじゃよ。――第一そんなこと言ったら、<タケミカヅチ>を短期間で使いこなすようになったお前の方が驚きじゃよ」
「そう……かな? あんまり自覚ないけど」
「そういうもんじゃよ。何事も継続していくことで自然と自覚していくもんじゃからのう。それに世の中まだまだ知らないことだらけじゃ。わしの知らない一面を知って驚いている場合じゃないぞ。これからきっともっと驚くことが沢山あるはずじゃからのう」
「そうか……そうだね。ありがとう爺ちゃん、何だか気分が軽くなったよ」
少し考えすぎだったのかもしれない。今まで築き上げてきた自分の常識に変化があったことで少々ナーバスになっていたのだろう。
「フィオナもありがとう。でも、もう大丈夫だから」
「それなら良かったです。これから忙しくなりますし頑張りましょう」
「その通りじゃ。装甲の修復が完了次第<タケミカヅチ>と<カグツチ>にはアマツシリーズ専用の強化兵装であるウェポンモジュールを取り付ける。機体性能が変化するからシミュレーターで感覚を掴んでおくようにするんじゃぞ」
そう言えばさっきルーンもウェポンモジュールがどうとか話していた。AFに取り付ける追加武装のことみたいだ。
爺ちゃんが小さいボード型の端末を渡してくれて、その画面に幾つもの兵器データが表示されていく。
バックパックと連結したキャノンや追加ブースター、機体の四肢に取り付けるミサイルやシールド、近接戦闘用に杭を打ち込むパイルバンカーなんかもある。
「もしかしてこれ全部ウェポンモジュールのデータ?」
「うわぁ、凄い量ですねぇ。百年前よりも種類が豊富ですよ」
かつてアマツ部隊に所属していたフィオナが感激している。大罪戦役当時よりもアマツシリーズの強化兵装は多岐にわたっているらしい。
これらデータを頭の中に叩き込んでおけということなのだろうが、これは中々時間が掛かりそう。
でも僕はこういうAF関連のデータを見るのが好きなので何気に楽しみだった。




