殺意の刃
さっき怒りに身を任せて突撃した時、戦闘に対する思考が冴え渡り<スサノオ>と渡り合うことが出来た。
あの感覚は既に覚えた。後はただぶつかるだけだ。
「――突撃する!!」
<スサノオ>のシールドは肩とアームパーツで繋がっていてフレキシブルに動く。その可動性でかなり動きに融通が利く。
それに加えて両腕に装備されたビームソードによって<タケミカヅチ>と同等かそれ以上の格闘戦能力を持っている。
こっちが向こうより勝っているのは機動性ぐらいだ。それだって大して差がある訳じゃない。
ならば相手の特性を理解してその隙を突くしかない。
正面から突っ込んでライキリで斬り込むと<スサノオ>はビームソードで受け止めた。そこからさっきと同じように斬り結んでいく。
『――やるな! <タケミカヅチ>に選ばれるだけあって接近戦が得意と見える。だが……!』
お互いに二刀流で斬り合っていると<スサノオ>は一旦下がった後に全速力で右側の盾を前面に押し出してぶつかってきた。
咄嗟に後ろに跳んで二本のビーム刃をクロスさせて防御しながら吹き飛ばされる。
コックピットを振動が襲うが大した衝撃は無い。空中でスラスターとバーニアを調整して体勢を整えるとすぐに再攻撃に移る。
「シールドのパワーは凄いけど大きい分取り回しが悪い。――それなら!!」
<スサノオ>の最大の強みは両肩のシールドによる圧倒的な防御力だ。しかも先程のように体当たりもしてくるので高い防御力はそのまま攻撃力にも繋がってくる。
だったらそのシールドを破壊すれば相手の戦力を大幅に減らせるはずだ。ライキリの攻撃力なら切断できるかもしれない。
相手の右側に回り込んで二刀流でシールドに攻撃を叩き込むと表面に展開されているDフィールドに阻まれてしまう。
「くっ……ライキリでも駄目なのか!?」
『このディフェンサーシールドは<カグツチ>のホムスビを至近距離で受けても破壊されなかった。出力で下回るライキリで破壊できるはずないだろう』
「……っ! まだまだぁぁぁぁぁ!!」
何度斬撃を浴びせてもビーム刃はシールド本体はおろかDフィールドを斬り裂くことも出来ず屈折してしまう。
この出力では話にならない。まだライキリの出力を上げることは出来るが、そうなるとどれだけの破壊力になるのか見当が付かない。
「どうする……?」
『やはりまだ全力ではないようだな。随分と舐められたものだ。格下の相手に手加減されるとは』
どう戦うべきか悩んでいるとデューイさんが僕の心を見透かしたように言ってくる。
『カナタ・クラウディス……お前は戦いを甘く見ているようだ。この戦闘がお前たちの実力を確かめる為のものであったとしても命を賭けたものであることに変わりはない。それで手加減をするなど――相手を馬鹿にしているとしか思えんな』
<スサノオ>の攻撃が一層激しいものになりビームソードで切り払われると蹴りを入れられてバランスを崩す。
そこにシールドによる体当たりをもろに受けて<タケミカヅチ>は地面を削りながら転がっていく。
今度はコックピットに激しい衝撃が走って身体が揺さぶられ意識が遠のく。
まるで身体が底なし沼に落ちて何処までも沈んでいくような感覚に襲われる。これは初めて<タケミカヅチ>に乗ってピンチになった時と似ていた。
遠のく意識の中でどこからか声が聞こえてきた。
『わたし……は……ダメです。逃げ……くださ……、きょうか……』
『バカ……言うな! 俺が……助け……、だから……待ってろ……必ず……』
途切れ途切れに聞こえるそれは男女の声だった。何故だろう、胸が締め付けられるように苦しい。
とても苦しくて、とても悲しくて、とても憎くて……強い後悔が心を支配していく。
そうだ……僕は知ってる。この声は幻なんかじゃない。……これはかつての僕が経験した現実。
そう……僕は……『俺は』……戦っていた。敵と戦って……そして……仲間を……あいつを……助けられなかった。
だから……だから……今度はそうならないように……あんな事を繰り返さないように……敵は……殺す!!
◇
『静かになったようだが。……派手に倒れたからな、気絶したか?』
デューイは倒れたまま動かない<タケミカヅチ>を警戒しつつ独りごちる。
呆気ない幕切れに物足りなさを感じながら機能停止した白いAFに近づこうとするとその機体はおもむろに上体を起こした。
『意識が戻ったのか? だが……この嫌な感じは一体……?』
再起動した<タケミカヅチ>から放たれる殺気は先程までのそれとは全く異なっていた。
度重なる戦いを経験しているデューイはその異質な雰囲気を感じ取り無意識に距離を取る。
自分のその行動にデューイは改めて<タケミカヅチ>――正確にはパイロットの異常性を感じ取っていた。
『私に無意識に距離を取らせただと。ここからが本気という訳か……』
緊張が高まっていく中、<タケミカヅチ>はゆっくりと起き上がる。俯いていた頭部を持ち上げると凶暴な深紅のデュアルアイで<スサノオ>を睨む。
デューイが鳥肌が立つほどの殺意を感じると同時に<タケミカヅチ>は凄まじいスピードで接近してきた。
『何だ、このスピードは!?』
突然変化した白いAFの動きに驚かされながらもデューイは持ち前の冷静さで次々に繰り出されるライキリの斬撃を受け止めていく。
だが、その全ては今までとは異なり微塵の迷いもなくコックピットを狙ってくる。
しかもビーム刃の出力は向上していて<スサノオ>のビームソードと互角以上のパワーで打ち込まれていた。
『ちいっ、こちらと互角……いやそれ以上か! ビームソードだけでは対処しきれない。――ならばっ!!』
デューイは<スサノオ>のディフェンサーシールドも使用して<タケミカヅチ>の乱撃に対応する。
シールドは肩と連結されたアームパーツによって柔軟に動いてビームの刃を捌いていく。
すると<タケミカヅチ>からパイロットの声が聞こえてくる。しかしそれは先程までの少年と同一人物とは思えない口調であった。
『――そうか、左肩のアームパーツが故障しているみたいだな。左のシールドの動きが鈍い。<カグツチ>のホムスビが直撃してイカれたか。それなら簡単に壊せそうだ』
<タケミカヅチ>はサイドステップとバーニアを連動させて高速で<スサノオ>の左側に回り込む。
『ちっ!』
デューイが舌打ちしながら敵機を正面に捉えようとすると、その動きに合わせて敵も動き左側にピッタリくっついて離れない。
『こいつ……!』
『左のシールドは動きが死んでるから、そこから敵を遠ざけたくなる。だから動きが読みやすい。――ライキリ出力最大、ビームブレードモード!』
ライキリから出力されるビーム刃が通常の倍以上に巨大化する。
ビームの大剣と化した刀身で<スサノオ>左側のディフェンサーシールドに斬りかかる。
ビームブレードはシールド表面に展開されるDフィールドを斬り崩しシールド本体に到達した。
その瞬間デューイは左側ディフェンサーシールドをパージし、その反動を利用して<タケミカヅチ>から距離を取る。
コックピットではシールドを真っ二つにした<タケミカヅチ>が視線を自分に向けているのが見え、デューイは戸惑いを覚えながらもビームソードを構えて攻撃に備えるのであった。




