イレギュラー・カナタ
<タケミカヅチ>はライキリを通常のビームソード形態に戻すと突進して斬りつけ<スサノオ>が受け止める。
接触回線を通してモニター越しに見るカナタの表情はまるで別人のように冷徹さと憤怒を併せ持ったものに変わっていた。
その豹変ぶりにデューイは思わず訊いてしまう。
『お前は……誰だ?』
『質問の意味が分からないな。俺は俺だ。くだらない質問で油断させようというのがお前のやり方か? だとしたら随分とちんけだな』
再び始まったライキリによる斬撃の嵐にデューイは凌ぐだけで精一杯になる。
両腕のビームソードと右側のディフェンサーシールドを持ってしても<タケミカヅチ>の猛攻を止める事はできず一方的な攻撃を許してしまう。
『シールドの防御力は中々だが、それじゃ最大出力のライキリは防ぎきれない。単なる板切れと大して変わらん』
『こいつ……! 現状のジェネレーター出力ではライキリをビームブレードモードにする事は不可能なはず。どうやってそれを可能にした?』
『簡単な話さ。前腕部のヤサカニにチャージしたエネルギーを使ってライキリの出力を最大まで持って行ったんだよ。だからビームブレードはあまり連続して使えないが数回程度であれば問題ない』
カナタの言葉にはハッタリや脅しのような感じはなく、当然のことだと言わんばかりに淡々としていた。
機体の状況を踏まえてそのスペックを限界まで引き出すカナタの技量にデューイは舌を巻く。
二機のアマツシリーズは空中戦へと移行し廃墟の空を飛び回りながら斬り結び、相手を廃ビルに叩きつけたりしながら戦いは続けられていく。
その最中<タケミカヅチ>は廃ビルの壁面を踏み込むと反動とスラスターのタイミングを合わせて一気に加速し、すれ違いざまにビームブレードで<スサノオ>の残存していたディフェンサーシールドを切断した。
『シールドがやられた!?』
デューイはシールドの残骸をパージし機体を軽くする。その様子を廃ビルの屋上から見下ろしていたカナタはクックと笑う。
『せっかく軽くしてやったんだ。もうちょっとマシな戦いをしてもらいたいもんだな』
この発言にデューイは積もり積もった怒りを爆発させる。
『軽くしてやっただと? ふざけるなよ、この狂人が。――もういい、貴様のようなイレギュラーは私が始末してやる! 肉片一つ残さん!!』
デューイは<スサノオ>のスラスターを全開にして真上に急浮上すると<タケミカヅチ>目がけて突撃を敢行する。
『消し炭にしてやる。イレギュラー!!』
『やれるものならやってみろ!』
怒りの赴くままにビームソードを振るうデューイは周囲のあらゆる物を斬り刻んでいく。
幾つもの廃ビルが切断面から滑り落ちるように地面に落下していき、その影響で巻き起こった土埃が廃墟を呑み込む。
視界が悪化する中、二機のAFは攻撃の手を緩めることなく二刀流を打ち込んでいく。
防御を捨て攻撃に全振りした戦いによって二機の装甲は徐々に相手のビーム刃によって傷つけられていった。
『死になっ!!』
『貴様の方こそ死ね!!』
<スサノオ>の乾坤一擲の斬撃は敵機に躱され廃ビルを斬り崩すのみに留まる。
一瞬隙が生じたことでデューイは決定打を打ち込まれると覚悟したがその瞬間は訪れなかった。
<タケミカヅチ>は<スサノオ>を討つチャンスを無視して崩れ落ちていく廃ビルの方へと最大速度で向かって行った。
その先にはバルト達の<ランドキャリア>が障害物によって動けない状況に陥っていた。
『間に合えーーーー!!』
カナタは必死に機体を飛ばし落下する廃ビルの下方に先回りすると<ランドキャリア>を守るように立ち塞がって最大出力の二刀のライキリで落ちてくる巨大な構造物を十字に斬り裂いた。
強力な二振りのビームブレードによってほとんどは砕けたり蒸発したりするも、細かい破片は雨のように降り注ぐ。
<タケミカヅチ>はDフィールドを最大にすると<ランドキャリア>を守るように展開し自らを盾にして破片に身を晒すのであった。
その光景を呆然と見ていたデューイは自らの暴走によって生じたこの現状を目の当たりにして戸惑う。
それと同時に、あの戦いの中で仲間の位置を把握し彼らが危険だと判断すると目前だった勝利には目もくれず救援に向かったカナタに畏敬の念を覚えていた。
『あれだけ戦いに固執していながら仲間が危険と分かると迷わずに助けに行く……か。あれはイレギュラーなどではない。私の目は節穴だったようだ』
廃ビル残骸のシャワーが終わり、ほとんど無傷であった<ランドキャリア>からフィオナが出てきた。
彼女は自分たちを守ってくれた<タケミカヅチ>を見上げる。
大量のコンクリートの破片を浴び続けた白いAFの装甲は、あちらこちらダメージがあったが致命傷と言える箇所は無かった。
「カナタ、ありがとうございます。あなたのお陰で皆無事です。――怪我はしていませんか?」
『――ああ、僕は大丈夫だ。フィオナこそ怪我してない?』
「はい、大丈夫です」
<タケミカヅチ>から聞こえてくる声は優しく、フィオナや仲間たちを心配しているのが伝わってくる。
<スサノオ>は<タケミカヅチ>の近くまで移動し、デューイは二人の微笑ましいやり取りを見守っていた。
『――すまなかった。本来なら実力を確かめるだけのはずだったのが私の不注意で全員の命を危険に晒してしまった。改めて謝罪する』
つい先程まで本気で死闘を繰り広げていた相手からの突然の謝罪に意表を突かれカナタは驚いてしまう。
『あ、いえ……そう真っ直ぐに謝られると、どう返せばいいか……取りあえず戦いは終わりって事でいいですよね?』
『ああ、お前たちの実力はよく分かった。色々と思うところはあったが私の想定を大きく上回るレベルであったことは間違いない』
『……デューイさん。さっきの僕は……』
カナタは思い詰めた様子で最後まで言い切ることが出来なかった。その心情を理解したデューイは自らが思った事を正直に話す。
『先程のお前の変貌ぶりは保育装置で再生される前の人格が出てきた為と考えられるな』
『以前の……僕の人格……?』
『何がきっかけか分からないが、それがトリガーとなってかつての人格が表に出てきた可能性が高い。稀にそういうケースがあると聞いたことがある。軍に専門の医師がいるから後でカウンセリングを受けるといい』
『――つーか、勝手に話を進めるんじゃねえ!!』
怒声と共に瓦礫の中から姿を現したのは<カグツチ>であった。肩を揺らして歩いてくると<スサノオ>の手前で止まり顔を近づけて睨む。
コックピットではバルトが愛機と同じようにデューイにガンを飛ばしていた。
『何が「私の不注意で危険に晒してしまった」だ! <カグツチ>はこんなにボロボロになるし、オレは死ぬところだったぞ!!』
『……バルト・フレイムか。既に言ったが、それはお前の自滅によるものだ。私はお前の動きを拘束した時点で黙っていろと言ったはずだ。そのまま大人しくしていれば<カグツチ>はそこまで破損しなかっただろう。――とにかく元気そうで何よりだ』
『な……! こんのヤロウ、バカにしやがって!!』
怒るバルトに対して余裕の笑みを見せ相手にしないデューイ。まさに水と油のような二人のやり取りを前にしてカナタとフィオナは肩をすくめるのであった。




