十三話
「神置くん、あのままだったら海道さんが陸に上がるまで何時間も試合を終わらせなかったでしょ!」
「そうだね、ゆーまは鼻の下がべろんと伸びていたからね。」
「というか、そんなに海道さんに興味があったの?」
「・・・いや、あれは男の本能というか、仕方が無いものでだな・・・。」
むなしく言い訳を垂れる俺。
「ゆーまは、女の子だったら誰でも良いからね。」
「ちげぇよ!」
「へぇ。じゃあ、誰に興味があったりするの?」
美人だったら誰でも大歓迎です。←本当の気持ち。
だけど、そんなの言えるわけ無いから、栞羽をおちょくる気持ちも含め、
「そうだなぁ・・・。やっぱり、栞羽かなぁ・・・。」
と言ってみた。まぁ、俺の脳内美人ランキングの一位は栞羽なわけで、嘘は言ってない。予想どうり、栞羽はあたふたして一件落着する・・・と思ったが、なぜか制服第二ボタンを開ける栞羽。・・・戦いが終わったら、体操服から制服に着替えたのだ。俺は、面倒くさいから体操服のままだが。
「・・・え、どうした栞羽。暑いなら窓を開けるぞ?」
そういい、俺は栞羽から目をそらそうとする。・・・いや、ね?第二ボタンなんて開けると、胸の谷間が見えるし、何かすることがないとそれをずっと見つめていそうで、ね?
「神置くん、私と海道さん、どっちの方が好き?」
「・・・いや、それは栞羽だろ。」
・・・おいおい、どうした栞羽。そんな質問をした意図ってなんだよ?
「そう。じゃあ、私の胸、見てみたいと思ったり、する?」
俺は凍りつく。・・・まさか、栞羽はサキュバスになってしまったとか!それは大変だ、その封印を解くためには心臓に近い部分、すなわち左胸をじっくり観察せねばならない!肉体は凍りつくのだが、脳はオーバーヒートしそうなくらいに超回転している。栞羽は、その黒く透き通った瞳でこちらをじっと見つめる。緊張度がMAXになり、いよいよ俺が結論を出そうと思った頃、
「うそだよ、神置くん。」
と、栞羽が予想通りの言葉を言う。そんなわけがあるはず無いのに、俺は自分がマジになっていたことに気づき、しっかりせねばと思った。・・・でも、童貞だから女性耐性が0なんだよなぁ・・・。
「それにしても神置くん、意外に初心なんだね。」
「いや、そんなんいわれたのは初めてだからな。少し緊張しちゃったわ。」
口が裂けても、もうちょっとでアレを鵜呑みにして襲い掛かろうと思っていましたなんて言えない。
「私も、あんなこと言ったのは初めてだよ。」
「だめだよ、桜ちゃん。あんなこといったら、ゆーまが獣になって押しかかってくるからね。」
いままで沈黙していたロウキュピテスが、沈黙を破る。
「もしそんなことしても俺が栞羽に秒殺されるだけだからな!」
俺と栞羽が戦っていたらこいつは主人の俺を無視して栞羽側につきそうだ。
「っていうか栞羽って見かけによらず男慣れしているんだな。」
「いやいや、だって私が男の子とプライベートなことでしゃべったの、確か中一くらいが最後だったと思うよ?」
「マジで!」
「うん。私に話しかけようとした人は、一言を言う暇も無く友達に首根っこを引っ張られて、多分遊びに連れて行かれていたし。」
おそらくそれは、クラスの高嶺の花にしゃべりかけた不届き者を処罰しにやってきたエクセキューショナー死刑執行人だろう。その不届き者が連れて行かれた先は体育館ではなく体育館の裏のサバト会場だと思う。
「そんなことより、神置くん。とうとう準決勝だけど、次の敵って、どんな人なの?私、さっきちょっとパンフレットをなくしちゃったみたいで・・・。」
「え?・・・あ、そうか。そういえば、栞羽そんなことも言っていたな。えっと、次の相手はおそらく、こいつらだな。」
そういい、俺はある一チームの名前を指す。
「えっと、これ・・・え?ウソ・・・・・・。」
そのチームの名は、UNKNOWNS。選手は・・・。唯 翼に羽燕 啼。つまるところ、二年トップの美男美女カップルの奴らだった。
*
ちょっと俺はよるところがあるからそこにより、帰ってくると戦いはもう始まろうとしていた。
「この大会ももう準決勝!私から語ることはありません!ランク4vsUNKNOWNS!どちらも二年生ながら圧倒的な実力で一つ年上の相手をねじ伏せてきた実力派です、はたして勝利の女神はどちらへ微笑むのでしょうか!では、レディ・ファイト!」
「よぉ、翼。あの時、華から助けてもらったのは恩に着るが手加減はしないぞ。」
「望むところだよ、神置。」
「啼ちゃん、今度こそ私が勝ちますからね。」
「言うじゃない、桜。期待しているわよ。」
そして、お互いは一番近い岩に隠れ、
・・・3,2,1,0。
勝負が、始まる・・・と同時に、フィールド全ての岩が消し飛んだ。唖然とする俺らに、解説は
「学園長が、隠れてちまちまSPを撃つ戦いは派手にならんとのご意向のため、今回に限り岩を全て消すようにと。あ、あと制限時間が設けられているのでそれを超えた場合・・・全能力を開放するようにと・・・」
とほざきやがった。・・・くっそ、頼んでいないことをやりやがったな校長!・・・・・・あれ、校長と言えばチケットだけど、チケットといえば・・・。記憶の断片が戻りかけるが、それもすぐに吹っ飛ぶ。唖然としていた時間は一秒にも満たない。
「し、よし、栞羽、作戦1を飛ばしていきなり3に行くぞ!」
そういったとたん、ロウキュピテスが加速する。「運動は苦手」とロウキュピテスは言っていたが、腐ってもロウキュピテスは使徒である。なんと最高速度は200キロ近く。しかも一歩目からその速度を出せるらしい。そんなスペックがあるならなんでロウキュピテスを今まで放置していたのかと言われそうだが、ロウキュピテスは一回この技を出すと半日動けなくなるそうだ。そして身を翻し、翼に羽交い絞めをかける。
「え、ちょっと待・・・。」
「ごめんね、ロウちゃんに唯くん!」
そういいながら、栞羽は詠唱をする。
「金剛石より硬きもの、光より速きもの、神より尊きもの、宇宙より広きもの、無より小さきもの。限界を破戒せよ。」
「離してくださいって、神置の使徒さん!」
しかし、翼は優しいためロウキュピテスという女子に対してあまり強い策を取れない。その間に栞羽は詠唱を終えた。
「幻想の槍!」
その槍は、一夏の悪夢のように翼とロウキュピテスを串刺しにし、粒子となって消えていく。
「よし、翼は殺った、後は羽燕だけ・・・!?!?」
俺は栞羽を突き飛ばし、後ずさる。
「神置くん?どうかしたの?」
「なにか、いやな気配がした。」
「へぇ。私の能力を見破られたか。」
「いや、まだ見破って・・・ッ!!」
今度は視界の右端に動くものを発見。後ろへ飛ぶ。
「時々思うけど、神置って凄い身体能力に反射神経だよね。」
「・・・!唯くん!」
「やっぱりあの程度では倒せなかったか!」
「え・・・。あの程度って・・・。」
「電光掲示板を見たら分かる!」
俺に言われたとおり、電光掲示板を見た栞羽。俺も、ついでに見る。
赤チーム UNKNOWNS
唯 翼 HP 120(∞)
羽燕 啼 HP 60
青チーム ランク4
神置 悠真 HP 105
栞羽 桜 HP 100
ロウキュピテス(使徒) HP 9100
残り 10分
「∞・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「言い忘れていたが、翼はLDが350だ。」
俺の声をマイクが拾ったのか、会場がざわめく。前、学園長が俺を含む五人の生徒が有望株といっていた。なぜ五人なのかと思ったが、そう。この、唯 翼を入れるからなのだ。
「そして、此処からは俺の予測だが、翼はそのありあまるLDでおそらく覚醒能力の最強の技を使っている。」
・・・覚醒能力最強の技。消費LDがなんと300という、馬鹿げたLD消費量で世界に使う者は二人しかいないと言われている、神話級の技。
「エタニティ悠久不変・・・。」
誰かが、そうつぶやいた。
・・・エタニティ悠久不変。その名のとおり、絶対に死なず、絶対に傷つかず、肉体的及びSPダメージを一切喰らわないという技。傷つかないばかりか吹き飛ばされることも無く、それどころかよろめくことすらなく、たとえミサイルや毒ガス、放射能がほとばしる戦場でも悠々と歩いて敵の陣地へと向かうことから、そう呼ばれている。
しかし、エタニティの効果はそれだけではない。俺はさっきの翼のスピードを思い出す。すさまじい、と呼ぶにはあまりにもすさまじすぎた。俺がアレをよけれたのは、ただの偶然である。・・・エタニティの効果は自己完全瞬間治癒と呼ばれる治癒力と、そして時速300キロとかいう馬鹿げたスピードである。自己完全瞬間治癒は、その人が抱えている病気などを一瞬の内に治癒する技で、古傷や記憶喪失は勿論のこと、無くした腕までがいつの間にか生えているというトンデモすぎる治癒能力であり、スピードは初速で少なくとも200キロ位になるらしい。
「・・・嘘でしょ・・・。」
栞羽が、口を押さえる。
・・・というか、その翼だけでもマジでやばいのにそれに加えて羽燕である。どう考えても無理ゲーだ。しかも実は羽燕、今まで一度もそのSPをさらしていないのだ。ラスボス二人とか。クソゲーじゃねぇか。
「じゃあ、啼。君は栞羽さんとロウキュピテスさんを戦闘不能にしてくれ。俺は神置をやるから。」
「そう。健闘を祈るわ、翼。」
そういい、拳をあわせる二人。
「じゃあ、栞羽。羽燕を頼む。」
「はい。神置くんも、唯くんをよろしくお願いします。」
「分かっているさ。・・・一つ忠告だ、羽燕にあまり近寄るな。遠距離で決めろ。・・・あいつのSPはヤバイ、それだけは覚えておけ。」
「分かった。ロウちゃん、頑張ろうね。」
いつの間にか近くまで来ていたロウキュピテスに栞羽は呼びかける。
「うん。・・・ねぇ、ゆーま。ゆーまって攻撃できないのに、使徒の私から見ても化け物としか思えない人間と、戦えるの?」
「当たり前だろう。力がある奴が一番強いんだったら、暗殺者は全員ボディビルダーになっているはずだろう。ところがどっこい、世界最高の暗殺者や犯罪者は、体格はそこまでよくないんだ。良いのは、頭なんだよ。翼に、力より頭の方が強いということを思い知らせてやる。」
「唯って言う人のほうが、ゆーまより頭もよさそうなんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・。まぁ、その頭の良さって奴は比喩だよ、比喩。」
「「・・・・・・・・・。」」
二人が、こいつ大丈夫かなぁという目で見てくるのがキツイ。
「よ、よし、頑張るぞ、エイエイオー!」
やっと、本気の試合が始まった。




