第七七話:「上手く行くとは限らんのじゃよ?」
ギシリと関節を軋ませながら、青年は勢いよく身体を跳ね上げ四足歩行の体勢を取る———その顔面目掛けて。
渾身の膝蹴りを僕は叩き込む。
「ン、グッ!?」
さすがに予想していなかったのか、青年の上半身が大きく仰け反る。
そして反応が遅れたのを逃さず、頭を両手で掴むと、
「お返しっ」
地面へ向けて振りかぶり、叩き付ける。
しかし、そこは噂の一二魔天将。
体勢を少し傾けると地面と身体の間に腕を滑り込ませ、突っ張り棒のように支える。
受け止めた衝撃で普通なら骨折か、少なくともひびくらいは入っていそうなものを、表情一つ変えない所は見事と言う他ない。
鍛え方がどうこうというよりは、そもそも生物としての造りが根本的に違っているのだろう。
———なら。
僕は用を為さなくなった両手を、彼の頭から外し後ろ手に回す。
が。
「させねーよ」
死角から、ヒュンと風切り音が鳴った。
咄嗟に、後ろに回していた手を顔の前にかざす。
間を置かず、そこに鋼鉄製の鞭で打たれた衝撃が走った。
……違う、そうじゃない。
姿が変わる前にも後にも、彼はそんな物———どころか、武器の一つすら持っちゃいなかった。
なら一体何か。
考える前に、答えが来た。
唸りを上げて僕に肉薄するそれは、
「尻尾……ッ!!」
「あ? 気付いてなかったのかよ」
慌てて距離を取ろうとするが、躱し切れず頬にかする。
それだけで、まるで剃刀で切られたかのように肉が裂けた。
その痛みに僅かに動きが鈍った僕に、すかさず追撃が入る。
首を掴まんと伸ばされた青年の腕の先には、人の身体など容易く抉れそうな鋭利な爪。
ってかやば、この間合いと速度差じゃ逃げ切れない……。
———という判断が僕の中で下ってしまった所で、青年が微かに顔を歪める。
「……?」
直後、青年の頭が唐突に爆発した。
否、そうではなく。
何かが彼の顔に着弾したのだ。
この世界に手榴弾やその類の物が無い以上、正体はほぼ一つに限られる。
一瞬だけ青年から視線を動かせば、視界の隅に杖を構えた王女の姿が見えた。
「ッ……ァアッ!」
青年は一瞬怯む様子を見せたものの、構わず僕の方に突っ込んで来る。
ただ、爆風で視界が遮られた為か、その腕はどこか当てずっぽうで所在無さげに見えた。
その逡巡を見逃さず———、マスターの足が切り込む。
真っ向から激突、粉砕。
明らかに関節の数より多い回数腕が折り畳まれ、ボキボキと音を立てながら弾き飛ばされる。
その腕を背後から忍び寄った黒装束の彼女が抑え込み、ねじ切らんばかりの勢いで捻り上げた。
てか本気でねじ切るつもりだったかもしらんねこれは。目がそう言ってるもん。
更に、流れるような動作で足払いをかけて青年の身体を倒すと、片足で折れていない方の足を踏みつけもう一方の足を背に乗せて身動きを封じる。
そして締めとばかりに余った手で彼の頭を抑え付ける事で、ようやく青年は沈黙した。
ちなみにようやくとは言ったけど、彼女の一連の動きには何秒もかかってなかったり。
「お怪我はございませんか、我が主」
「……あるかないかで言ったらありますけど、別段気にするほどでもありませんよ。まぁ痛いですけど」
頬の傷に軽く触れながらそう答える。
「……分かりました。して、この下賤なる輩はどう虐殺致しましょう?」
「いや殺しちゃ駄目ですから」
「なるほど。拷問で肉体と神経を極限まで摩耗させ、死んだ方がマシだと思える程の苦痛を与え続ける生き地獄を味わわせるのですね。さすがは我が主です」
「欠片も思ってません」
やだ何この娘、すっごい怖い事言ってるんだけど。
「私に言わせれば、そもそも敵に向かって一人で突っ込んで行く事自体があり得ないんだけど」
「其れに、相手の得体が知れぬと成れば尚更じゃ。自業自得……と言うには些か弱いが、行動が軽率では在ったの」
諌めるような口調の王女にマスターが追従する。
「得体が知れないからこそ、致命的な何かが来る前に早期決着を……みたいな。ほら、先手必勝? 的なあれです」
「一理あるといえばあるけど、どうしてそう自信なさげに言うのかしら。おかげで説得力が半減してるわよ」
あと人の剣を壊してくれたし。
これは問答無用で殴り掛からざるを得ないでしょう。
「はぁ……。今回は無事じゃったから良かった様な物の、次も上手く行くとは限らんのじゃよ?」
「肝に銘じておきますよ」
と、その時。
「……ッ! 離れて下さい、我が主!!」
「ゲフゥ……ッ!」
焦ったような叫びが聞こえると同時、黒装束の彼女がこちらにタックルをかまして来た。
ついでに変な声出たし。
「ちょっ、何を———」
言いかけて気付く。
彼女の黒装束、その肩の部分が破れていたのだ。
一拍置いて、そこから赤黒い血が溢れ出す。
そしてその向こう側に、僕は信じられない光景を目撃する。
誰がどう見たって完全に折れていたはずの腕を青年が振り上げている姿を。
「舐めた真似しやがって雑魚共が……」
場の空気が明確に変化する。
これまでだって決して緩い雰囲気ではなかったのに、それがお遊びに思えてしまうほど。
殺意と憤怒が、充満する。
「ぶっ潰してやる。楽に死ねると思うなよ」
掲げていた腕が振り下ろされ、地面に着弾する。
着弾。
そう、あの衝撃と轟音は、まさにこの言葉が相応しかった。
「ッ……、マスター!!」
「分かって居る!」
僕が声をかける前に、マスターは既に動いていた。
王女の首根っこを掴むと、彼女の事などお構いなしに後方へ跳躍する。
それとほぼ前後して、僕と黒装束の彼女も青年から距離を取るため走り出した。
直後に、寸前まで僕らが立っていた場所が地割れに呑み込まれる。
「……ッ!!」
喉が干上がるのを知覚しながら、尚も足を回す。
さっきの位置から一五メートルほど走った所で、ようやく終わりを感じ立ち止まる。
同様に黒装束の彼女も足を止め、その一、二メートルほど後ろにマスターが着地した。
振り返れば、青年のいるであろう場所を中心に半径およそ一〇メートルほどが、まるで隕石でも落ちたかのように放射状にひび割れ崩れている。
隕石が落ちたら普通はクレーター状になるだろうとかそういう当然の考えは、残念ながら思い浮かばなかった。
青年の姿は激しい砂煙に覆われうかがえない。
中心部は未だ崩壊が続いているのか、時折ガラガラと岩が砕けるような音が響く。
けれどその中で、僕は確かに彼の声を聞いた。
「『獣全形態』」
刹那、僕の真横を一つの影が走った、———気がした。
書けるとは言ってない(キリッ
フラグ回収無事終えました本当に(ry
たかだか二〇〇〇字強書くのに二ヶ月以上費やすとかwww(自虐)
それでいて安定の薄っぺらさとか、いい加減作者は自分に才能無いって気付くべきなんじゃないんですかあ?(煽り)
……ダメだ、相当痛い事になってる。




