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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第四章
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第七四話:「人の気持ちも知らないで!」

「さて、どうします?」


 中央都市セントラルを出立したその日の夜。

 街道沿いで営業していた宿屋の受付を前にして、僕はそんな風に切り出した。

 ちなみに王女は未だに眠っている。


「改まらずとも、遣るべき事は決まって居ろう。魔族を潰し魔王を倒す。中央都市の小僧から正式に依頼も下った事だしの」

「まぁそうなりますよね。あーあ、大変な道のりになりそ———ってそっちじゃなくて!」

「魔王城の所在地でしょうか? でしたらば非常に心苦しいのですが、私ではお力になる事は出来ません。領境近くまででしたらご案内は可能ですが……」

「いえいえ、充分ですよ。正直僕一人じゃどの方向に向かったら良いのやらも———だからそうでもなくて!」


 今さら最終目標を言われた所でそんな事は分かってるし、目的地なんて自分で調べれば良いだけの事だ。

 僕が問題としているのはそんな先の話ではなく、もっと目先の事だ。

 要するに、


「部屋割りをどうするかって聞いてるんです」

「当然、儂がお主と相部屋じゃろうな」

「当然、私が我が主と同室でしょうね」

「すいません、一人部屋と三人部屋を一部屋ずつ。はい、僕が一人部屋で」


 受付の向こうで、困り顔で苦笑を浮かべている中年のおばさんにそう告げる。


「うぅ〜ん、生憎だけど今は一人部屋か四人部屋しか空いてなくてね。というか、元々三人部屋なんて中途半端なのは無いんだけど」


 何……だと……。

 いや待て、とりあえず僕の分の一人部屋だけでも確保すれば———。


「見た所お嬢ちゃん、お連れさんら含めても四人だろ? わざわざ一人一部屋とるより、四人部屋の方が安上がりだよ」


 うっ、そう来たか……。

 安上がりと言われてしまうとどうしてもそちらに傾かざるを得ないのが、日本人の悲しい習性なのだ。

 どう見ても僕が貧乏性なだけです本当にありがとうございました。

 ただまぁそれを抜きにしても、懐にあまり余裕が無いのは事実だ。


「……四人部屋で、お願いします……!」


 数秒悩み抜いた末に、苦渋の決断を下す。


「あいよ。それにしてもお嬢ちゃん、人気者ね」

「お嬢ちゃんは止めて下さい。あと、別に女の人にモテても嬉しくないですから」

「あらそう? 満更でもなさそうな顔してるけど」

「してません」


 してない。断じてしてない。

 そんな訳で鍵を受け取ると、僕らは案内された部屋でしばしくつろいだ。

 ちなみに、ベッドの位置でモメたのはまた別の話だ。



===============



「さて、どうします?」


 夕食を終え部屋に戻って来ると、食事の直前になってようやく起きた(と言ってもまだ半分寝ているような状態だが)王女を含め、改めて場を仕切り直す。

 その王女の容態はというと、まだ完全に回復したとは言えないものの順調に快方に向かっている。

 少なくとも昼、あるいは昨日までと比べれば格段に良くなった。


「儂とお主が同じ寝具を使うと云う結論に落ち着いたじゃろう?」

「待て、勝手に記憶を改竄するな。我が主と共に寝るのは私だ」

「改竄してるのはあなたも同じですしそもそもベッドは人数分あるので一緒のを使うなんて選択肢は最初からありません!」

「……ねぇ、こんな事の為に起こされたのなら私寝ていいかしら。大声出されると頭に響くのよ」

「お気になさらず。あの人達の話は本題にかすりもしてませんから」


 というか起きててくれないと色んな意味で困る。

 なおベッドの位置は、入り口に近い方から僕、王女、黒装束の彼女、マスターという順だ。

 正直奥二名は危険度的にはさして変わりがないので、間に盾として王女を挟みつついざという時の逃げ道に一番近い位置に陣取らせてもらう事にした。


「そういう話じゃなくて、今度こそこれからの方針の話です」

「其れならば先程既に出て居るじゃろう」

「えぇ、魔王を倒すのは決定しています。だから後は、それに辿り着くまでの具体的な手段の話です」

「手段と言われましても……。先程も申し上げた通り、魔王城の詳細な所在地は判明していません」

「魔族領の遥か奥地ってのが現状での人族こっち側の見解だけど、そもそも魔族領がどの程度の広さなのかすら曖昧だしね」


 まぁ、当然か。

 まともな神経の持ち主なら、自分から危険地帯に赴くような真似はしない。

 まともでない神経の持ち主———喜び勇んで踏み入りたがる者なら、測量やまして開拓なんていう人族側の利益には欠片も興味を示すまい。

 そうでなくとも、断続的に戦争が起こっているとはいえ基本的にはお互い不可侵だ。

 存在自体が水と油の相性最悪なのに、歩み寄ろうなどと奇特な考えを持つ輩はそういないだろう。


「すると打つ手無しですか、弱りましたね……。虱潰しに探すにしても実質あと六日じゃ、到底回りきれる気がしませんよ」

「そうね。あと六日なんていくらなんでも短す———ちょっと待ちなさい、今アナタ何て?」

「? いやだから、六日じゃ魔族領全土を回り切れないだろうなって」

「……念のために聞くけど、その心は?」

「……戦争が始まる前に本拠地を見つけて大将まおうの首を取れば、犠牲になる人が減るんじゃないかと……」


 言った途端に、王女の表情が固まった。

 そりゃもう、石膏で塗り固めたんじゃないかってくらいにピッチリと。


「……呵々。成程、成程のう。面白い、実に面白い奴じゃよお主は!」


 その横で、何故かひとりでにテンションが上がってるマスター。


「確かに全く其の通りじゃの。其の策、儂も乗った」

「はぁ!? ちょっとアナタまで何言い出すのよ! 無理に決まってるじゃないそんな事!!」


 楽しそうな笑顔のマスターに食って掛かる王女。

 まだ完治してないのにそんな声を荒らげたら後でどうなるか……。


「だ、大体、探すにしてもその人員はどこから引っ張って来るのよ!? 朝言ってたでしょ、軍隊の配備は滞ってるって! いえ、もし仮に配備が整っていて今この瞬間に捜索に入っていたとしても、見つけてから全軍がそこに集まるまでにどれだけの時間がかかると思ってるの!? それを考慮したら実際の探索時間なんて、下手すれば六日どころかその半分以下よ! 間に合う訳……、見つけられる訳無いじゃない!!」


 うんまぁ、確かにそれは正論なんだけど……。


「別に軍を待つ必要は無いというか、その……」

「何よ、他に良い案があるっていうの!?」

「えっとだからつまり……、僕達でやれば良いじゃないですか……、なんて……」


 二度目のフリーズ。

 ただし、二度目であるが故に立ち直りも早かった。


「バッッッッッッ…………カじゃないの!!!???」


 ごめんなさい嘘つきました、全然立ち直ってませんでした。

 てかむしろ混乱が増してる。


「たった四人で? たった六日間で? あの広大な領地を? 隅から隅まで調べ尽くす? 天地がひっくり返ったって無理よ!! それに、魔王城を見つけるより先にこっちが見つかる可能性だってあるわ。アナタがどれだけ自分の力を過信してるか知らないけど、あそこは魔族の総本山よ? ホームグラウンドよ? アウェイどころか目に入るもの全部が敵なの! 引き換えこっちは一介の魔法使いに、バカみたいな事言い出す大バカに、変態ストーカー根暗女に、頭がイカれ始めてる年寄りのガッタガタの即席パーティ。返り討ちで無駄死にが精一杯よ!!」

「だから六日じゃ無理って言ったじゃないですか……」


 ていうか僕らの事そんな風に見てたのか。

 あ、目から汗が……。


「然う興奮するでない、綺麗な顔が台無しじゃぞ。其れに、方法が無い訳でも無い」

「……どうせまた突拍子もない事言い始めるんでしょ」

「否々、至極真っ当な事じゃよ」


 その割に笑顔が歪んでるのは何でなんですかねぇ。


「場所が分からぬと云うなら、分かる者に聞けば良いだけの話じゃ」


 あれ、意外と言ってる事はまとも……?


「分かる者って……、例えば?」

「然うじゃの。最低限話が通じ、且つ確実に場所を知って居るとなると……」

「となると……?」

「一二魔天将辺りが妥当かの?」

「私帰るわね、お疲れ様。縁があったらまた会いましょう」

「待って下さいそれだけはどうか……!」


 今にも帰り支度を始めそうな王女の腕をとり必死で食い止める。

 お願いだからあの人達と三人きりにしないで……!


「だって一二魔天将よ!? 無理無理無理絶対無理、勝てる訳ないじゃない! こっちの軍全部を一気にぶつけてようやく対抗できるかどうかだってのに、それを私達で倒すとか言ってるのよ!? あんなのと一緒じゃ命がいくつあっても足りないわよ!」


 その台詞は禁句フラグだから!

 後ろに「私は別の部屋で寝させてもらう」とか続けたらいよいよ立っちゃうから!


「ア、アナタはどうなのよ。得体の知れない化物と戦うなんていやでしょ?」

「私に私の決定権は無い。我が主が敵と定めた全てを、全て余さず排除するまでだ」

「アナタのそれは主体性がないって言うのよ!」


 自分の味方を求めるも、縋った相手が悪かった。

 黒装束の彼女は王女の願いをにべもなく切り捨てる。

 さぁ、これで王女は孤立無援の四面楚歌。鼠一匹———もとい、反論一つ返す隙間もなく理論武装で追い詰められた訳だ。

 よくよく考えれば穴だらけの理論とか言われても知らない。

 そしてその一端を僕が担っているとかも知らない。

 なので申し訳程度に拘束は緩めておく。


「ど、どうかしてるわよ! 知らないから! 私は帰らせてもら———」

「行かないで下さい」


 気分的には多分明後日の方向へ向かっていたであろう王女を強引に引き戻す。

 具体的にはこう、後ろからぎゅっと抱きしめてみたり。


「……何よ。離しなさいよ」

「大丈夫です。一二魔天将だか何だか知りませんけど、あなたは僕が守りますから」

「……ッ」


 抱きしめる力を強める。

 そして気付いた。

 体温が上がっているのが。小刻みに震えているのが。息が荒くなっているのが。

 それは熱がぶり返したからなのか、それとも———。


「怖がる必要はありません。こんな僕が言っても説得力無いかもしれませんけど、あなたを守らせて下さい。それで、僕を守って下さい」

「……私に、そんな力無いわよ……」

「そんな事ありません。いてくれるだけで、僕はあなたに守られてますから」

「……」

「だから、安心して下さい。みんなみんな、僕が守ります。誰一人、死なせません」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」


 体温が、更に一度ほど上がった気がした。


「……この天然」

「え?」


 王女が小さく呟く。

 勿論この距離だから聞こえないはずがないんだけど、それはまぁ様式美という事で。


「そういうのを平気で言える所が嫌なのよ! 人の気持ちも知らないで!」


 そう言うと、王女は僕を振りほどいてベッドに飛び込む。

 全然平気じゃないんだけどね。死にたくなるくらい恥ずかしいんだけどね。

 ラブコメの主人公ってよくこんな事真顔で言えるよなぁ……。

 ま、説得は無事に出来たから良しとしよう。

 ただ、あえて一つ付け足させてもらうなら———、


 ———そこ、僕のベッドだったんだけどなぁ……。


 背筋にゾクリと寒気が走ったが、それは気のせいだと信じたい。

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