第六七話:「…………………………」
同刻、王宮内会議室。
その中で一際豪華な椅子に脚を組みながら腰を下ろしている一人の青年の姿があった。
表情には僅かな焦りこそ覚えるが決定的というほどではなく、いくらかの余裕は保たれている。
とそこに、扉を蹴破らんばかりの勢いで一人の兵士が駆け込んできた。
「お、王子! 至急報告したい事が!」
「だーから王子じゃなくて王だっつってんだろ。まー良いけどよ。それで、報告ってのは何だ? 良い方か? 悪い方か?」
「それは……」
兵士は一瞬言い淀むが、意を決したように口を開く。
「王……、いえ、その前王ですが……、———絶命した状態で、発見されました……」
「なっ……」
誰かが発した動揺の気配は、あっという間にその場の全員に伝染する。
「い、一体どういう……?」
「いや、それよりも誰がやったのだ!?」
「誰がやったのかなどどうでもよい! それよりも、他国にこの事が知れれば……」
「魔族が侵攻して来ているのだ。これ以上の騒動は余計な混乱を招くだけだ!」
「不味いぞ、このままではこの国が———」
「静まれ!」
冷静さを失い始めていた場の空気を、一つの声が打ち破った。
自然、彼らの視線はその声の発生源へと向けられる。
そして声の発生源———第二王子は、口元に手を当て考える素振りをしながら言う。
「詳細を寄越せ。どんな状態だった?」
「……は。現場は宝物庫の外、窓から少し離れた場所にうつ伏せで倒れているのを見つけました」
「外だと?」
「はい。発見場所の周囲がかなりの広範囲に渡って争った形跡がある事から、恐らくはその余波に巻き込まれたものと推測されます。頭部の損傷が激しかったため断定は出来ませんが、体格や服装からして前王本人に間違いないかと」
「……分かった、下がっていいぞ」
そう言った後も彼は口から手を離さず、思考を続ける素振りを見せる。
しかし、覆った口が薄く笑っていた事に気付けた者は皆無だった。
その格好のまま数十秒ほど経過した頃、不意に彼は手を外し口を開く。
そこには、先程見せた薄ら笑いは張り付いていなかった。
「親父殿を連れて逃げたあの女を手配しろ」
「お、お言葉ですがまだ彼女が犯人と決まった訳では……」
「親父殿の死亡は事故じゃねー。勿論言うまでもなく自殺もあり得ねー。なら誰が殺したか? 状況的に一番怪しいのはあの女だろ。あーあとついでに、第三王女も見つけ次第拘束しとけ。あんな危険人物を城内に招き入れた責任者としてな」
「しかし……」
兵士の歯切れの悪い返答に、彼は大げさにかぶりを振って語りかける。
「別にあれが真犯人かそうじゃねーかなんてどうでもいいんだよ。大事なのは犯人を挙げたというその一点だけだ。考えてもみろよ。人一人を殺した人間がそこら辺をうろつき回ってるなんてなったら、街の皆さんが怖がっておちおち出歩けもしねーだろ? それを防ぐためには、形だけでも犯人を挙げとく必要があんだよ」
「それはそうですが、もし万が一にでも違っていたら……!」
「だから言ってんだろーが。間違ってたらそん時ゃそん時だ。何だったらむしろ俺は殺してくれた奴にお礼を言いたいくらいだぜ? 当初の計画とは少々変わったが、俺にとっちゃこっちの方が都合が良い」
「つ、都合が良いとは……?」
「あん? いや何、最初は適当な罪でもでっち上げて王座を追放しようと思ってたんだがな。不運な出来事で死んじまったのなら仕方ねー。尊敬する亡き父の遺志を継いだ悲劇の主人公としての方が、民も受け入れやすいだろ」
「……ッ!」
王子の放ったその言葉に、思わず兵士は押し黙った。
否、彼だけではない。
王子以外の全員が、皆一様に息を呑み何も言えなくなっていた。
それを狙ってか狙わずか、王子はあくまで大仰そうに続ける。
「丁度良い生け贄もできた事だしな。革命には、多少の犠牲は付き物なんだよ」
「そうだね。僕もそう思うよ」
と。
声が響く。
その場にいた誰の者でもない、声変わり前の甲高い少年の声。
そして、ぐにゃりと空間が歪む。
「犠牲無しに何かを成し遂げる事はできない、良い言葉だよね。ただまぁ革命って言うならさ。たかだか国一つなんてちっぽけな物じゃなくて、世界そのものを引っくり返してみようとは思わない?」
声が発せられる間にも歪みは大きくなり、それはやがて二つの人影を作り出す。
一つは身の丈に合わないローブを着た年端もいかぬ少年。
もう一つは燕尾服を身に纏った執事風の壮年の男。
そして少年は言う。
「そんな訳で初めまして、どこかの偉い人。宣戦布告、しに来たよ」
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「とりあえずこの国で一番偉い人とお話したいんだけど……。それっぽい人はいなさそうだね」
「いーや。俺がその『一番偉い人』だぜ」
スッと、王子が一歩前に出る。
それを見て、少年は首を傾げた。
「あれ、おかしいな。この国の王様はもっと中年のおじさんって聞いてたのに」
「えぇ、こちらでもそのように記憶しております」
「まー色々あってな。俺はついさっき王になった所なんだ。だからアンタらの思ってる人物とは違うが、アンタらの探してる人物には相違ねーよ」
王子は軽口を叩きながら様子を窺う。
「ふぅん……。まぁどうでもいいや」
「それで何だっけ、宣戦布告? 悪いけど今立て込んでんだ。冗談なら他所でやってくれ」
「悪いけど冗談なんかじゃないんだよ。紛れもなく言葉通り、間違いなく額面通りに受け取ってほしいなぁ」
「……目障りだ。消せ」
カシャリと、無数の武器が二人に向けられた。
しかし彼らはそれに怯えるでもなく、困った顔を浮かべる。
「動きはさすが、重要人物の側近として雇われてるだけはあるよね。さっきの烏合の衆とは大違いだ」
「……どういう意味だ?」
「うん? どうでもいいじゃんそんなの。それよりこっちの話を信じてもらわない事にはね」
「名乗るのをお忘れです。身分を明かさなければ交渉の席にも着けませんぞ」
「おぉ! さっき名乗ったばっかだからうっかりしてた!」
合点が行ったという風に手を打つと、少年は王子に向き直り笑顔を作る。
「ごめんごめん、じゃあ改めて。一二魔天将が一柱、序列十一位『虐童』とは僕の事だよ。以後よろしく」
「一二魔天将……、ねぇ……」
疑わしいというよりは、さして興味の無さそうな目で王子は見つめ返す。
それをどう捉えたのか、少年は再び執事風の男に話しかけた。
「どうやったら信じてもらえるかな?」
「最低限身なりを整えて来るべきでしたな。土埃に塗れては威厳も何もありません」
「なるほど。でもそれって今さらだよね。あ、ならこうしよっか」
少年は何の前触れも無く、いつの間にか手にしていた長剣で目の前の兵士の一人を貫いた。
「……え?」
身体を貫かれた兵士が何が起こったのか分からないというような声を出す。
その間にも、少年は剣を無造作に引き抜くと続けざまにローブの下から次々と武器を飛び出させる。
彼らに向けられていたのと同等、あるいはそれ以上にもなる大量の様々な武器は一瞬で兵士を殲滅し、辺りを鮮血に染めた。
そしてその中心で、元の汚れなど気にならなくなるほどの返り血を浴びた少年は満足そうな表情を見せる。
「じゃあ信頼も勝ち取った事だし、本題に入ろっか。我らが神たる魔王様からのメッセージを伝えるよ」
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そしてどこかで、無邪気な笑顔を真っ赤に染め上げた少年が言う。
「『我等魔族は、現時刻を持って人族及び同盟亜人族全てに宣戦布告する』」
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別のどこかで、三メートルはあろうかという巨体に緑色の肌を持った大鬼が吠える。
「『貴様達人族の行いは目に余る。よって、我が名の下に聖なる裁きを下す』」
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別のどこかで、ボロボロのドレスに身を包み日傘をさした女が口を開く。
「『従う者には許しを、刃向かう者には報いをもたらそう』」
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別のどこかで、下品な視線を周囲に注ぐ小太りの男が唾を飛ばしながら捲し立てる。
「『力有る者は奮って参戦するが良い。我は何者をも拒まぬ』」
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別のどこかで、頬に大きな傷のある男が酷くぞんざいな口調で告げる。
「『我に服従せし者は、戦争が終わった暁には欲する全てをその手に収める事ができる』」
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別のどこかで、六芒星を胸に掲げた白い法衣の男が涙ながらに声を震わせながら語る。
「『抗いたき者は好きなだけ抗え。全霊を以てそれに応え、貴様達を討ち滅ぼす』」
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別のどこかで、扇情的な衣装でふんだんに色香を振り撒く妙齢の女が嘯く。
「『我が代にて世界を統一し、一〇〇〇年の秩序と安寧をもたらす事を約束しよう』」
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別のどこかで、全身に入れ墨のような模様のある軽薄な雰囲気の男が声を張り上げる。
「『講和も和睦も協定も停戦も無い。事態は既に始まり、そして終わっている』」
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別のどこかで、仮面で顔を覆い隠した男とも女とも知れぬ者が呟く。
「『我等と貴様達は永劫争う運命だ。歩み寄る道など無いと知れ』」
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別のどこかで、竜の背に乗った勝ち気な表情の女が全てを見下したように吐き捨てる。
「『侵攻は一〇日後。それまではこちらから手を出す事は無いと誓おう』」
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別のどこかで、感情の一切が消え失せた瞳の少女が囁くような声音で締めくくる。
「『それではここに、第四次人魔大戦の開戦を宣言する』」
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どことも知れぬ闇の中で、壮麗な椅子に傲慢に腰掛ける者と、それに付き従うように控える者が静かに嗤う。
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舞台の幕は上がった。
火蓋は切って落とされた。
そして、世界は闇転する。
一話でフェードアウトの主人公。
だってこっちの方が書きやす(ry




