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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第三章
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第五五話:「逃げるだけなら、ね」

「……ッ!」


 迷っている時間はなかった。

 勢い良く踏み込み瞬時に王の元へ辿り着くと、襟元を掴み更に後ろへ跳ぶ。

 直後、王の座っていた椅子に無数の槍が叩き込まれた。


「な……、何事だこれは……!」

「見て分かりませんか? さっき彼も言ったでしょう、クーデターですよ」

「だからクーデターじゃねーよ。革命だっつってんだろーが」


 初撃を躱された事が気に障ったのか、不機嫌そうな声で第二王子が割り込んで来た。


「お前、こんな事をしてただで済むと———」

「思ってるさ。むしろ歓迎されるんじゃねーか? 愚か者を王の座から引きずり降ろした、英雄としてな」

「ふざけるなよ、この俺に逆らいおって……!」


 怒りを露にして声を響かせる王を視界の端に捉えながら、僕はここからの脱出方法を模索する。

 王女については黒装束の彼女がついているから大丈夫だろう。

 というより、既に王女を抱え逃走の態勢を整えていた。

 だが僕の方はそう簡単にはいかない。

 当然の事とは言え、王が一番奥の席に陣取っていたのが災いした。

 出口から最も遠く、人が通れそうな窓の類も存在しない。

 おまけに大の大人一人を一緒に連れ出さなければならないのだ。

 第一王女を始め無関係の人も僅かながらいる以上、無差別の範囲攻撃で征圧するという手も使えない。

 まぁ彼女に限ってはメイドさんがいるから大丈夫だとは思うが……。

 ……多少は手傷を負う事も覚悟するべきか。


 僕は未だ激昂する王に耳元で囁く。


「今からここを突破します。抵抗するようなら無理矢理黙らせますよ」

「ふざけるな! アイツから背を向けろというのか! あんな反逆者に……!」

「あなたの事情は知りません。別に見捨てても構わないんですけど、目の前で死なれても寝覚めが悪いので。呉越同舟というヤツです」

「……クソッ!」


 苦虫を噛み潰したような顔で承諾の意を示す。

 が、そうそう上手くはいかない訳で。


「おいおい、大事な大事な大罪人を逃がすと思ってんのかよ。つーかその前に、この包囲を突破できると思ってんのか? つーかつーかんな事以前に、テメーは一体どこの誰だよ部外者」

「ただの雇われ冒険者ですよ、王子様。まぁ厳しいとは思いますよ。()()()()()()、ね」

「……あ?」


 含みを持たせた言い方が気に喰わなかったのか、あからさまに苛ついた口調になる。

 実際、逃げるだけなら難しいとは思う。

 だが、別に選択肢が逃げるだけという訳ではない。

 この場さえ乗り切れば、あとは適当な所に隠れてやり過ごせばいい。撤退戦ならそれなりに得意なのだ。

 ……まぁ、まずこの場を乗り切る策が現状思い付いてないんだけど。


「……やれ」


 静かに、しかし確かに、命令は下された。

 そしてそれと同時に、大勢の兵士が殺到する。


 ……仕方ない。


「助けるんですから、後でごちゃごちゃ言って来たりしないで下さいよ」

「は? 何を———」


 答えは聞かず僕は王の首根っこを掴み、()()()()()()()()


「う、おぁぁぁああああああああああーーーーー!!」


 間抜けな叫び声を上げながら、放物線を描き宙を舞う。


 人というのは、気になる音や物があると反射的にそちらに意識が向いてしまう習性がある。

 そしてその一方で、突発的に発生した事象には反応しきれない事が多い。

 手品師なんかは、そういう意識の差(ミスディレクション)を利用してトリックを仕込んでいたりするものだ。

 今の場合も例に漏れず全員の目線は半強制的にそれを追う事になり、結果数瞬の隙が生まれる。

 とはいえ僕は手品師ではないので、目を欺くようなトリックを仕掛けたりはしない。

 やる事は単純だ。

 取り出したるは一本の細剣(レイピア)

 半身になり、片手で持つと正面に構える。

 軸足に力を込め、重心を前に傾けて攻撃の準備を整える。

 他より一瞬早く意識を取り戻した第二王子がそれに気付いて叫ぶ。が———、


「馬鹿野郎! お前ら正面を———」

「遅い」


 一閃。

 爆発的な加速の元、椅子や机などの障害物ごと中央を貫く。

 衝撃の余波を受けて吹き飛ぶ兵士を横目に、閉じられていた扉を突き崩す。

 ……誰も僕が怪我をするとは言ってないよね。

 落下して来た王を受け止めると、僕は振り返らずに走り出した。


「……チッ、さっさと奴らを追え! それと奴を連れて来た第三王女も捕縛し———ってアイツもどこに消えやがった!」


 背後で命令を飛ばす声が聞こえる。

 彼女達も、どうやら無事に逃げ出せたらしい。


「あーもー、メンドくせーなー。まいーや、とっとと取っ捕まえてぶっ殺しとけよ」

「「「「ハッ!」」」」


 兵士の声が重なる。

 角を曲がる時に、満足そうな表情で既に我が物とばかりに王の座っていた席に着く王子の姿が見えた。

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