第五四話:「ここでハッキリさせようじゃねーか」
王の宣言により厳粛な空気を纏ってその会議は始められる———はずだった。
「はずだった」というのはつまり、始められる事は無かったという意味だ。
否、正確には議題が即座に別の物へと切り替えられたと言うべきだろう。
ではその新たな議題を提示したのは誰か。
そんな事は、わざわざ考えるまでもない。
この時、この瞬間にそんな行動を起こす者など、一人しか思い浮かばない。
「その前にちょぉ〜っといいかな、親父殿」
「……またお前か。お前が言おうとしている事は、今この場で開会に水を差してまで論じなければならん事なのか? この会議がこの国の命運を握っているという事を、改めて肝に銘じさせなければならんか?」
「あるさあるさ大有りさ。この国の命運ってんなら何より真っ先に論じなきゃならない議題だぜ。即ち———」
さも大仰そうな口ぶりで傲岸に見下しながら、彼———第二王子は王を見据える。
「王が本当にこの国の頂点に立つに相応しい者なのか否か、ここでハッキリさせようじゃねーか」
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「……フン、何を言い出すかと思えば」
ほとんどが一斉にざわつく中でしかし、王は余裕の表情———見下されていたはずが逆に更に高みから見下ろすように言った。
その辺りの威勢は、やはり王の器と呼べるだろう。
「昨夜の話の焼き直しか? 言っただろう、お前にこの座を譲る気は無いと」
「あー譲るね、おしいおしい。確かに当初の予定では譲られるつもりだったけど、それはもう諦めた。諦めた代わりに、アンタにその座を力尽くで空け渡させる事にしたよ」
「……何だと?」
「この場で決を採ろうって言ってんのさ。アンタがこの国の王に相応しくないと思う奴が過半数以上いれば、さっさとその愚鈍なケツを退けろっつってんだ」
ピキリ、と血管の浮く音が聞こえたような気がした。
少なくともそれほどに分かりやすいくらいには、見事に挑発に乗ったようだった。
「……調子に乗るなよ愚図が……!」
憤怒のこもったその怒声は、気の弱い者ならあっという間に萎縮してしまうほどのすごみを持っていた。
事実、何人かはそうなっている。
しかし当の本人はと言うと、それを真っ向から受けてなおヘラヘラと笑っている。
「えらくあっさりキレるじゃねーかよ親父殿。何をそんなに焦ってんだ?」
「お前の愚かさに呆れ返っているんだ。そもそもお前がどんな手を打とうと、現状この国の最高権力者はこの俺だ。いくらお前が四大貴族共と手を組もうと、俺が頷かん限りどんな決議も通る事は無い」
「あら、バレてた?」
「当たり前だ。第一、四大貴族程度で俺の力を越えられると思ったのか」
「ふ〜ん。『力』、ねぇ……」
同盟を見破られたにもかかわらず、依然として余裕の態度は崩れない。
まだ隠し玉でもあるのか、あるいは……。
そんな僕の疑問を解消するかのように、彼は答えを口にする。
「同盟を見破ったっつーのは素直に褒めてやるよ、アンタにしては上出来だ」
欠片もそう思っていない口調で乾いた拍手を鳴らす。
当然それに続く者はいない。
「けどそれは別に権力のためって訳じゃねー。そもそも多数決でアンタを引き摺り降ろせるなら、わざわざ手を結ぶまでもなく満場一致でアンタの不信任だ」
「……どういう———」
「いや実際目の付けどころは良かったんだよ。ただ俺が四大貴族に求めたのは、力は力でも権力じゃなくて戦力だ。つまり」
言葉と同時、周囲の兵士が一斉に武器を構える。
標的は勿論、ただ一人。
「お前……っ!」
「革命の、始まりだ」
ユラリと立ち上がり、とびっきり歪んだ笑みを見せる。
対照的に王の表情は何とも形容しがたい複雑な、しかし確実に負の感情で埋め尽くされた顔を浮かべている。
「言ったろ? 力尽くで空け渡してもらうってよ」
キリが良かったので短いです。いえ、言い訳とかじゃなくて。
あとどうでもいいですけど、閑話以外でサブタイの台詞が主人公じゃないのは初です。主人公に台詞が無かっただけなんですけどね。




