第五三話:「初耳なんですけど……」
僕が王女と戯れ合い———もとい、ベッドの上で親交を深め合っていた頃。(別に変な意味じゃない)
王宮の最奥部、王の私室でこんな事があったそうな。
「よぉ、親父殿」
「何だ。お前如きが他人の部屋に勝手に押し入って、身の程を弁えろ」
「おいおい他人って、実の息子だろ? 冷てーなぁ」
「……まぁ良い。それより何の用だ? 俺は忙しいんだ」
「忙しいって、親父殿がかよ。何もやってねぇ癖に———あー嘘嘘、そう盛んなって」
「ただの雑談のつもりなら別の者としろ。お前の暇潰しに俺を付き合わせるな」
「……チッ、相変わらずつまんねーの。まいいや、んじゃ手っ取り早く結論から言うぜ。アンタが呑気に座ってるその座を今すぐ俺によこせ。そうすりゃ命までは取らねーよ」
「……前提がそもそも狂ってるな。俺はお前なんぞにこの座を譲る気は無い。それより、俺の前でそんな事を言って良いのか? 今この場でお前を殺す大義名分が出来たぞ」
「だから気が早えーって。つーか、こんな事を言いに来といて俺が何の準備もしてねーとでも思ってんのか? まぁ何もしてねーけど」
「……さっさと失せろ。お前のその愚かさに免じて、今回だけは見逃してやる」
「へーへーそりゃどーも。じゃーまた明日な、親父殿」
おおよそ仲が良いとは感じられない———どころか、とてもじゃないが親子で交わされたものだと思えないこの会話をもって、争乱の火蓋は切って落とされた。
そして翌日———。
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雲一つ無い快晴———ではないけれど、一面雲に覆われている訳でもない、まぁギリギリ晴天と言っていい天気だろう。
だからと言って僕のテンションが上がる訳ではないが。
むしろ若干下降気味かもしれない。
昨日は柄にもなくはしゃいじゃったからな、うん。
「ほら早くしなさいよ。遅れちゃうでしょ!」
……どうして王女の方がテンションが高いのだろう。
心なしか肌ツヤが良くなってるような気もしないでもない。
「と言うか、あなたはともかく僕らがついていく必要はあるんですか?」
「義務は無いけど権利はあるわ。一応アナタ、私の師匠って事になってるし」
あぁ、そういえばそんな設定もあったなぁ……。
「それに必要だってあるわよ。いつ起こるか分からないクーデターを阻止するのに一番確実で手っ取り早い方法は、王宮に入っちゃう事なんだから」
「……まぁ、正論ではありますね。でもよっぽどじゃない限り、あくまで部外者の僕らが中に入るのは難しいんじゃないですか?」
「それも大丈夫よ。間近に控える領主会議の事前準備も含めての定例会が今日はあるから」
「なるほど、それで僕はあなたの護衛として潜入する訳ですか。あれ、でもそうすると……」
僕の言いたい事を察したのか、斜め後ろを追従していた黒装束の彼女が口を開く。
「私ならば問題ありません。私などが務めるのは不本意でしょうが、我が主の付き人として参りましょう。最悪、強行突破も止む無しとはなりますが」
「それは本当に最悪ですね」
僕どころか王女も巻き込んでの、王家からの印象が悪化するだろうからなぁ。
何とか言い包めるか押し通すしかないか。
「まぁその辺りは別に気を張る事も無いわよ。前例だって無い訳じゃないし」
王女はその点は特に心配している様子はなさそうだ。
それを鑑みるに、わざわざ不安材料を増やして事態を重く見る必要はなさそうだった。
そうこうしているうちに王宮へと辿り着く。
最早勝手知ったるとばかりに堂々と正門から入る辺り、僕も大概だなと思わなくもない。
その間にも王女はどんどんと先へ進んでいく。
けれどどうやら向かっているのは以前行ったあの大広間では無いらしい。
「これどこに向かってるんです?」
「専用の会議室よ。謁見室よりは狭いけど参加人数分くらいの余裕はあるし、設備も一通り揃ってるわ」
「参加人数って何人ですか?」
「一〇〇人くらいじゃない? もっとも、大半は護衛のための兵だけどね」
結構多いな。
というかその人数が収容できるって、充分に広いと思うけど。
二〇分ほどかけて(やっぱりこの時間はおかしくない? 空間歪んでるの?)会議室と思われる部屋に到着する。
王女が少し重たそうに扉を押し開けると、既にそこには大勢の人が待っていた。
その内の一番上座に座っていた人物が口を開く。
「遅い。一体何をしてい……た」
僕を見て一瞬言い淀んだが何とかこらえたようだった。
「申し訳ありません、準備に手間取りまして」
姿勢を下げ顔を伏せる王女。
彼の位置からでは見えないだろうが、僕には王女が薄く笑っているのが分かった。
……まさかこのために僕を呼んだんじゃないだろうな。
まぁ確かに、牽制としての効果は抜群だろうけどさ。
「……まぁ良い、さっさと席に着け。それと部外者の立ち入りは———」
「部外者ではありません。彼女達は私の警護の者です」
「……フン!」
喰い気味に言ったのが琴線に触れたのか、恨みがましげな目線で王女と僕を順々に見やる。
一二〇パーセントの営業スマイルを返してやると、より不快そうに顔をしかめて逸らした。
王女が残る二つの空席の片方に座ると、僕らもその背後に控えるようにして立つ。
改めてぐるっと周りを見渡すも、知っている顔はほとんど見られない。
王と王女を除けば、第一王女とメイドさん、玄武館の人達くらいか。
というか、彼女達もこういう集会に出席するのか。
まぁ出席するだけなんだろうけど。
が、いつまで経っても最後の一席が埋まる気配がない。
「あの女狐はまた不参加か……!」
「仕方ありませんな。あれに期待する方が愚かというものです」
どうやら最後の人物はサボりの常習犯らしい。
「誰なんです、残りの一人は?」
「アナタもよく知ってる人よ」
はて、誰だろう。
この世界で僕の知り合いなんてかなり限られ———あぁ、あの人か。
「災難でしたね、マスターが要人の一角だなんて」
「実力が確かなだけになおさらよ。全くもう……」
「にしても女狐って、中々酷い言い草ですね」
人の事言えない、とは誰も言わないからセーフ。
「そう呼ぶのはあそこにいる連中だけだけどね。世間的には二つ名———というよりはあれは通り名というべきかしら、そっちの方が通りが良いわ」
「何ですかそれ、初耳なんですけど……」
「まぁ自分から進んで吹聴するような物でもないでしょうしね。聞かれたら嬉々として答えそうではあるけど……。っと、この話は後で良いかしら」
「僕はいつでも構いませんよ」
僕らが話を切り上げた所で、その場にいた全員の注目が一点に集まる。
それが己に向けられているのを堪能しているかのように焦らしたあと、王はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ではこれより今期定例会、及び領主会議での我々の方針についての会議を始める」
話も筆も進まない……。
スランプでしょうか? いいえ、いつもです。




