第五一話:「罰は当たらないだろうに」
「……じゃあ、僕はちょっと寄る所ができたので」
「はぁ、引き止めは致しませんが……」
何か言いたそうにしているので、動きを止めて様子を見る。
「御嬢様の事は放っておいてよろしいのですか? 合成獣と分かった今、貴女が殺すのに躊躇う道理は無いかと思われますが」
「人を快楽殺人者みたいに言わないで下さいよ……」
むしろあんな事は二度と———いや、一度だってやりたくないってのに。
「あなたのその献身的な愛情に免じてこの場は見逃します。ただ、放っておくつもりはありませんよ」
「……そう、ですか」
……そんな声音は出さないでほしい。
ブレまくった末にようやく固まった決意が、あっさり揺らいでしまう。
「この件が片付いたら、またその時に改めて」
「承知しました……。お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
似たような事を、さっきも言われたっけ。
どうして僕の周りはこう、誰も彼も心配性なんだろうか。
その優しさを少しくらい自分に向けたって、罰は当たらないだろうに。
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さて、僕は今とある館の中にいる。
それがどこかという質問に対しては、そもそも僕が訪ねられる建物が限られており、それに現状を加味すれば自ずとどこにいるかの答えは出よう。
四大貴族が一角、北方の守護者玄武館。
あの生意気なガキ———もとい、ご子息と向かい合う。(生意気については撤回する気はない)
「数日ぶりだな。風邪でもひいてたのか?」
「えぇまぁ、概ねその通りですよ」
実際はもう少し大変な事になってたけど。
「おいおい、そんな心掛けじゃあいつまで経っても一人前の召使いにゃなれねぇぞ」
「なりませんよ。というかいつ僕があなたの召使いになったんですか」
「なってなかったのか?」
「こっちから願い下げです」
底意地の悪そうな笑顔を浮かべてこちらを見つめる。
相変わらずお元気そうな事で。
「それはともかくとして、今日はそんな話をしに来た訳じゃないので」
「だろうな。聞きたい事がたくさんあるって顔してるぜ」
一転表情を戻し、真面目な顔つきになる。
「近々クーデターが起きるという話に付いて、あなたは何か知ってますか?」
「クーデター? いや知らねえが……。あぁでも、成程な、そういう事か」
「心当たりがあるようですね」
「別に心当たりってほどでもねぇよ。ただ、ここ最近屋敷がやけに慌ただしいと思ってたら、そういう訳だったのかってだけの話だ。噂で聞く所によると、他の三家でも同じような状況らしいしな」
至極つまらなさそうに語る彼を見やりながら、僕は考えに耽る。
「……ちなみに、具体的に何をしてるとかは分かります?」
「さぁな。ジジイはあの通り秘密主義だからよ、引きこもりの俺には何やってるかなんざさっぱりだ」
「そうですか……」
「悪いな、大して力になれなくてよ。俺がもうちょっと年喰ってりゃそれなりに情報網もあったんだろうが、何せ見た目は立派なお子様だからな」
「いえ、事実確認が取れただけでも収穫ですよ」
とは言うものの、少なからず彼を当てにしていたのは確かだ。
あわよくば戦力などを把握したいと思っていたが、どうやらそれは高望み過ぎたらしい。
「まぁ何か分かったらこっちからも連絡してやるよ。期待はあんましない方が良いけどな」
「心に留めておきますよ。ついでにもう一つ聞いても良いですか?」
「いいぜ、俺に答えられる事ならな」
「あなたのお父さんは言うまでもなく反乱側に付くんでしょうけど……。あなた自身はどちらに付くつもりなんですか?」
「……ハッ、わざわざ聞く事かよそれ」
的外れな質問に拍子抜けしたのか、思わず笑みをこぼす。
僕としては結構重要な質問だったんだけど。
「ジジイが反乱側に付くってんなら、必然的に俺もそっち側になるんだろうよ。俺としちゃあそんな面倒な事にはなるべく関わりたくねぇから、出来る限り傍観者に徹するつもりだけどよ」
「そうですか、それは安心しました」
「何でお前が安心するんだよ」
「それはそうでしょう。僕だって知り合いと剣を交えたりなんかしたくないですよ」
「……へぇ、じゃあお前は現王側に付くってのかよ」
「いいえ、僕はどちらに付く気もありませんよ」
さすがにこれには呆気にとられたらしく、あんぐりと口を開けたまま固まった。
「……どっちにも付かないって、じゃあ何か? お前は俺以上に傍観者に徹する腹積もりなのか?」
「まさか。こんな物騒な事態が目の前で起こるってのに、何もしない訳ないじゃないですか」
「何もしない訳ないって、じゃあお前まさか……!」
どうやら僕のやろうとしている事が分かったらしい。
彼の辿り着いた結論を、僕はそのまま口に出す。
「どちらでもない第三勢力として、この争いを終わらせます」
その時の彼の様子を言葉にするなら、『絶句』の一言がピッタリだろう。
数分ぐらいはそのままでいただろうか、不意に我に返ると、
「ク、ククク、クハハ、ハハ、ハハッ、アハハハハハハハハッ!」
「どうしました? ついに壊れましたか?」
「壊れてんのはお前だろ! ハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
ひとしきり哄笑を上げると、笑いすぎたのか目に涙を溜めながら彼は言う。
「やっぱ最高に面白えぜ、お前」
「それはどうも」
もう少しで一周年です。
当日に更新できたらなぁとか思ったり思わなかったり。




