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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第三章
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第四二話:「本当に僕は、駄目な人間だ」

 朝。

 空を見ると、不気味な色に淀んでいた。

 灰色の雲が宙を覆い尽くし、生温い空気が辺りを吹き抜ける。

 こんな日は部屋に閉じこもり、日がなゴロゴロすると相場は決まっているのだ。


「本日の予定はいかがいたしますか? 我が主」


 ……うん、君が空気を読まない娘であるという事は承知していたよ。

 あなたは休憩するという概念を知らないのかな。

 とは言えこうして改まって言われてしまった以上、考えなければいけないか。


「あ。じゃあ城に行かない?」


 王女が突然声を上げる。


「僕は別に構いませんけど。あの修行部屋にでも行くんですか?」

「ううん、そうじゃなくって。久しぶりにお姉ちゃ……、お姉さまに会っておきたいなって」

「お姉さん?」



===============



 という訳で、僕らは一路王宮へ向かった。


「……小さい頃はよく遊んでもらってもらってたんだけど、色々あって遠ざかっちゃってね。ここ数年は、たまに顔を合わせるくらいなの」


 王女の声をBGMに、僕らは王宮の廊下を歩く。

 ……これは悪意を持って言ってる訳じゃない。

 ただ、すれ違う人皆が皆、僕をじろじろ見て来るのが落ち着かなくて話が耳に入って来ないというだけだ。

 え? それはそれで普通に酷いって?

 仕方無いじゃないか。慣れないものは慣れないんだ。


 というか、僕がこうして廊下を歩いている事自体が既に驚くべき事だろう。

 何だかんだでうやむやになっている気が(僕の中では)あるけれど、先日やらかしてしまった出来事を考えれば、今ここで衛兵達に縛り上げられてもおかしくはない状況なのだ。

 別に反省も後悔もしてないし、あっさり捕まる気もないけどね。



 と、一〇分ほど歩いていた所であのメイドさんに遭遇する。


「これは皆様方お揃いで。本日は何か御用の程がお有りでしょうか?」

「お姉さまに会いたいのだけど、今は起きてる?」

「つい先程起きられた所です」

「そう。じゃあ案内お願いするわ」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」


 そう言って僕らを促す。

 それに先導されて進むと、正面に扉が見えて来た。

 そこは、豪華と言えば豪華なのだが、前に見た他のと比べると随分と質素に僕の眼には映った。

 扉だけでなく全体の雰囲気も、どことなく寂れた印象を受ける。

 まぁこれだけ広ければ、一つぐらいはこんな空間があっても不思議ではないか。

 あるいはこの部屋の主である、王女が言う所の『お姉さま』が、そういう華美な装飾に興味が無いとか。

 僕としては、こちらの方が落ち着くので良いんだけど。


「お嬢様、失礼致します」


 コンコンと扉をノックしてから開ける。

 返事を待たなくていいのかと思ったけれど、それぐらいの信頼はあるという事かなと一人で納得しておく。

 扉の中は薄暗かった。

 魔法などといった人工的な光は一切存在せず、窓からうっすらと差し込んでくる日の光だけがその部屋の光源だった。

 ましてや今日は曇り空である。太陽光などろくに入っては来ない。

 けれど部屋の住人は、そんな事など気にも留めていないようだった。

 窓の傍の丁度光が差し込む位置で安楽椅子に腰掛け、まるでそこが定位置だとでも言わんばかりに動く気配がなかった。


「お嬢様、第三王女様とそのお連れの方がお見えになりました」


 第三王女、という単語に反応してか、ゆっくりと顔だけを動かしてこちらを向く。

 その顔は、血族というだけあってか非常に似ていて、そして綺麗だった。

 王女があの年齢まで成長すればあんな風になるだろうと、そんな予感を抱かせるほどに彼女達は似ていたのだ。

 当の本人は、純粋な瞳でこちらを見つめ続ける。

 ともすれば引き込まれてしまいそうなほど美しいその眼でたっぷり十秒ほど僕らを眺めた後、頬に手を当てて小首を傾げ、また元の体勢に戻ってしまった。

 その行動に、僕は違和感を感じる。

 それはまるで、僕らが誰か分かっていないように思えた。

 いや、それはある意味当然といえば当然なのだが、そうではなくて面識のあるはずの———どころかとても親しい仲であるはずの王女やメイドさんまで、それが誰だか認識できていないような……。

 言うならばそれは自我の形成されていない産まれたての赤ん坊のような反応だ。

 例え話とはいえ、僕のこの見立ては大きく外れているようには思えない。

 何か言い知れぬ不安感が、僕の心の中に渦巻く。


「ご無沙汰しております、お姉さま。久しぶりにお話でもいたしませんか?」


 王女は恐る恐るといった調子で、ゆっくりと部屋の中へ踏み込んでいく。

 それは誰かに遠慮しているような、そんな仕草だった。

 まぁ誰かと言うなら、僕らは間違いなくその中に含まれているんだろうけど。


「あの……」


 メイドさんが、僕らに小声で話しかけてくる。


「何ですか?」

「もしよろしければ、お嬢様方を二人きりにしてさしあげてはいただけないでしょうか」


 軽く頭を下げてくる。

 その動作と言葉だけで、彼女の言わんとしている事は理解した。

 疎遠になっていたとはいえ、血の繋がった実の姉妹だ。

 久々の再開だ、姉妹水入らずで話したい事もあるだろう。


「分かりました。では僕らは外に出ていましょうか」

「私も我が主と同意見です」


 うん、君がそう言うであろう事は大体予想できていた———と言いたい所だが、これに関しては多分、彼女も自分の意志で決めただろう。

 それぐらいの気配りは、彼女もちゃんと出来ているという事だ。


「ありがとうございます」


 顔を上げてそう答えるメイドさん。

 そして、王女達の方に向き直ると、


「私達は少々失礼致します。お帰りになられる際はお声掛けを」


 と言って、二人を中に残して扉を閉めた。

 それに背中を預けるようにして寄りかかると、微かに王女の声が聞こえた。


「……でねお姉ちゃん、さっき扉の前にいた二人が私の新しい……、うーん、友達……なのかな? 二人とも、私なんか足下にも及ばないくらいすっごく綺麗で強くて格好良くて……」


 王女は話し続けるも、それに対する返事は一切無い。

 それでも王女は明るく努めようとしている。

 それが精一杯の虚勢である事が、数日の付き合いの僕にも分かるくらいに空しく、弱々しく響く。

 それはまるで、記憶喪失となった人に、昔の思い出を語りかける口調で。

 思い出してほしい、自分を分かってほしいと思いながら、心のどこかで諦めている。

 そんな王女の心情が、ありありと伝わって来た。

 同情するのは筋違いだし、そんな事が出来る立場でもないという事など充分理解している。

 けれどそれでも、彼女達を哀れだと思ってしまった。

 何が出来る訳でもないだろうに、何とかしてやりたいと思ってしまった。


 ……あーあ。本当に僕は、駄目な人間だ。

 駄目で愚かで、人の事なんか言えないぐらいに弱い人間だ。

 あと五分もこの場にいれば、多分泣き崩れてしまうぐらいに弱くて脆い。

 本来ならば、今すぐにでもここから離れなきゃいけないってのに。

 それなのに、傍にいたいって思っちゃうんだから。


「……少し、付いて来ていただきたい所があります」


 そんな気配を察してか、あるいはただの偶然か、メイドさんがそう声を掛けてきた。

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