第三八話:「期待せずに聞いてくれ」
良い機会なので、今日は僕の話をしようと思う。
と言っても、そんなに長くはならないはずだ。
僕が語る昔話に、強調して話すようなイベントなど殆ど存在しない。
強いてあげれば、僕と、あの女神の出会い以降だろう。
だからこれは、過去編というよりは回想という方が適切だ。
感動的な出来事も、悲劇的な出来事も存在しない。
極ありきたりで平凡な僕という少女の産まれてからの十数年と、何かが間違ってしまった後の数年。
それでは、期待せずに聞いてくれ。
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僕は、とある普通の一般家庭に生まれた。
両親の不仲や、まして不在なんて今時の漫画やドラマにありがちなお涙頂戴展開なんて無い、ありふれた家族だった。
そんなありふれた家族の中で、僕はすくすくと順調に育つ。
普通に幼稚園を過ごし。
普通に小学校に入り。
普通に中学校に上がり。
普通に高校に進んだ。
けれどその普通は、そこで途切れた。
高校生になったある日。
何の前触れも無く、何の前兆も無く、突然に、唐突に。
女神を名乗る彼女が、僕の前に現れた。
後は皆さんの想像通りかくかくしかじかあって、僕は初めての異世界へと旅立った。
最初の異世界は、丁度今いる世界と同じような、中世風のファンタジー世界だった。
そして。
僕はそこで初めて『別れ』というものを、『死』というものを経験する。
何分、今までこれと言って大きな波風の立たなかった僕の人生だ。
両親は勿論、祖父母もバッチリ健在である。突然の事故や病気さえなければ、少なくとも僕の成人までは余裕で持つだろう。
曾祖父母はとっくに他界。僕は顔すら覚えていない。
親類縁者は、お盆や正月になれば集まって、語り明かして飲み明かしている。(勿論、僕を始めとする未成年組は飲んでいない)
だからそんな僕が、人の死なんていう重過ぎる現象に耐えることなど、到底出来るはずが無かった。
そして事実、それは不可能だった。
何とかその世界は救えたものの、僕は精神に大きなトラウマを負い、その影響で僕はしばらく塞ぎ込む事となった。
女神様が言うには、僕のような症例はよくある事だそうだ。
よっぽど適応能力が高いか、普段からそういう事に慣れ親しんでいなければ、当たり前のように起こり得る事なんだとか。
そしてそれは、経験とともに薄れていくものらしい。
それでも一応、あの人は空気が読める人なので(あるいはただのお人好しか)、しばらくは僕に世界救済の要請をしては来なかった。
そして僕のトラウマが治ったと思われた頃、再びあの人は僕を呼び出し、僕もそれに応じた。
ただそこで、僕にとってもあの人にとっても誤算だったのは、僕のトラウマは治ってなどいなかった、という事だろう。
トラウマは、治るどころか更に悪化し、僕の心の奥深くに根ざしていた。
思われていたのはあくまで思われていただけであって、現実には程遠い。
そして訪れた二つ目の異世界。
文明のレベルが地球より遥かに進んだ近未来。
そこで僕のトラウマは再発し、それは酷い有様となった。
結局、僕はその世界を救う事なく、崩壊を待たずして元の世界へと帰還する事となった。
後に聞いた所では、別の勇者が奮闘して救済に励んでいるそうだ。
まぁ、こんな僕にあの世界を気にかける権利なんて無いんだけどね。
あの人がいうには、僕は『死』やそれに準ずる物への耐性が極端に低いのだそうだ。
今は多少改善して(と言えるかは微妙だが)、人でなければ耐えられるようにはなっている。
しかしその分反動として人、特に仲間内や身内に対しては行き過ぎる程に過剰な反応を見せるようになった。
だから僕は、極力人を遠ざけるようにした。
近付いてくる者にはとりあえず悪意を振り撒く。
無関係ならば無関係のまま関係を終わらせる。
そうやって、ゲームでいう所のソロプレイを僕は行っていたのだ。
けれど、どこの世界にもおせっかいという人種は存在する訳で。
人がわざわざ嫌われようとしているのに、全く意に介さず、あっさりと境界線を踏み越えてくる人達。
しかもそういう人達に限って、ぼくの行く先々で現れ出て来る始末だ。
まぁそんな彼ら彼女らに、徹頭徹尾敵意を向け続ける事が出来ない僕自身にも、責任の一端———というか半分ぐらいはあるんだけどね。
……所詮これも、自分の弱さに対するただの言い訳でしかないか。
回想終わり。
以上が、僕という人間を形作っている短い生涯のほんの一欠片だ。
この程度で僕の事を知り尽くしてほしいとは言わないし、この程度で僕の事を知り尽くしたと言われたくもないが、僕を構成している大部分の要素はこの話で語り終えただろう。
まぁまた機会があれば、もう少し詳しく話す事にしよう。
今回はこの辺で、幕を下ろさせてもらう事にする。
これで何とか前回の主人公の行動の理由付けは出来たと思います。
だからお気に入りから削除するのは止めて下さい(懇願)




