第三六話:「結構気に入ったので」
「お帰りなさいませ、我が主」
「お帰りなさい」
戻って来た僕に、彼女達はそう声をかけてくる。
「ただいまです。二人は休憩できましたか?」
「はい、私は充分疲れは取れました」
「私も大丈夫よ」
「そうですか。なら始めましょう」
腕を伸ばしながら、僕はそう言う。
「どっちから先に来ます? それとも一度に纏めてやりますか?」
「いえ、私から参りましょう。異論は無いな?」
「分かってるわよ……」
王女は渋々ながら同意した。
僕が向こうに行ってる間に、二人で話し合ったんだろう。
まぁ、僕はどちらでも良いんだけど。
「じゃ、行きましょうか」
僕は神殿に向かって歩き出す。
すぐ後ろに彼女が、少し距離を取って王女が僕の後を着いて来た。
===============
戦闘が終わった訳だけど。
……まぁ、結果から言ってしまえば。
僕の圧勝。
二戦とも。
「……何なのよアナタ……。ぶっ飛んでるにも、程があるわよ……」
「まさか、一太刀も浴びせる事が出来ないとは……」
「ア、アハハ……」
辺りに僕の乾いた笑い声が響き渡る。
いやもう、ホント何かすみません。
一応フォローさせてもらえば、彼女達は決して弱くない。
二人合わせれば、副マスターぐらいの実力はあるだろう。コンビネーションをしっかりすれば、恐らくそれ以上になる。
ただ、僕がそれ以上だったというだけで。
そんな訳で、僕は地面に倒れてる二人を眺めてる状況だ。(約一名、恍惚そうな表情を浮かべている人がいた気がしたが、僕は何も見ていない)
とは言え、いつまでもこうしている訳にはいかないので、二人を起こす。
「そろそろ起きて下さい。この後どうするにしても、寝転がったままじゃ何も出来ませんよ」
「う〜ん、あと少し……」
学生の朝か。
という事は僕がお母さん役か。
……キャラじゃないな、うん。
「いつまでそう言ってるんですか。全く……」
「あと半日ぐらい……」
「さて、僕はそろそろ宿に戻りましょうかね」
「わー嘘嘘! 冗談! だから置いてかないで!!」
「……ハァ」
僕は軽く溜息を吐く。
本当に、面倒だ。
「ほら、どうぞ」
そう言って、僕は王女に手を差し出す。
「……何よ」
「掴まって下さい。僕が背負っていってあげますから」
「な……、だ、誰がそんな恥ずかしい事!」
「嫌なら良いですよ。恥ずかしいのは僕だって同じなんですから」
一体何が悲しくて、小さな女の子を背負っている姿を衆目に晒さなければいけないんだ。
むしろ僕はされる側でしょ。乙女心舐めるな!
「分かったわよ。されれば良いんでしょ、されれば!」
口ではそう言いながらも、どことなく嬉しそうな雰囲気だったのは見間違いじゃないな。
「あなたはどうですか。流石に二人はキツいと思いますけど」
僕は彼女の方に問いかける。
彼女は、少しふらつきながらも立ち上がると、
「いえ、私の事はお構いなく。我が主にご迷惑をおかけする訳には参りませんので」
と答えた。
どうやら、歩ける程度までは回復したようだ。
僕としても、そっちの方が助かるのでありがたい。
「……何故アイツばかり……。私だって我が主の……」
何かブツブツ聞こえてくるが、気にしないようにしよう。
僕は王女を背負い、出口へ向かって歩き出した。
===============
外(中?)へ出ると広場の入り口に、僕らの案内をしてくれた侍女の彼女が立っていた。
向こうもこちらに気付いたようで、軽く会釈をしてくる。
僕も会釈を返すと、彼女の方へ歩いていく。
「どうしてここにいるんですか? 第一王女様の所へ行ったのでは?」
「貴女方がそろそろ戻られる頃かと思いまして、お迎えに上がりました」
それはそれは。
何とも優秀なメイドさんでいらっしゃる。
「あれ? でも第一王女様の世話は良いんですか?」
「それほど長い時間でなければ、席を外していても問題はありません。それに、付き人は私だけではありませんので」
「へぇ、そうなんですか」
まぁそれもそうだろうね。
一国の王女に付き人が一人しかいないというのも、考えてみればおかしな話だ。
そういう意味では、今僕が背負っている方の王女が異端という事か。
「じゃあまた案内をお願いします」
ここは何度通っても、道を覚えられる気がしないからね。
「かしこまりました」
彼女は踵を返すと、広場を出て長い廊下を歩いていく。
その背中を追いかけながら、僕は彼女に声をかける。
「これからも度々ここに来ても良いですか? ここ、結構気に入ったので」
「承りました。王宮の者達には話を通しておきます」
「ありがとうございます」
「ただ、私も毎回手が空いているという訳ではありません。どうしても外せない用事がある場合、他の者を代わりに行かせる事になりますがよろしいですか?」
「あぁ、それぐらいなら別に全然構いませんよ」
その後は特に会話をする事もなく、何十分という時間をかけて門の所まで戻って来た。
途中で王女を置いて行こうかとも思ったが、本人が反対したのでそのまま連れて来てしまった。まぁ意識は何とか保っているようなので安心した。
門を出た所で、付いて来てくれた彼女にお礼を言うと、僕らはギルドへと歩き出した。




